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第四部:本当の始まり

■ ゲームマスターの宣告


無数の浮遊船が停泊する巨大なホール。

他の船から降りてくる参加者たちの顔には、驚きと困惑の色が濃く浮かんでいた。

俺たち四人も、事態の規模が自分たちの想像を遥かに超えていることを認識し、ただ立ち尽くしていた。


この壮大なスケールは、単なる新作ゲームのテストプレイなどではない。

何かが、とてつもなく大きな何かが動き出しているのだ。

集められたのは、高得点者、つまり各分野のトッププレイヤーたち。

それは、まるで何かのチームを組むための人選のようにも見えた。


ホールの中心に、一段高くなったステージが設営されていることに気づいた。シンプルだが、存在感がある。

そして、そこに、あの男が再び姿を現した。案内人の平田和正だ。

相変わらず、感情の読めない無表情。

だが、ステージに立った彼の姿は、どこかゲームにおける「ゲームマスター」や「主催者NPC」を思わせるものがあった。


彼は静かに、集まった数百人にも及ぶ参加者たちを見渡した。

そして、マイクを手に取り、抑揚の無い声で話し始めた。

しかし、その言葉の内容は、俺たち全員に強烈な衝撃を与えた。


「皆様、ようこそ『アクア・フロンティア』へ」

アクア・フロンティア。この施設の名前だろうか。

それとも、この「新しいゲーム体験」の名前か?

「これまでの体験は、いわばチュートリアルに過ぎません」

「……は?」

誰かが、呆然とした声で呟いた。

静かだったホールに、ざわめきが広がる。


「チュートリアルだと!?」

「じゃあ、あの空飛んでたのは? 海に沈んだのは!?」

スタッツマンが、驚愕と怒りがない交ぜになった声を上げた。

俺たちも同じ気持ちだ。

あの現実離れした体験、船体の物理的な衝撃、異様な海中世界、この巨大な施設への到着…これ全てが、たかがチュートリアルだったというのか?


平田は、参加者たちのどよめきや困惑には一切反応せず、淡々と続けた。

「本当のゲームは、ここから始まります」

その言葉が、ホールの空気を一変させた。

ざわめきはさらに大きくなり、怒号のような声も混じる。

「本当のゲーム…? どういう意味だ!?」

「ゲーム? ふざけるな! 俺たちはゲームをしに来たんじゃない!」

「一体、何をさせようってんだ!?」


参加者たちの間には、困惑、怒り、そしてわずかな恐怖が渦巻いていた。

しかし、その中にあって、一部の者たちの目には、ギラついた好奇心や、未知への挑戦に対する興奮の色も見て取れた。

俺たちのような、根っからのゲーマーたちだ。


「…チュートリアル…ねぇ」

メドウスが腕を組み、考え込んでいる。

彼の目には、この状況を分析しようとする知的な光が宿っている。

「ってことは、あの浮遊船は初期エリアで、この施設がメインの拠点ってわけか。そこから、いよいよ本番のクエストが始まる…ってこと?」

マッカルモントが、まるでゲームのマップ構成について話すように言った。


彼のどこか楽しんでいるような口調は、この状況にあっても変わらない。

「メインクエスト!? でも、どんなゲームなんだよ!? さっきの衝撃とか、マジでヤバかっただろ! これ、本当に死んだらゲームオーバーとかあんのか!? リスク高すぎだろ!」

スタッツマンが顔を引き攣らせて言った。

彼の言う通りだ。

単なるゲームのテストであれば、ここまで現実味のある危険を伴うことはないだろう。


もし、この「ゲーム」が現実と深くリンクしているとしたら…?

俺は、平田の無表情な顔を見つめた。

この男が、この「アクア・フロンティア」のゲームマスターだというのか。


彼の目的は何だ?

なぜ、俺たち高得点者を集めた?

浮遊船と海底施設は、現実の技術なのか?

それとも、高度なVR空間だが、何らかの理由で現実の感覚を再現しているのか?

ゴーグルは単なる視覚補助ではない。

一体、どんな機能がある?

そして、他の参加者たちが異変に冷静だった理由…彼らは何かを知らされていたのか?

あるいは、これも「ゲーム」のロールプレイの一環なのか?

疑問は尽きない。


まるで、難解な謎解きゲームを目の前にしているようだ。

手がかりは少ないが、確実に「答え」が存在するはずだ。

「リスクは…未知数だ。下手したら、本当にゲームオーバーになる可能性もある」

俺は、スタッツマンの言葉を繰り返した。


この状況を「ゲーム」として捉えるのは、ある意味で恐怖を紛らわせる防衛機制かもしれない。

だが、同時に、俺たちの思考回路が、自然とそうさせているのだ。

目の前の状況をゲームのルールやシステムに当てはめて分析し、攻略の糸口を探そうとする。

それは、長年ゲームに費やしてきた時間が、俺たちの身体に染み込ませた習性だった。



■ 未知への一歩


平田はそれ以上何も語らず、ホールの奥にある、さらに大きなゲートを指し示した。

ゲートは既に開いており、その先には、暗闇の中に続く通路が見えるだけだった。

「これより、次のエリアへ移動していただきます。順次、ゲートを通過してください」

淡々とした、次のクエストへの移動指示。


参加者たちの間で、再びざわめきが起こる。

進むべきか、留まるべきか。

混乱と逡巡が広がる。

俺は、隣に立つスタッツマン、メドウス、マッカルモントを見た。


スタッツマンは、まだ不安と興奮が入り混じった表情をしているが、その目は次に何が起こるのか、という好奇心に燃えている。

メドウスは、冷静沈着な顔つきだが、その瞳の奥には、未知のシステムを解析したいという強い探求心が宿っている。

マッカルモントは、相変わらず飄々としているが、その口元には、この予想外の展開を楽しんでいるかのような、わずかな笑みが浮かんでいる。


俺たちは、互いに何も言わず、ただ顔を見合わせた。

だが、それだけで十分だった。

言葉にしなくても、互いの考えていることは分かり合えた。

恐怖がないわけではない。

だが、それ以上に、ゲーマーとしての血が騒いでいたのだ。


目の前に提示された、あまりにも巨大で、あまりにも謎に満ちた「ゲーム」。これを攻略したい。

この世界の秘密を知りたい。

その欲求が、不安を凌駕した。


俺は、口角を吊り上げた。

「…面白くなってきたじゃねえか」

スタッツマンが、俺の言葉に「へへっ」と笑った。

「だよな! なんか、燃えてきたぜ! どんなボスが出てくるか、ワクワクしてきた!」

メドウスが、静かに頷いた。

「ヴァンの言う通りです。未知への探求は、ゲーマーの性ですね。このシステムの全てを解き明かしたい」

マッカルモントが、肩をすくめた。


「まあ、ここまで来たら、進むしかないっしょ。どんなアイテムが手に入るか、ちょっと楽しみかも」

俺たち四人は、他の参加者たちの波に紛れて、ゲートの向こうへと足を踏み出した。

暗闇の中に続く通路の先には、一体どんな「ゲーム」が待ち受けているのか。

どんな敵が?

どんな謎が?

そして、この「アクア・フロンティア」の本当の目的とは?


物語は、俺たちゲーマーたちが、未知の冒険へと一歩を踏み出すところで幕を閉じる。

これは、壮大な「本当のゲーム」の、始まりに過ぎないのだから。


(完)

この度、小説『浮遊船と深海の招待状~リアルとヴァーチャルの境界線~』を最後までお読みいただきありがとうございました。

この物語は、「時間があればコントローラーを握っている」ようなゲーマーたちが、突如、仮想と現実の境界が曖昧な巨大な『ゲーム』に放り込まれたらどうなるのか? というアイデアを形にしています。


作中では、主人公のヴァンをはじめ、スタッツマン、メドウス、マッカルモントといった個性豊かなゲーマーたちが、ゲームを通じて出会い、現実(かもしれない世界)で起こる異常な状況に、ゲーマーとしてのスキルや思考回路で立ち向かおうとする姿を描くことを意識しました。

彼らがゲーム名で呼び合い、共通の話題で盛り上がる姿など、作品ならではの雰囲気を感じていただけていれば幸いです。


今回は、謎の招待から始まり、空飛ぶ浮遊船での導入、そして不可解な異変を経て、物語の本当の舞台である深海の巨大施設へと到達するまでを描きました。

それは、まさに壮大な「ゲーム」のチュートリアルであり、物語は今、いよいよ「本当のゲーム」が始まるところです。

この先、彼らを待ち受ける「本当のゲーム」とは一体何なのか?

海底施設の謎、そしてこの体験イベントの真の目的とは?

まだ多くの謎が残されています。


もし今後も執筆する機会がありましたら、まだ思案中ですが以降のお話しでは、さらにスケールアップする冒険の中で、キャラクターたちがどのように困難を乗り越え、互いの絆を深め、この世界の真相に迫っていくのかを描いていきたいと考えています。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

彼らの、命を懸けた(かもしれない)「ゲーム」を、どうぞ見守っていただけますと幸いです。

[麦藁まる緒&ウルス]

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