004 古代魔法継承武器創造魔法
「逃げたな」
鐘楼が、十の刻を告げる鐘を鳴らした。
グランレトラ魔法学院。
決闘の場に指定された、屋内演習場の中央。
この一戦を興味半分で見に来た野次馬達に囲まれ、ジェルマンが立っている。
「どうせこうなるだろうとは思っていた。今頃、あの旧型は王都の外で途方に暮れている事だろう。まったく……この僕の時間を無駄にしてくれて」
「ま、まだ逃げたと決まったわけじゃないでしょ!」
嘆息するジェルマンに対し、観衆の中から一人の女生徒が進み出る。
激しく抗議するのは、ハルカゼだった。
「もう約束の時刻は過ぎている。これ以上は待つだけ無駄だろう」
そう言って、ジェルマンは踵を返す。
野次馬達も、つまらなそうに溜息を吐き、ラトラルをおちょくる言葉を口にしながら帰り出す。
「なら、あたしが戦う!」
瞬間、ハルカゼの放った叫び声が彼等の足を止めた。
「そもそも、事の発端はあたしとジェルマンの間にあった事でしょ! あたしのせいで、ラトラルに重い罰を背負わせられない!」
「いいのか? 条件はあの無能と一緒だが」
予想外の展開に対し、ジェルマンはどこか面白気に声を返した。
「いいわ……負けたら、あたしが王都を去る」
ハルカゼが了承すると、野次馬達の間から歓声が沸き立つ。
見世物が再開した事を喜んでいるのだろう。
まるで生け贄のような立場になりながら、ハルカゼはジェルマンへと懇願する。
「その代わり、約束して。もしあたしが負けても、王都から去る罰はあたし一人で受ける。ラトラルは……」
――演習場の扉が開いた。
爆ぜるような音が響き渡り、場内が静寂に包まれる。
やって来た少年の姿を見て、ジェルマンは舌打ちし、ハルカゼは目を見開く。
「ごめんなさい! ちょっと遅刻しました!」
ラトラルは急ぎ、戦いの場へと進み出る。
■ ■ ■
「ラトラル……」
「心配要らないよ、ハルカゼ」
逃げる事無く、決闘の場へと赴いたラトラルを見て、ハルカゼは複雑な表情を浮かべる。
そんなハルカゼに、ラトラルは笑顔を向けた。
「絶対に勝ってみせる」
「……ラトラル?」
何か……違う。
ラトラルの纏う雰囲気というか、気配というか……何かが変わっている事に、ハルカゼは感付いたようだ。
しかし、そんな違和感に言及している暇は無く――ハルカゼはラトラルに促され、その場から観衆の輪の中へと戻された。
「馬鹿め」
演習場の中央――静寂の中で、ラトラルとジェルマンは向き合った。
「どうせ怖じ気づいて決闘に挑むかどうか迷っていたのだろう? そのまま逃げればよかったものを」
「逃げないよ、さぁ、戦おう」
「……ふん」
決意の籠もった双眸を向けるラトラルに、ジェルマンは鼻白む。
「この観衆が立ち会い人だ。これから晒す事になる醜態を、よく見てもらうといい。では、決闘の流儀に基づき、再度交換条件の確認を行う」
「僕が勝ったら、二度とハルカゼの魔法を使用しないで欲しい。自動生成魔法具からも分析記録を削除。そして、ハルカゼに対する侮辱の謝罪をしてもらう」
「万が一にも勝てたなら、な。逆に、貴様が負けたら即刻学院を退学。王都からも去り、二度とこの地に踏み入らない。この条件は上流貴族キスカーレ家の名のもと、キッチリ遂行させる」
「わかった」
審判を務める純人間の教員が、開始の合図を出す。
遂に、決闘が開始した。
ジェルマンの取り巻き達が応援の歓声を上げる。
ウィズの生徒達に混じり、ハルカゼは手を合わせ、祈りを捧げている。
「下らない……実に時間の無駄だ。こんな下らない戦いはすぐに終わらせてもらう」
ラトラルと対峙したジェルマンは、溜息を漏らしながら胸元の自動生成魔法具を発動する。
ジェルマンの周囲に、火炎の球体が幾つも生み出された。
呪文の詠唱も魔力の練り上げも必要としない――自動生成魔法。
「趣向を凝らし、彼女の魔法で痛めつけてやろう」
浮遊する火球が、ラトラルへと放たれた。
「――っ」
刹那、ラトラルが動く。
以前にも見せた体捌き――ダンジョン探索で培った運動能力を駆使し、攻撃を回避する。
だが、その動きが、以前とは少し変化していた。
(……見える)
炎の弾幕は昨日も受けており、その際にラトラルは身体を躍動させ攻撃を躱した。
だが、今日のラトラルの動きは――昨日よりも、更に洗練されたものとなっていた。
火球一発一発を見切り、必要最低限の動作のみを行う。
流れるような動きで、攻撃を躱すというより……“すり抜けていく”ような、そんな身のこなしだった。
数百年に及ぶ、伝説のエルフの人生の追体験。
ウィンは肉体が成長するわけではないと言っていたが、ラトラルが味わったのは数百年に及ぶ戦いの記録だった。
言うなれば、精神だけなら百戦錬磨。
自身の体の動かし方、様々な攻撃に対する対処の仕方を、頭は覚えている。
(……だから、わかる)
ラトラルの動きを見て、観衆がどよめきを見せる。
あの弾幕を見事に回避したものだ――と。
だが、ラトラルはジェルマンの思惑を見抜いていた。
この火球攻撃は、目眩まし。
「相変わらず、蠅のようにちょこまかと」
ジェルマンは既に、本命の攻撃を発動していた。
――それは、巨大な炎の壁だった。
あたかも津波。
視界を覆い尽くす程に馬鹿デカい炎のカーテンが、弾幕を躱し終えたラトラルを飲み込まんと迫る。
いくら回避能力に長けているとはいえ、今のラトラルの立ち位置からでは躱す事のできない攻撃だった。
「思い知れ! 自動生成魔法の強大さを!」
一瞬にして、高位魔術師レベルの魔法を生み出すジェルマンの勇姿に、彼の取り巻き達が盛り上がる。
観戦に来ていたウィズ達の中――ハルカゼは、思わず目を覆う。
「……【古ノ理】【■■■■】【目覚メロ】【抗エ】【■■■】」
そんな中、ラトラルは詠唱を口にしていた。
この場の誰も読み解けない、古代語の混じった呪文の詠唱を。
ラトラルは手を突き出す。
光が瞬く。
ラトラルの魔力が煌めく。
以前までの彼の魔力が放つ、淡く白い反応光と一転し――。
黒く輝く。
「【暴食ノ牙】【創造】」
――炎の波が。
――裂けた。
「……何?」
中央から、文字通り裂けた火炎の壁が、衝撃に乗るように空中に舞い上がる。
バラバラに散り、火の粉となって掻き消えていく。
その光景を見て呆然としていたジェルマンの視界に――ラトラルの姿が映った。
“剣”を振り上げた、ラトラルの姿が。
■ ■ ■
伝説のエルフの人生――その追体験。
永い永い旅路を終え、この世界に帰ってきて、ラトラルは気付いた。
自分の中の魔力が、特異な変化を起こしている事に。
魔法は精神の影響を受ける。
たった一晩で数百年の歴史を歩み、誰も知らないような知見を手にしたラトラルの精神は、言うまでも無く変化した。
それ故の、魔力の変質。
それ故の、成長。
「貴様……何だ、それは」
ジェルマンが、観衆が、審判役の教員ですら、ラトラルの握る武器を見て言葉を失っている。
それもそうだろう――ラトラルの魔法は、ただ武器を生み出すだけ。
だが、今ラトラルが創造した武器は、異常な存在感を放っていた。
見た目は、刃渡り60㎝ほどの剣だ。
だが、その刀身は黒く、刃先に近い部位からは瘴気のように黒い靄が立ち上がっている。
「貴様……答えろ! 僕が聞いているんだぞ!」
「答える義務は無いよ」
狼狽を見せるジェルマンに、ラトラルは冷たく返す。
答える義務は無いし……そもそも、言ったところで伝わるかどうかわからない。
この武器は、見た目通りただの武器ではない。
伝説のエルフの人生の中で見た、今の世界では見たことも無い、古代に存在した魔法から着想を得た武器なのだ。
伝説のエルフも参戦した、魔族の戦争。
その戦争で、魔族達がある魔法を使っていた。
それは、『魔法を分解する魔法』。
相手の生み出した魔法を魔力レベルにまで分解し、無力化する魔法だった。
一方、伝説のエルフが生涯で生み出した魔法の中に、気になる魔法が一つあった。
『魔法を武器に融合させる魔法』だ。
現代で言うところの付与に近いかもしれない。
数百年に及ぶエルフの人生の記憶。
その全てを記憶しておく事など不可能。
だが、この二つの魔法は、ラトラルにとってやけに印象に残った。
エルフの人生を歩みながら、ずっと平行して考えていたことがある。
この二つの魔法と、自分の魔法を組み合わせることによって、新たな領域へと行けるのではないか。
そんな可能性を。
即ち、『魔法を分解する魔法』と、『魔法を武器に融合させる魔法』。
この二つを組み合わせれば――対魔法特化型の武器になる。
そこに、自身の『武器創造魔法』を更に加えられれば――。
つまり、魔法を打ち消す効力を持った武器を生み出す事ができたなら……。
実現の為には、三種類の魔法を身に付けなければならない。
それを可能にしたのは、伝説のエルフが学んだ膨大且つ豊富な魔法に関する知識。
そして、数百年に及ぶ莫大な時間。
エルフの人生を追体験する一方、“ラトラル=ラドファイア”としての意識は、ひたすらその研鑽に時間を注いだ。
なるほど……これが、この追体験における最大のメリットか……と、ウィンの顔を思い出しながら。
本当に、彼女には……そして、この名も知らぬ伝説のエルフには、感謝しかない。
ラトラルは悠久の時を掛けて、精神の中で磨いた。
三種の魔法が、自身の中で一つとなって定着するよう練り上げた。
「ふざけるな……! 答えろ! 貴様、何を仕組んだ!」
焦燥し、地団駄を踏むジェルマンに、ラトラルは手にした刃を向ける。
古代魔法の原理が組み込まれた武器。
あらゆる魔法を破壊する、対魔法特化型武器。
今のラトラルの魔法は――ただの『武器創造魔法』ではない。
そう……言い換えるならば。
「『古代魔法継承武器創造魔法』」
そして、手にした刃の名は。
「――【魔法喰らい】」
「貴様ぁあああ!」
激昂したジェルマンが、暴走する。
火炎の球体、火炎の矢、『火炎操作魔法』であらゆる火炎の飛び道具を乱造。
その全てをラトラルに放つ。
対し、ラトラルは手にした【魔法喰らい】を振るう。
漆黒の刃は、まるで貪食な肉食獣のように、飛び込んできた火炎を噛み砕く。
掻き消す。
高温の炎熱と爆発力を孕んだ攻撃の波を、いとも容易く無力化する。
無論、それはラトラル自身の向上した身体能力もあって成せる技なのだが。
だが、ジェルマンはその一瞬の交戦で思い知らされた。
今自分が相手をしているのは……怪物なのだと。
「な……が……」
絶句し、滂沱と汗を流すジェルマン。
観衆は最早、ざわめきも忘れ戦いに見入っていた。
ラトラルが、ジェルマンへと歩を進める。
「いい気に……いい気になるなよッ!」
咆哮と共に、ジェルマンが発動したのは火炎の大鳥だった。
ハルカゼの編み出した【火焔の親凰】。
希少魔晶――『ヘルカイトの竜鱗』がもたらす膨大な魔力量により、魔獣と呼んで差し支えない程の禍々しい外見となった僕を繰り出し、ジェルマンは我を忘れて命令を下す。
「跡形も無く焼き払え!」
【火焔の親凰】の両翼が膨れる。
それは、完全に魔法の暴走だった。
次の瞬間、【火焔の親凰】は四方八方へ火炎攻撃魔法を放射する。
その攻撃の被害は、ラトラルのみならず、この演習場内にいる観衆達にも被害を及ぼす規模だろう。
誰もが、思わず背筋を凍らせた。
だが、ジェルマンはそんな事を把握していない。
自ら生み出した魔法の把握も、操作も支配も放棄した――正に暴走と呼ぶしか無い行動。
――その暴走を直前で止めたのは、ラトラルだった。
「いい加減にしろ、ジェルマン」
瞬く間だった。
床を蹴り抜いたラトラルが、【火焔の親凰】の懐に肉薄していた。
「自身の魔法に対する責任も捨てて、余計な被害を出す気か」
振り上げた【魔法喰らい】が、【火焔の親凰】の喉笛に突き刺さる。
弾けるような轟音と共に、【火焔の親凰】は魔力の塵となって空間に拡散した。
発生した衝撃に観衆が体勢を崩すが、火炎の暴発に比べれば大した被害ではない。
「な……あ……」
「初めてハルカゼに【火焔の親凰】を見せてもらった時、彼女がこの魔法を繊細な技術で補っているのがわかった」
爆散した大鳥の残滓を見上げ、言葉を失うジェルマン。
そんなジェルマンの横に、ラトラルが降り立つ。
「この魔法はただの砲台じゃない。鳥の姿をしているんだ。飛行能力と機動力を発揮させれば、こうして本体を攻撃させない事だってできる」
「……な、ぐ……」
「ジェルマン、君は膨大な魔力と圧倒的な破壊力に気を取られ、そこに配慮できていなかった。ハルカゼなら、今の僕の攻撃だって回避できただろう」
酷く憐れみを含んだ目を向け、ラトラルは言う。
「君に、自慢顔でこの魔法を行使する資格は無い」
「こ、この……このクソ旧型がぁああ、アガッ!?」
ジェルマンが何かを起こす暇も無かった。
ラトラルが肩に峰打ちを叩き込むと、ジェルマンは悲鳴を上げて床に伸びる。
一撃だった。
審判役の教員が駆け寄り、ジェルマンの意識を確認する。
そして、続行は不可能と判断したようだ。
「ラ……ラトラル=ラドファイアの勝利!」
屋内演習場が破裂した。
大部分は、思ってもいなかった結末に対する、純人間側のざわめき。
だが、一部――ウィズの生徒達が、ジャイアン・トキリングへの歓声を上げている。
「ラトラル!」
観衆を掻き分け、飛び出したハルカゼがラトラルに抱き付いた。
「よかった……! ラトラル! 無事で、本当によかった……!」
「ははっ……心配させちゃってごめん。ありがとう、ハルカゼ」
涙混じりの声で、ハルカゼは強く強くラトラルを抱き締める。
ラトラルは、そんなハルカゼの背中に優しく撫でる。
そこで――。
「ジェルマン」
ラトラルは、気絶から意識を取り戻したジェルマンへと視線を向ける。
未だ自身の敗北を受け入れられていないのか、茫然自失状態だ。
ラトラルが声を掛けると、ジェルマンはビクッと肩を揺らした。
「決闘は僕の勝ちだ。負けを認め、誓約を口にして欲しい」
「う……ぐ……」
縋り付くように審判役の教員へと目をやるジェルマン。
しかし、彼が目を逸らすと、もう逃げ場が無い事を理解したのだろう。
キスカーレ家の名を背負い、正式な決闘に負けたのだ。
「わ、わかった……」
ジェルマンは床に手をつき、俯いた姿勢のまま言う。
「ハルカゼ=ノアの魔法は、自動生成魔法具のメモリから削除する。二度と読み取りもしない」
首から提げた自動生成魔法具に触れながら、そう口にする。
「それと、彼女への発言に対する謝罪は……今、ここですればいいのか? それとも、場所を改めて?」
「今、この場でだ。彼女に頭を下げて、しっかりと謝って欲しい」
「……わかった」
素直に答え、ジェルマンはゆっくりと体を起こし、立ち上がる。
「ラトラル!」
その時、ハルカゼが叫んだ。
気付くと、ラトラルが握った武器――【魔法喰らい】に、赤い光が触れていた。
光の元は、ジェルマンの手元。
体で覆い隠すようにして操作していた、自動生成魔法具からだった。
「ジェルマン……君は……」
「くくっ……約束通り、彼女の魔法もメモリから消そう。この場で謝ってもやろう。だが、これは別に咎められる筋合いは無い」
赤い光が格子状に広がり、【魔法喰らい】を包み込む。
「ははははっ! 読み取ってやったぞ! その気味の悪い力を!」
嘲笑を浮かべ、ジェルマンが天を仰いだ。
「貴様がどんな手を使ってそんなものを生み出したのかはわからない! だが、強力なのは確かだ! 光栄に思え! それだけの異能の力、この僕も使ってやろう!」
「ジェルマン……! あなたって人は!」
「なんだ、ハルカゼ? 君の力はもう要らない。こんな簡単に負けるような魔法、期待外れだ。好きにしろよ」
ジェルマンは哄笑を浮かべる。
「見た事も無い異能の力……! この力も僕のものにしてやる……! もしかしたら、兄様にも勝て――」
その時だった。
キィ―――――――――――、と。
ジェルマンの自動生成魔法具が、耳障りな音を立てた。
「え?」
ジェルマンは胸元を見下ろす。
自動生成魔法の溝を、赤い光がメチャクチャに走り回っている。
異音は止まらない。
演習場内に響き渡る程、音は強くなっていく。
「な、なんだ、何が起こって……」
狼狽するジェルマンは、そこで気付く。
自動生成魔法具にセットされた魔晶――深紅の魔晶が輝き、内側から膨れ上がるように光を強めている。
ピシ、ピシ、と、ヒビが走り始める。
「ま、待て、なんで――」
――爆音を轟かせ、自動生成魔法具が吹き飛んだ。
爆発。
轟音と発光を伴い、自動生成魔法具も、魔晶も、粉々に砕け散る。
「な、何が起こったの……」
「……エラーが起こった、のかも」
寸前、ラトラルは爆発からハルカゼを庇うように抱き寄せていた。
事態が読み込めないハルカゼを解放しつつ、ラトラルが呟く。
「おそらく、僕の魔法は自動生成魔法具でも分析できないのかもしれない」
未知の古代魔法が組み合わされたためか、それとも、別の理由のせいか。
具体的な原因は不明だが、ラトラルの『古代魔法継承武器創造魔法』を読み取ろうとすると、魔法具がエラーを起こし、暴発してしまうらしい。
「ごめん、ハルカゼ。残念だけど、約束の半分は履行させられなかった」
至近距離で爆発に巻き込まれたジェルマンは、観衆の方まで吹っ飛んでいた。
全身が煤塗れで、硝煙を上げており、重体なのは見て明らかだ。
取り巻き達に、慌てて救護を呼ばれている。
ハルカゼへの直接の謝罪は、今は無理そうだ。
「いいわ」
一方、ハルカゼは首を振ってラトラルを見詰める。
「今は、ラトラルが無事だった事……それに、ラトラルが勝ってくれた事が、一番嬉しい」
そう言って笑うハルカゼに、ラトラルも微笑みを返す。
「僕も、元気なハルカゼに戻ってくれて嬉しいよ。大衆の面前で抱き付かれたのは、ちょっと恥ずかしかったけど」
「そ、それくらい嬉しかったのよ。照れないでよ」
■ ■ ■
ラトラル=ラドファイア――ジェルマン=キスカーレとの決闘に勝利。
こうしてラトラルは、学院での生活を奪われず、ハルカゼの尊厳を取り返す事に成功した。
しかし――。
ウィズの一市民が、純人間の上級貴族に勝利した。
何よりもその事実が、この学院に……いや、現代の魔法世界に、大きな衝撃をもたらす事になるのだった。
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