無色って……バグでは?
ルミナは森を出て五分で後悔していた。
「……やっぱり見なかったことにすればよかったのでは?」
さっき触れた“影”。
誰かがいたような、いなかったような、
でも確実に心だけ置いていかれた感じ。
ああいうの、大体ロクなことにならない。
「普通さぁ、ファンタジー世界ってもっとこう……
ドラゴンとか! 魔法学園とか! あるでしょ!」
なのに自分が引き当てるのは、
存在が未ロードみたいな少女とか、
感情だけ残ってるバグっぽい影とか。
不具合ガチャが渋すぎる。
ルミナは道端の石に腰掛け、
持っていたパンをちぎった。
その瞬間。
パンが、ほんのり淡い黄色に光った。
「……あ、はいはい。出ますよね、色」
彼女の能力は単純だ。
触れたもの、近くにあるものに“色”が宿る。
便利そうに聞こえるが、
現実はこうだ。
・洗濯物が勝手にカラフル
・食べ物が妙に美味しそうになる(味は普通)
・隠密行動が致命的に向いてない
「地味に嫌なんだよなぁこれ……」
愚痴りながらパンを食べていると、
不意に、背後がひんやりした。
――いる。
振り返る。
……何もいない。
「…………」
「……いや、いるでしょ今の」
空気だけが、少しだけ重い。
まるで、誰かが“見ている”感覚。
「……ねえ」
また、声をかけてしまう。
返事はない。
でも、さっきよりはっきりと
**“そこにある孤独”**を感じた。
「……無色ってさ」
ルミナは、少しだけ真剣な声で呟いた。
「世界の仕様ミスじゃない?」
本来あるはずのものが、
削除されて、取り残されて、
それでも消えきれなかった。
そんな感じがした。
――前にも、似た存在がいた気がする。
名前は思い出せない。
顔も、声も、もう曖昧。
けれど。
「……置いていかれるの、嫌だよね」
ルミナの足元に、
ほんの小さな色が落ちた。
灰色だった地面に、
淡い水色が滲む。
それは、救いと呼ぶにはあまりにも小さく。
けれど確かに――
無色の少女の“存在”が、
一瞬だけ、世界に認識された証だった。
「……うん」
ルミナは立ち上がる。
「バグならさ、修正するしかないじゃん」
軽口の奥に、
まだ自分でも気づいていない覚悟を滲ませて。
その日、世界はほんの少しだけ、
仕様通りじゃなくなった。




