孤独の残業
夜は、音を増幅させる。
焚き火の爆ぜる音。
風が草を撫でる音。
遠くで鳴く、名も知らない生き物の声。
そして――
聞こえないはずの、感情の音。
「……眠れない?」
カイルが焚き火を見つめたまま言った。
「うん。
ちょっとね」
嘘ではない。
全部は言っていないだけだ。
無色の少女は、
焚き火から少し離れた場所に立っていた。
火の色が、彼女を照らさない。
「……ねえ」
ルミナは、小さな声で呼びかける。
少女は、反応しない。
でも、
空気が“沈んだ”。
その瞬間。
――視界が、歪んだ。
焚き火の色が消える。
音が、遠のく。
ルミナは、知らない場所に立っていた。
◆
白い部屋。
何もない。
色も、影も、音も。
ただ――
少女だけが、いた。
今よりも、はっきりした姿。
ちゃんと、色を持っている。
「……あ」
声をかけようとして、
喉が動かない。
少女は、誰かに話しかけていた。
でも、相手はいない。
「……大丈夫」
震える声。
「私、平気だから」
返事はない。
少女は、
何度も、何度も同じ言葉を繰り返す。
――聞いてほしい。
でも、迷惑をかけたくない。
その矛盾が、
胸を締めつける。
「……お願いだから」
少女は、泣かなかった。
泣くことすら、
許されなかった。
次の瞬間。
少女の色が、
剥がれ落ちる。
声が、消える。
存在が、薄くなる。
「……っ!」
◆
「ルミナ!」
肩を揺さぶられ、
現実に戻る。
焚き火。
夜。
カイルの焦った顔。
「急に黙り込んだぞ。
大丈夫か?」
「……うん」
震える息を整える。
「ちょっと、夢を見た」
嘘じゃない。
でも、夢以上だった。
視線を向ける。
無色の少女は、
そこにいた。
けれど――
震えている。
「……今の」
ルミナは、理解してしまった。
「これ、あなたの……」
過去。
前作で描かれた、
救われなかった時間。
「……ごめん」
理由は分からない。
それでも、口をついて出た。
少女は、初めて――
ほんのわずかに、顔を上げた。
色は、まだない。
でも。
孤独は、
確かに“共有された”。
世界はまだ、彼女を救っていない。
それでも。
この夜、
無色の少女は――
完全に一人ではなくなった。




