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世界、ちょっと壊れてません?

ルミナは最近、確信していた。


 「……この世界、絶対どこか壊れてる」


 そう思う理由は、だいたい三つ。


 一つ。

 触れたものが勝手に色づく。


 二つ。

 誰も気づかない存在が、やたら多い。


 三つ。

 それを不思議に思う人が、ほぼいない。


 「いや、おかしくない?

 今そこ、影一個多かったよ?」


 市場の真ん中で言っても、

 誰も振り返らない。


 魚屋のおじさんは魚を捌き、

 果物屋のおばさんは値段を叫ぶ。


 世界は正常に回っている――

 正常なフリをしている。


 「……あー、はいはい。

 私だけバグ見えてるやつね」


 最近、あの無色の影は

 少し距離を保ってついてくるようになった。


 近づけば、消える。

 放っておけば、そこにいる。


 まるで、迷子の子どもみたいに。


 「……さすがに話しかけるのは

 変な人ムーブかな」


 そう思いながらも、

 ルミナは路地裏で足を止めた。


 人の気配が消える場所。


 「……ねえ」


 返事はない。


 でも、空気が少しだけ柔らぐ。


 「ここさ、見えてないだけで

 “落ちてるもの”多すぎなんだよ」


 影が、揺れた。


 それは同意の仕草みたいで。


 「私もさ、完璧じゃないし、

 全部直せるわけじゃない」


 言いながら、ルミナは苦笑する。


 「むしろ、

 直せない方が多いと思う」


 ふと、路地の奥に

 色の抜けた壁を見つけた。


 触れる。


 光が走る。


 壁は元に戻る。

 でも、完全じゃない。


 「……ほらね」


 少し色が欠けたまま。


 「世界ってさ、

 元に戻らないもの、結構あるんだよ」


 影は、黙ってそれを見ていた。


 ――前作で、

 “救われなかった理由”。


 この世界は、

 壊れたものを「なかったこと」にして

 前に進む。


 「……でも」


 ルミナは、小さく言う。


 「壊れたって事実まで、

 消す必要はないと思うんだ」


 その言葉に反応するように、

 影の輪郭が、ほんの一瞬だけはっきりした。


 色は、まだ薄い。


 でも、存在が強くなった。


 「……よし」


 ルミナは、無理やり明るい声を出す。


 「世界が壊れてるならさ、

 壊れてる前提で生きよ?」


 影は答えない。


 けれど、その日から――

 無色の少女は、

 ルミナのすぐ後ろを歩くようになった。


 誰にも見えない。

 それでも確かに、二人だった。


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