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01 プロローグ

主人公の成島を説明する内容になっちゃいましたね、ちょっと暗くなりすぎたかも。

俺は成島愛己なるしま まなき。どこにでもいる華の高校2年生。


まあ、普通じゃないところを挙げるとしたら、自分で言うのも何だけれど、なかなかの美少年だってところかな。


「おはよう! みんなを照らす太陽が登校したよ!」


教室に入ると、騒がしかった室内が一瞬静まり返る。それぞれに挨拶が返ってくると、先ほどの賑やかさが戻った。男子はいつものように机を叩いて笑い、ペンを投げ、女子は笑いながらスマホをいじっている。


いつもの朝。いつもの教室。


「ナルシー、太陽は数時間前にのぼり切ってるぞ。あと、風邪が流行ってるらしくて今日3人も休みだってさ。日直繰り上げでナルシーな」


「あ、ああ……そうなの?」


軽く頷く。責任重大だな。


「風邪ひいてる時って心細いだろうし、写真送ってやろうぜ! ナルシー、お前チビだから真ん中な!」


「誰がチビだ!? 俺は——」


俺の抗議を無視し、淡々とカメラがセットされ、タイマーがオンにされた。


「俺らも寂しいぞーって顔しろよー」


舞台の悲劇の主人公さながらに額に手を当て、悲しみを表現する。すると、後ろの奴らが笑い始めた。


「もう一回! 今度はちゃんと悲しい顔作れよ!」


誰かが俺の肩に手を置く。ただそれだけで、意図は伝わった。

やるべきことはただ一つ『全力でふざけろ』だ。


「男子? 男子? 男子、ダンシング!」


後ろの席の奴が突然立ち上がり、腰をグネグネさせ、両手を大げさに振り回し始めた。


「出た!」


「バカだろお前!」


教室は爆笑に包まれる。


ふざけているクラスメイトと目が合った。期待に満ちた視線。

笑い声に包まれながら、心の奥にわずかな逡巡が生まれる。


——ここで俺が乗るべきか?


周囲を瞬時に見渡す。呆れたようにため息をつく者、困ったように笑う者。


きっと、もっと真剣に休んでいる奴らへのメッセージを撮りたいと思っているのだろう。


だが、身を張って笑いを取っている仲間を見捨てていいのか?


俺が乗っていないから駄々滑りをしているんじゃないか?


……迷う。


だが、俺の役割はこれしかないのだ。やることは決まってる。


「男子、男子ダンシング!!」


俺は立ち上がり、ステップを踏みながら声を上げた。勢いでアドリブのダンスを踊る。


「おい成島! お前までやるなよ!」


「やめろ、二人でダンスバトルすんな!」


「なんだその無駄にカッコつけたダンスは!」


再び大爆笑が広がる。笑いの渦に身を置くと、ほんの少しだけ安堵した。


——よし、これで「俺らしさ」は保てた。


期待に応え、笑わせることができた。


だが、同時に話し合いの空気は完全に途切れてしまった。


写し出された写真には全員でふざける姿が写され、言い出しっぺが怪訝な顔で写真をチェックして一言。


「よし!」


写真は、俺たちの馬鹿騒ぎの記録になった。


「はぁい、ざわざわしてないで席着くよー」


先生の声とともに急いで机に向かう。


上手くやった、役目を果たした、場も白けず、みんな笑顔だった。


授業がが始まれば、笑いの余韻はなく俺を含め皆が真面目な顔を作っている。


いや、さっきまでが笑われてるだけだったのかもしれない。


こんな俺でも、クラスに本当に必要なんだろうか。


教室の窓の外を見る。授業が始まっているのに、先生の声が遠い。



俺が小さかった頃、世界はいつも俺の味方みたいだった。


家では何をやったって褒められて、笑顔が返ってくるだけで胸が誇らしくなる。周りが解けない問題だってすぐ解き、友達に教えれば羨望の眼差し。


誰かが困っていれば放っておけず、自然と手を差し伸べた。


公園で迷子の犬を見つけたり、困っている人にちょっとした助けを出すだけで、感謝の言葉と笑顔がついてくる。


小さな世界の中で、褒められるたびに自分の正義感と万能感が膨らんでいった。


誰かに必要とされること。


それが、俺の存在を肯定してくれるすべてだった。あの頃の俺は無敵だった。


でも中学生になる頃には、大半の同級生に背を抜かれていた。


相手が自分より小さい、それだけで人は相手を劣っていると判断するようになるということを実感するようになった。


「お? またチビが調子乗りやがってよ」


教室の端から聞こえる声に、俺は苦笑いしかできない。周囲の空気は確実に変わった。


勉強でもそうだ。問題を解く手が少しずつ遅くなっていく自分に気づく。


昔は一度読めばすぐに答えを出せたのに、少しずつ周りに追いつかれている。


「お前、そんなもんだったっけ?」


隣の席の奴が呟いたその一言に、気づいた。俺はもう特別ではないのだと。


手元の答案用紙についた点数が、今までの万能感をボロボロと崩していくように思えた。


それから妙な笑い声が耳に残るようになった。俺の方を見て、わざと声をひそめている。


「なあ、成島んちの親父の会社何か聞いたか?」


「あー! 電マとかホールとか作ってんだろ!!」


「ちょっ! お前声でかいよ……持ち歩いてたりすんのかな?」


「シリコン職人の朝は早い……」


くすくす笑い。目を合わせれば黙るが、背中に刺さるような気配は消えない。


中学二年の秋だった。


廊下で、クラスメイトが三人の男子に囲まれているのを見た。


「おい、昨日の宿題見せろよ」


「で、でも……」


「いいから出せって」


俺は迷わず駆け寄った。


「やめろよ。自分でやれよ、宿題ぐらい」


三人は俺を見て、鼻で笑った。


「何だよ成島。お前に関係ねーだろ」


「関係ある。クラスの友達が困ってるんだから」


「うぜぇんだよ、正義マン」


「ふざけんなよ!」


つい言葉が口を突いた。立ち上がって掴みかかると、向こうはにやりと笑う。


「悪ぃ悪ぃ。怒んなよ、チビ島君」


「……っ!!」


その日、生まれて初めて暴力を振るう側になった。

悔しさと恥ずかしさ、怒りが込み上げてきたが、それは自分の拳を痛めただけだった。


翌日。


俺はクラスメイトを探して声をかけた。


「昨日は大丈夫だったか?」


後輩は俯いたまま、小さく呟いた。


「……成島くんのせいで、もっと酷くなりました」


その言葉が、胸に突き刺さった。


「え……?」


「余計なことしないでください」


クラスメイトはそう言い残して、走り去っていった。


その後、あいつはあのいじめっ子グループに擦り寄るようになった。


俺が守ろうとしたのは、あいつじゃなくて俺の自尊心だけだったんじゃないか?


誰も、そんなこと求めちゃいなかったんじゃないか?


気づけば、教室のざわめきの中に、俺の居場所はなくなっていた。


正しいことをしても、努力しても、俺は必要とされない。


誰も俺を信じていない。


俺ですら俺を信じきれていない。


自分を褒めてやれるのはもう俺だけなのに。


中学を卒業する頃には、思考の泥沼に頭の先まで沈み切っていた。


期待されても裏切り、正しさを貫いても笑われる。


それはきっと俺がここにいるからじゃないか?


誰も俺を知らない高校に進学を決め、俺は逃げた。


過去を捨てて、一からやり直すんだと。


誰も俺を知らない場所で、もう一度、俺をつくり直すんだと。


その結果が今だ。必要とされてるかどうかもわからず、ひたすらふざけ続けている。


俺はこんな不安が欲しかったのだろうか? また何か俺は間違えてるんじゃないか?



「成島」


突然名前を呼ばれて、俺は顔を上げた。


先生が呆れたような顔でこちらを見ている。


「ぼーっとしてないで、教科書読んでくれ」


「あ、はい……すみません」


クラスから笑いが漏れる。俺は慌てて教科書を開いた。


チャイムが鳴り、ホームルームが終わる。


教室が一斉にざわめき、下校の準備が始まる。


「成島ー! 帰るぞー!」


「あ、悪い。今日は用事あるから先に帰ってくれ」


「そっかー。じゃあまたな!」


友達が手を振って出ていく。


教室から人がいなくなり、静寂が戻る。


俺は鞄を肩にかけ、一人で廊下を歩いた。


窓の外では夕陽が沈みかけている。


下駄箱で靴を履き替え、校門を出る。


いつもの帰り道。一人で歩く道。


——これでいいのか?


ふと、そんな疑問が頭をよぎった。


笑わせることで、居場所を作っている。でも、本当にそれが俺の居場所なんだろうか。


なんとなく楽しくて。何も残らない。


浅く、軽く、傷つかないように。


それが、俺の選んだ生き方だった。


俺は……本当にそれでいいのか?


駅前に差し掛かった時、足を止めた。

視界の端に、人がもめているような姿が見える。


「なぁー、そこのお嬢さんちょっとお茶しない?」


「いや、結構です」


二人組のナンパ男に囲まれているのは、見覚えのあるクラスメイトだ。


音羽美玲おとわ みれい


全校集会でたびたび表彰されるほどの天才美少女。遅刻も欠席も多く、変わり者の噂も絶えない。


音羽の表情が硬い。いつもの涼しげな顔ではなく、眉間に小さなしわが寄っている。


「おいおい、無視すんなよー!」


片方の男が腕を伸ばす。


助けていいのか?


頭に中学時代の記憶がよぎる。


『余計なことしないでください』


あの言葉が、耳に蘇る。


また裏切られるのか?


また、俺の独りよがりなのか?


足が、動かない。


だが——


音羽が小さく身を引いた。その仕草に、心臓が跳ねた。


女の子が困ってるのに助けないなんて、かっこ悪いだろ!


そんな俺にはなりたくない!!


「……音羽さん、迎えに来てくれたんだ? ありがとう」


気づいたら、俺は駆け寄って音羽の隣に割り込んでいた。


男たちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見ている。


「君たち、僕の彼女に何か用かな?」


声が震えていないことに、自分でも驚いた。


これが正しいかどうか、わからない。


また裏切られるかもしれない。


でも今、目の前で困っている人がいる。そして、この子を助けたいと心から思った。


それだけは確実なんだ。


最後までお読みいただけてとても嬉しいです。

この物語は明るめの青春物語になります。

ほんと!マジで!作者嘘つかへんから!

あ、嘘はつきます。

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