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エンゲブラ的短編集

駅の幽霊。

作者: エンゲブラ

彼女は一体いつから、この駅にいたのだろうか?



私と彼女の最初の出会いは、今からおよそ四十年前にまで遡る。


私がまだ学生だった頃のある日、この駅で人身事故が発生した。

警察は当初、自殺であると断定し、事故として処理したが、三か月を待たぬうちに真犯人が見つかった殺人事件である。


彼女は当時、いわゆる「見えるひと」であった私に対し、毎朝必死に真犯人である男を指差し、その男が犯人であることを必死に伝えようとしてきたのが最初の出会い。ちなみに彼女はこの事件の被害者の女性とはまた別の、制服姿の女の子の霊であった。


彼女がどういった経緯で、駅の地縛霊と化したのかは、調べてもハッキリとは分からなかったが、私は親友と共に真犯人らしき男をしばらく尾行。ある程度、確信出来る材料が固まった時点で、男の自宅に事件の真相をまとめた脅迫状を何度か投函。犯人の自首を促し、事件は解決することとなった。


それが正しい判断であったのかどうかは、男の自首から数日が経ち、私に笑顔で親指を立ててきた彼女の姿を見れば、一目瞭然のことであった。


そんな始まりから、私は何年かの間、彼女となかよく毎朝、駅で「視線であいさつする」くらいの仲にはなった。


彼女には、事故が起こりそうな「気配」を事前に察知できる能力でもあるらしく、何かが起きそうな時はすぐに私に合図を送った。結果、私は線路に転落しそうになった子供や老人、自殺を試みそうな人々の行動を何度か事前に止めるという機会にも恵まれた―― 電車への投身自殺は「遺族にも多額の損害賠償請求が行く」と志願者を諭したこともあったな、そういえば。


そんな彼女も、駅のプラットホームの各所に監視カメラが無数に設置されるようになる頃には、いつのまにかその姿を見かけなくなり、てっきり「成仏」したものだと、()()()()()()()私は思い込んでいた。



「……ひさしぶりね」


「ああ……まだいたんだね」


「だって私を殺した犯人が、()()()()()()いるんだもの」


「嘘だろ、それならなぜあの頃の俺に教えなかったんだ?」


「だって、あの頃の貴方には()()()見えてなかったでしょ?」


「なっ……何なんだ、あれは!?」

彼女が指差した方向に目を遣ると、ひと目で「悪霊」と分かる、異形の(もや)がホーム下で(うごめ)いていた。


「この駅のホームで起こる事故の大半は()()()()()()なのよ」


「……あっ、なるほど!だから君には事故が起こりそうな気配が()()()察知出来たってわけか」


「ご名答」


「で、君もアイツに足を引きずられて……と?」


「……そうよ、最初は「何でよりによってアタシを!?」て怒り狂って、アイツに詰め寄ったこともあったんだけど、アイツは最初からあんな感じで会話自体が成り立たなくて……さ」


「で、君のような事故が他にも起きないように、君はずっとここで見張りを?」


「そうね……そうなのかな……?気づいたら、もうこの駅に縛り付けられていて、実際のところはよく分からないの」


「俺は君がとっくに成仏したものだと思い込んでいたんだが……なぜ、いつの間にか俺の前に姿を現さなくなったんだ?」


「姿を現さなくなったんじゃなくて、貴方の意識の中から<私の存在意義>自体が段々と薄れていったのが原因なんじゃないかしら?監視カメラの増設やホーム柵なんかが出来て……」


「ああ……そういうこと、だったのか……それは何というか……ごめん」


「ううん、仕方のないことよ……」


「ところで俺がここで転落したのも、やっぱりアイツが原因なのか?」


「そうよ、ツイてなかったわね……ホーム柵の故障中に狙われるだなんて……」


「あの時もやっぱり、君はなんとか俺を助けようとか……してくれてたり?」


「当たり前でしょ!私をなんだと思ってるのよ!貴方と私の仲じゃないの!」


「それはすまなかったな。今さら悪いが、ありがとう」


「ふっ……どういたしまして」


「さて、これから……どうしたものかな?」


「元々、私たちのような存在を<見えるひと>自体が稀だったのに、今の時代はみんなスマホ?に夢中で誰も私たちになんて気づいてはくれはしないわ。だからまあ、私たちの存在意義は……皆無?」


「まじかよ……じゃあさ、お互いが何かの拍子に間違って成仏でも出来るように、これからはしばらく、お互いの<駅以外の話>でもしてみたりするか?どうせヒマを持て余すんだろ?」


「いいわね、それ!なんせ半世紀ぶり?ぐらいの話し相手だから嬉しくって仕方ないわ!何から話そうかしら、そうねぇ……」


「なあ、ところでお前……ひょっとして……少し消えかかってきてないか?」


「え、うそ?ひょっとして……成仏しかかってる、的な?」


「おいおい、いきなり勘弁しろよ」


「そういう貴方だって、最初に見た時よりも薄く……」


「え、まじで?」


しばらく無言でお互いの顔を見つめ合い、やがて肩を揺らし、声にならない笑いと涙で昇天するふたりであった。



―― あれ、足ひっぱりの悪霊はどうなるんだ、この後?

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