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05 級友と約束

クラスメイトがいっぱい出ますが覚える必要はありません。

友達Aとか友達Bって表記にするわけにはいかなかっただけです。

「おいすー、おはよう」


教室に入って挨拶をする。あの大掃除から一週間。特に変わったことはなく、いつも通りの生活を送っていた。


「おいす、ナルシー。ちょっとご報告があるんだよね」


「稲葉、どうした?」


いきなり声を掛けられた。稲葉は誰とでも分け隔てなく話す奴だが、今日はいつになく真剣な顔をしている。しかも周りにはクラスの男子連中がだいたい揃っている。喧嘩でもしたのかと思った瞬間――。


「私、稲葉健太郎はこの度、佐々木このみさんとお付き合いすることになりました!!」


思わず目を見開く。心配を返せと言いたいところだが、めでたい話には違いない。俺は笑顔を作って返す。


「おめでとう。佐々木さんって、あの図書委員の?」


「実は受験の時に知り合って……ずっと好きだったんだよ」


稲葉は照れくさそうに目を伏せた。なるほど、と俺は軽く頷く。


なんか、こういうのっていいな。


そう思った自分に、少し驚く。


稲葉は素直に好きな人に向き合って、関係を構築して感情を育てた。


俺には、そういうことができるんだろうか。


「へえ、意外だな。人見知りでほとんど喋るところを見られない佐々木とお前か」


道枝には言い方に気を使うという考えは無いらしい。


「おおぃ、まずはおめでとうでしょうがぁ。で、稲葉はもう佐々木さんとデートとかしたの?」


「まあ、軽くだけど。今日も、一緒に帰る約束はした」


案の定、額賀が口の端を上げてニヤリと笑う。


「そっかぁ、なるほどねぇ」


そこへ二見が勢いよく叫んだ。


「稲葉、俺らと遊びにくくなっちゃうってことかー!成島、どう思うよ?」


二見!お祝いムードだってのにこれまた面倒な……


役割的に適当な返事をするのはありえない。だが、今の発言に乗るのはなんか嫌だ。


いや、相手は二見だ。適当なギャグを振っておけば今の話題はどこかへ吹っ飛ぶだろう。


「……ダメだぞ、二見。ダメッダメー」


「ダメダメ!よいしょー!ダメッダメー!」


一人で踊り出す二見。俺は深いため息をつく。


「ナルシー!フタミンのスイッチ入れるなよ。こいつ長いんだから!」


稲葉は嬉しそうに笑いながら、二見をなだめる。


周囲の笑い声。


――これでいい、いい仕事をした。



「てかさ、みんなは彼女作んないの?ナルシーとかヌーさんとか女子ともよく喋るじゃん」


「いや、俺は……付き合うとかは全然。額賀は?」


「いやいやぁ、僕もないけどさぁ。成島はそりゃないでしょ?モテようとしてないもんねぇ」


……ん?俺は今、ものすごく失礼なことを言われた気がする。稲葉が引きつった顔をしているということは間違いない。


「額賀、俺はイケメンだからみんな遠慮してるだけで、モテてはいるぞ」


「それだよぉそれぇ。女子が好感得る前に自分で自分褒めちゃうじゃんかぁ」


クラスに笑いが広がる。


意図した笑いではないが、こうやって笑いを取ることで、俺の居場所は保たれている。


俺は肩をすくめて誤魔化したのだった。



昼休みの終わり、机を囲んでだらだら喋っていると、額賀が話題を上げた。


「でさぁ、結局みんなはどんな子がタイプなのよぉ?」


「どうした急に」


「ほらぁ、稲葉が付き合い始めたからさぁ。流れで聞きたくなるでしょお?」


名指しで話題のタネにされた稲葉は弁当箱を片付けながら苦笑いしている。意外なことに道枝が即答した。


「俺は信じるべき女神がいるからな」


「あぁ、道枝はそうだよねぇ」


額賀がうんうん頷く。


「二見は?」


「俺はぁ……料理が上手で飯の食い方キレイな子かなぁ!」


「飯の話しかしてねぇ!!」


一斉に突っ込みが飛ぶ。


仕方なく俺にも順番が回ってきた。


「成島は?」


一瞬、音羽の顔が浮かんだ。


――違う違う。


俺は慌ててその考えを振り払う。


「俺? 決まってるだろ?俺のこと好きな子――世の中の大半の女性になっちゃうかな?」


一瞬みんな黙った後、『成島ぽいわー』と笑い声が広がる。


「ナルシー、絶好調だね」


「そうだろ」


――これでいい。


ボケておけば、余計なことを聞かれない。


そうやってふざけ合っているうちに、チャイムが鳴った。


ざわざわと席に戻り、五時間目の準備が始まる。



国語の授業が始まってすぐのところで、教室の扉が開いた。


すうっと静かな気配をまとって、音羽美玲が入ってくる。


「音羽か……遅刻だぞー」


「すみません」


先生がちらりと腕時計を見る。


その一言だけで、迷いもせず空いている席に腰を下ろした。


特に悪びれた様子もなく、机にノートを広げる。


ヒソヒソと声が後ろの席から漏れる。けれど、まるで周囲の視線なんて存在しないかのようにいつも通りだ。この度胸だけは見習うべきかもしれない。


――そういえば。


音羽は最近欠席をしなくなった。それどころか遅刻すら回数が減った気もする。


一年生の時なんて会えれば一日ラッキーとか言われていた音羽が何か変わったのだろうか?


家が綺麗になったから気分が良くなったのかもしれない。



放課後。


帰り支度をしていると、ふと音羽と目が合った。何か話があるようだが、唇に指を当てシーっとジェスチャーを送り、一旦待ってもらう。


「成島、一緒に帰ろうぜ」


二見が声をかけてくる。


「悪いな二見、用事あるから先に行っててくれ」


「んだよ、じゃあ俺一人じゃん!さみしー!じゃあな!」


軽く手を振ってやると、二見は不満そうに出ていき、それに釣られるように他のクラスメイトたちも帰っていく。


教室に残ったのは、俺と音羽だけになった。


「気を使わせたわね、成島くん」


「気にしないでよ。なんか話?」


一応話を促してみたが、なんとなく嫌な予感しかしない。


「お願いしたいことがあるの。部屋がまた散らかってしまって」


「はぁ!? 先週に三日かけてピカピカにしたあの家が!?」


「そうね。でも気が付いたら……」


「気が付いたら、じゃないだろ。普通は気付く前に片付けるんだよ!」


思わず声を上げてしまう。けれど音羽は悪びれることなく、机に頬杖をついた。


「でも、成島くんが片付けてくれると、私も創作に集中できるの」


「人をお手伝いロボ扱いか?」


「違うわ。貴方に任せると、ちゃんと綺麗になるのよ」


「そりゃ掃除をすれば誰がやってもキレイになるんだよ」


言い返す俺に、音羽はほんの少し視線を伏せた。


その仕草が妙に本気っぽくて、胸のどこかがむず痒い。


「お願い」


「…………」


ぐっと言葉が詰まる。


自分で掃除ができるよう断るべきじゃないか?


そう思うのに、口が勝手に別の言葉を吐き出そうとしている。


音羽の家で過ごす時間は、なんとなく心地よかった。


変に気を遣う必要もなく。


ただ掃除をして、ご飯を食べて、たわいない会話をする。


それが、妙に落ち着く。


この関係を――続けたい。


「明日だな」


「ええ。土曜日に」


「俺、なんで休みに掃除しに行かなきゃならないんだ……」


額に手を当て大仰に嘆いて見せる。


「その代わり毎週ちゃんとご飯は用意するわ」


もちろん掃除に行く以上音羽の飯は重要……いや待て?おかしいぞ?


「毎週?」


「毎週」


あまりに即答で、思わず机に突っ伏した。


――毎週、か。


悪くない。


むしろ、なんか嬉しいかもしれない。


「……はぁ。わかったよ」


「ありがとう、成島くん」


音羽はいつも通りの笑顔を浮かべた。


それがまた腹立たしいけど、妙に悪い気はしない。


かくして俺はまたあのバカでかい家を掃除することになった。


でも――それは、きっと悪いことじゃない。



最後までお読みいただきありがとうございます。

これまでも出ていたクラスメイトたちの名前がやっと出る形になりました。

これらの名前はうちにあった卒業アルバムから適当な名前を抜き出しました。


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