それは救う力じゃない
ルミナは、自分の能力を整理しようとした。
見える。
感じる。
触れれば、共有される。
——それは本当に「救う力」なのか。
◆
古い書庫。
かつて“感応者”と呼ばれた者たちの記録が残されている。
「……思ったより、少ない」
棚を見渡し、ルミナは呟く。
記録はどれも短く、
最後まで書かれているものは、ほとんどない。
共通しているのは――
途中で姿を消していること。
「力が強すぎたから?」
「世界に嫌われたから?」
答えは、紙の隙間にあった。
擦り切れた一文。
> “彼らは救えなかったのではない。
> 救う役目を、背負わされすぎたのだ。”
ルミナは、息を止めた。
◆
次の頁。
> “感応とは、癒やしではない。
> それは『痛みを可視化する力』である。”
「……可視化」
理解が、繋がる。
自分の力は、
誰かを楽にするためのものじゃない。
“見えない痛み”を、
見える場所に引きずり出す力。
だから、
世界は歪む。
だから、
触れすぎると壊れる。
◆
「……私は」
独り言が、震える。
「救おうとしてたんじゃない」
終わらせようとしてた。
痛みを、
苦しみを、
無かったことに。
それは救済じゃない。
削除だ。
◆
書庫を出た夜。
無色の少女が、待っていた。
今までより、
少しだけ輪郭が安定している。
「……気づいた?」
「……うん」
ルミナは、頷く。
「私の力は、
あなたを楽にするものじゃない」
少女は、静かに微笑んだ。
「知ってる」
「……え?」
「だって」
少女は、視線を落とす。
「楽にしてくれる力なら、
私は、こんなに長く残ってない」
その言葉に、
ルミナの胸が熱くなる。
◆
「じゃあ、どうすればいい」
問いかける。
「私にできることは?」
少女は、少し考えてから答えた。
「……一緒に、痛がること」
それは、答えであり、呪いでもあった。
「あなたが感じたくないって思うほど、
私は、ちゃんと苦しんでた」
ルミナは、目を閉じる。
逃げたくなる。
でも。
「……それでも」
目を開く。
「私は、見続ける」
少女は、驚いたように目を見開き――
それから、ほんの一瞬だけ、色を帯びた。
◆
その夜、ルミナは確信する。
この力は、
誰かを引き上げるものじゃない。
沈むのを、隣で確認する力だ。
残酷で、
非効率で、
英雄になれない。
でも。
前作の少女が、
最後まで持てなかったもの。
「……一人じゃない」
その事実だけは、
確かに渡せる。
世界は、まだ救われない。
それでいい。
救われない世界で、
一緒に立ち尽くす覚悟が、
今、芽生えた。




