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21 文化祭とお客様

文化祭本番、作者おねむ!

「よし、準備始めるぞー!」


稲葉が張り切っている、それもそのはず文化祭当日である。


俺たちは教室をカレー屋台に改造した。


仕上げに接客カウンターにするための机を廊下に並べて、クロスを敷く。


「レジ持ってきてー」


「辛口と甘口の表記逆!」


「教室内は、IH中心で考えてくよ!」


みんなで手分けして、レイアウトを作っていく。


教室の奥には、保冷ボックスをならべ、中央にIHを配置する。


それぞれの鍋が温められていく。


「いい匂い!」


「これは絶対売れるって!」


開場が近づくにつれてみんなが盛り上がる。


音羽は、調理スペースでカレーの味をチェックしていた。


「牛すじ、もう少し火を強くして」


「チキンは、このままで大丈夫」


「キーマは、少し水分を飛ばしましょう」


その姿は、まるで三つ星レストランのシェフのように厳格だった。



装飾も完成した。


教室の壁には、落書きされた画用紙や色とりどりの布が飾られている。


提灯も吊るされて独特の雰囲気を醸し出している。


「コスプレ衣装、着るぞー!」


何人かが、思い思いの衣装を着始めた。


二見は、ターバンを巻いている。


女子の何人かは、明らかにハロウィンのために買ったであろう衣装を着ている。


「似合ってる?」


「似合ってる似合ってる!」


ワイワイと盛り上がる。


「ナルシーも着ろよ!」


稲葉が尻尾と猫耳、カラフルなベストを渡してくる。これ女子に渡した方がいいだろ。


「え、俺も?」


「受け渡し係こそコスプレ必要だろ! お客さんの目に一番触れるんだから!」


「確かに……」


渋々、一式を着る。


鏡を見ると、ちょっと雑で何だか恥ずかしい。


「成島、似合ってるじゃん!」


「マジで?」


「マジマジ!キャッツって感じ」


みんなが笑う。



9時。


文化祭が始まった。


「よし、開店するぞー!」


稲葉が声をかける。


廊下には、もうお客さんが並んでいた。


「すげー、もう人いるじゃん!」


「カレーの匂い、廊下まで届いてるもんな!」


クラス全体が昂揚感と緊張に包まれているのを感じる。


「じゃあ、開店!」


レジ係が、お客さんを迎える。


「いらっしゃいませー!」


「カレー、3種類ありまーす!」


「甘口、中辛、辛口、どれにしますか?」


お客さんが、次々と注文してくる。


「甘口ください!」


「チキン!」


「辛口!」


レジ係が、お金を受け取る。


受け渡し係の俺は、教室の窓からカップを受け取って、お客さんに渡す。


「お待たせしましたー!」


「ありがとうございまーす!」


お客さんが、カップを受け取って去っていく。


オペレーションが、スムーズに回っている。



教室内では、補給係がフル回転していた。


「このカップ全部ご飯よそって!」


「入った分からカレーかけてくよ!」


「ホルダー蓋したけどこ持ってくんだっけ?」


「中辛は真ん中の窓から渡して!」


みんなが、テキパキと動いている。


音羽は、調理スペースで指示を出していた。


「牛すじ、もう次の鍋準備して!チキン、火力あげて!キーマはそのまま!」


その声が、教室中に響いている。


——すごいな。


俺は、窓から補充を受け取り机にどんどん並べていく。


背中越しに音羽の声が聞こえる。真剣で、どこか楽しそうな声。


振り向くとその横顔が、やけに眩しく見えた。



10時を過ぎた頃。


お客さんが、さらに増えてきた。


「すげー、行列できてるじゃん!」


「カレー、足りるかな?」


「大丈夫、音羽さんが計算してくれてるから!」


みんなが声をかけ合いながら、動き続ける。


俺も、ひたすらカップを受け取って、渡す。


「お待たせしましたー!」


「ありがとうございまーす!」


同じ言葉を、何度も繰り返す。


でも、疲れは感じなかった。


むしろ、楽しかった。


クラスが一丸となっているのを感じる、これが青春ってやつか。



11時過ぎ。


想定ではピークの時間帯だ。


廊下には、想定を遥か超える長い行列ができている。


「すげー、こんなに並んでるの初めて見た!」


「列整理!他クラスから苦情入ってる!」


列を少しでも短くするためにひたすらカップを渡し続ける。


その時、行列の伸びる向きとは反対側に男性が立っているのに気づいた。


スーツを着た、背の高い男性。


その顔はどこか鋭く神経質な印象を与える。


男性が、眉根を寄せてカレーを見ている。


そして、教室の中を覗き込む。


音羽と目が合ったようだ。


音羽の表情が、一瞬固まった。


「父さん……」


小さな声が聞こえた。



男性が、教室に入ってくる。


「美玲」


威圧するような低い声。


「何の用?」


音羽が、冷たく言う。


「文化祭の様子を見に来た」


「見なくていいわ」


「これが、お前の作った料理か」


男性が、カレーの鍋を見る。


「ふん、学生の遊びだな」


「……何ですって?」


音羽の声が、低くなる。


「ちゃらちゃらとしおって。こんなもので料理と言えるのか」


「これは、私のクラスみんなで作った料理よ。父さんには関係ないでしょ」


「関係ない? お前は、私の娘だ。料理をするなら、もっと真剣にやるべきだ」


「私は真剣よ。この文化祭の中で最高の料理を作るために全力を尽くしてるだけ」


「この程度のことで全力?笑わせるな。お前の才能は、こんなところで使うものではない」


「私の才能は、私が決める」


音羽が、父親を睨む。


父親も、音羽を睨み返す。


二人の間に、ピリピリとした空気が流れている。


——どうする。


俺は、迷っていた。


これは、音羽の家族の問題だ。


でも、あんな無茶苦茶な言い分で音羽が責められているのを黙って見ているわけにはいかない。


俺は、思わず前に出ていた。


「あの」


父親が、俺を見る。


「誰だ、お前は」


「成島愛己です。音羽さんの……クラスメイトです」


「クラスメイト? お前に何の関係がある」


「関係あります」


俺は、音羽を見た。


音羽も、俺を見ている。


ふと、変なことが気に掛かった。


——どっちも音羽さんだな?


音羽さんではややこしいし、お父さんというのも俺は別に家族じゃない。


美玲なんて呼んだら音羽に引かれるかも……ってそんな場合じゃない!


「ここは俺たちのクラスで、美玲さんは、文化祭という限られた空間で、クラスメイトのことを考えてくれています」


音羽が、少し驚いたような顔をする。


「美玲さんは、何種類もカレーを試作して、一番作りやすくて美味しいものを選んでくれました。僕ら作る側も、食べてくれるお客さんも楽しめるように、全力で考えてくれたんです」


「ほう。社会も知らん若造が、偉そうに」


父親が、冷たく言う。


「お前に、何がわかる。料理とは、もっと深いものだ」


「わかりません」


俺は、正直に答えた。


「料理の深さも、社会のことも、俺にはわかりません。でも、美玲さんの料理は、みんなを笑顔にしています。それが、一番大事なことじゃないんですか?」


父親が、少し黙る。


そして、音羽を見る。


「……好きにしろ」


音羽の父親が、教室を出ていく。


その背中が、どこか寂しそうに見えた。


誰も何も言わない、外のざわめきだけが聞こえる。


これはちょっと恥ずかしいことをしてしまったのではなかろうか?


初めて会った好きな人の父親に、口答えをしてしまった。


どうしてこう衝動的な行動を俺は抑えられないんだ!体育祭の反省はどこにいった?


音羽はどう思ってるだろう……。


「音羽さん……」


女子の一人が、心配そうに声をかける。


「大丈夫よ」


音羽が、小さく笑うが、視線は合わせてもらえない。


「続けましょう。お客さん、待ってるわ」


「お、おう!」


みんなが、再び動き始める。


俺も、カウンターへ戻る。


「お待たせしましたー!」


「ありがとうございまーす!」


オペレーションが、また回り始める。


でも、心の中は、ざわついたままだった。


——音羽、これはさすがに怒っているのでは?



しばらくして、音羽が俺の隣に来た。


「成島くん」


「おう」


「ありがとう」


「何が?」


「さっき、加勢してくれて」


「困ったときはいつでも助けるって言ったろ?」


——でも、余計なことだったかもしれない。


そう思っていると、音羽が笑った。


「……美玲さん、って呼んだわね」


「あ、ああ。つい、その方がいいかなって」


——これは勝手に下の名前で呼んだの駄目だったか?


顔が熱くなる。


「ふふ、嬉しかったわ」


音羽が、優しく笑う。


その笑顔を見て、胸が温かくなった。


「これからも呼んでくれる?」


「え、いいの?」


顔がさらに熱くなる。


「お好きにどうぞ?愛己くん」


美玲が、小さく笑って調理スペースに戻っていく。


——やばい。


心臓どっか行ったかもしれない。



「売り切れましたー!」


「ありがとうございましたー!」


クラス全体が、大きな拍手に包まれる。


「やったー!」


「完売だ!」


「すげー!」


みんなが、喜びを爆発させる。


「お疲れ様ー!」


「みんな、よく頑張った!」


稲葉が、みんなの肩を叩く。


美玲も、少し疲れたような顔をしていた。


でも、嬉しそうだった。


その笑顔を見て、俺も嬉しくなった。



片付けが始まる。


「鍋洗うぞー!」


「机も元に戻さないと!」


みんなが手分けして片付ける。


俺も、鍋を洗っていた。


「愛己くん」


後ろから、美玲の声。


振り返ると、美玲が立っていた。


「おう」


「手伝うわ」


「いや、調理班は休みでしょ?」


「一緒にやりたいの」


美玲が隣に並ぶ。


二人で、鍋を洗う。


「今日は、大成功だったな」


「ええ。みんなのおかげよ」


「美玲さんのおかげでみんな頑張れたんだよ」


「ふふ、ありがとう」


美玲が笑う。


「でも、さっきのこと……大丈夫だったか?」


「ええ。慣れてるから」


「そうか」


「でも、愛己くんが加勢してくれて、嬉しかったわ」


「邪魔じゃなかったか?」


「そんなことないわ。これまで私と一緒にあの人の前に立ってくれる人なんていなかったから嬉しい」


美玲の声が、少し震えていた。


「あんな人どうでもいいの。愛己くんが、美玲さんって呼んでくれて……守ってくれて……嬉しかったの」


その声を聞いて、胸が温かくなった。


俺が思っているより親子の間の問題は根深いものなんだろう。


それでも些細な俺の助力をこんなに大事にしてくれる人がいる。


その人が自分の好きな人であることがとても嬉しかった。


「そっか」


俺が笑うと、美玲も笑った。


その笑顔が、やけに眩しく脳裏に強く焼きついた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

音羽父登場です。

実力と権力で戦う世界しか知らない男。

眼差しは娘とそっくりのパパ、娘以外の若い子に文句言われたの初めてでぶーたれて帰りました。

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