第1章: 新たな出会い
僕が転校生としてこの学校に来た時は、正直言ってすごく不安だった。新しい環境、知らない顔、すべてが未知で、特にこの転校がどんな結果をもたらすのか全く予想がつかなかった。朝、学校の門をくぐった瞬間から、緊張の糸が一層強くなった。正直、心臓がバクバクと音を立てているのを感じながら、僕は校舎の中に入っていった。見慣れない教室、見知らぬクラスメートたちの視線が、一斉に僕に注がれるのは、何度経験しても慣れないものだ。
「えー、今日は新しい転校生が来るそうです。蓮くん、自己紹介をお願いします。」
担任の先生がそう言って、僕に視線を送った。僕は深呼吸してから、教室の中に立ち上がり、緊張しながらも笑顔を作った。自己紹介はこれからの学校生活で最も重要な第一歩だとわかっていたので、少しでも良い印象を持ってもらいたかった。
「こんにちは、みなさん。僕の名前は蓮です。これからよろしくお願いします。」
僕が言うと、クラスメートたちの反応はさまざまだった。興味深そうに見つめる人もいれば、無関心そうな顔をする人もいる。まあ、こんなものかと思いながら、僕は席に戻った。
その日の午後、僕が校庭を歩いていると、ふと音楽が聞こえてきた。最初はどこかで流れているラジオの音かと思ったけれど、よく耳を澄ますと、どこかの教室から生の音楽が響いているのがわかった。好奇心に駆られて、その音がする方へ向かってみた。
音楽室の前に立って、少しドアを開けて中を覗くと、そこには一人の少女がピアノを弾いている姿が見えた。彼女はピアノの前に座り、まるで音楽そのものに溶け込んでいるかのような表情をしていた。長い黒髪が光を受けてきらきらと輝き、彼女の指先が鍵盤の上で軽やかに踊っている。曲はとても美しく、心に残る旋律だった。
僕はその光景に引き込まれて、ドアをそっと閉め、少し離れた場所に立ち止まった。彼女の演奏には、ただの音楽以上のものが感じられた。まるでその音楽が彼女の内面の一部を外に出しているかのように。
「何してるの?」
突然、声をかけられて驚いた。振り返ると、同じクラスの男子が立っていた。彼はどこか冷たい雰囲気を持っていて、僕が驚いているのを見て、少しだけ興味を示していた。
「いや、ただ見てたんだ。あのピアノの音楽がすごく綺麗で。」
僕は答えた。彼は少しだけ首をかしげた後、口を開いた。
「彼女は七奈って言うんだ。音楽クラブの部員で、いつもあんな風にピアノを弾いてる。実は、ちょっとしたライブも開いたりしているんだって」
七奈という名前が、僕の記憶の中で繰り返し響いた。彼女の演奏がどれほど素晴らしかったか、今でも忘れられない。
「音楽クラブか…」
僕はつぶやいた。音楽に対する興味は昔からあったし、自分も少しだけギターを弾くことができる。でも、音楽クラブという場所がどんなところなのかは知らなかった。
「もし興味があるなら、音楽クラブに参加してみるといいかもね。」
男子がそう言った後、特に何も言わずにその場を去って行った。僕は少し考えた後、再び音楽室の前に立ち止まった。七奈の演奏はまだ続いており、彼女がどれほど音楽に情熱を注いでいるのかが伝わってきた。何かが心の中で引っかかり、僕はその場にしばらく立ち尽くしていた。
その後、音楽室のドアが開き、七奈がピアノから立ち上がるのが見えた。彼女はゆっくりとドアの方に向かって歩いてきて、僕が立っているのに気づいた。
「こんにちは、あなたが新しい転校生の蓮さんですね?」
彼女の声は優しく、どこか温かみがあった。僕は少し驚いたが、頷きながら応じた。
「はい、そうです。お邪魔しました。あの…音楽、すごく綺麗でした。」
七奈は少し微笑んで、軽くお辞儀をして言った。
「ありがとう。よかったら、音楽クラブに見学に来てください。新しい友達を作るのにいい機会かもしれませんよ。」
その言葉には、どこか親しみを感じた。もしかしたら、この学校で新しい何かを始めるきっかけになるかもしれないと思った。僕は頷き、七奈に礼を言ってから、その場を離れることにした。
帰り道、僕は一日の出来事を反芻しながら歩いていた。新しい学校、新しい人たち。まだ全てが不安でいっぱいだったけれど、七奈のように音楽に情熱を注いでいる人がいることがわかって、少しだけ希望が持てた気がした。
音楽クラブに参加するかどうかはまだ決めていなかったけれど、少なくとも七奈との出会いが、これからの僕の学校生活に何らかの変化をもたらす予感がしていた。それがどんな変化になるのかは、まだわからないけれど、今はただ、その期待感を抱きながら、明日のことを考えるのが楽しみだった。




