試練の森
村の外れに、その森はあった。
地図には書かれていない。
けれど村人は皆、同じ呼び方をした。
――色を吸う森。
「名前からして嫌な予感しかしない」
ルミナは、森の手前で立ち止まった。
木々は生い茂っているのに、
葉の色はくすみ、
幹も土も、どこか生気がない。
触れれば色づくはずなのに、
なぜか手が伸びなかった。
「……ねえ」
後ろを振り返る。
無色の少女は、森をじっと見ていた。
逃げない。
でも、近づきもしない。
「ここ、怖い?」
返事はない。
それでも、
少女の輪郭が、わずかに揺れた。
――肯定。
「……そっか」
ルミナは苦笑する。
「じゃあさ、
なおさら行かないとだよね」
自分でも、無茶だと思った。
でも、
この森は明らかに“異常”だった。
◆
一歩足を踏み入れた瞬間。
ぞわり、と
皮膚の表面が冷える。
「……うわ」
木々の影が、歪んで見えた。
光が、沈む。
色が、薄れていく。
「……吸われてる?」
ルミナが触れた木は、
一瞬だけ色づき――
次の瞬間、元に戻った。
「……無効化?」
能力が、通らない。
(そんなの、聞いてない)
背後を見る。
無色の少女は、
森の中ではっきり見えた。
輪郭が、濃い。
「……逆だ」
この森では、
無色の存在ほど安定する。
「つまり……」
ルミナは、嫌な結論に至る。
「私が邪魔?」
答えるように、
森の奥で、何かが動いた。
音はない。
でも、圧がある。
「……敵、だよね」
姿のない“何か”が、
ルミナに近づく。
空気が、重い。
足が、すくむ。
そのとき。
無色の少女が、
初めて――
ルミナの前に出た。
「…………」
守るように。
「……ちょ、待って」
慌てて声をかける。
「それ、役割逆だから!」
少女は、振り返らない。
代わりに、
その輪郭が、揺れ――
森の“何か”が、
一瞬、止まった。
「……え」
無色の少女は、
この森と“同じ側”だった。
色を失った存在。
世界に拒絶されたもの。
だからこそ、
この森は彼女を拒まない。
「……そんな」
ルミナは歯を食いしばる。
「それじゃあ、
あなたがここにいる限り……」
――私は、弱くなる。
森が、ざわめいた。
「……戻ろう」
ルミナは、少女に向かって言った。
「ここは、今は無理」
少女は、少しだけ迷ってから、
ゆっくりと下がった。
森の境界を越えた瞬間。
圧が、消える。
ルミナは、その場に膝をついた。
「……初敗北だ」
笑おうとして、
上手くいかなかった。
背後で、
無色の少女が、静かに立っている。
――この世界は、
彼女を守り、
ルミナを拒んだ。
その事実が、
重く胸にのしかかった。




