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8 はちみつ

 冒険者登録が無事に済んだ。


 グレイフが手渡してくれた冒険者カードには、私の名前とレベル、発行村が記載されている。まっさらなカードを手にした瞬間、胸が高鳴る。

 名前「松永さくら」、レベル「1」、そして発行村「レストード」が書かれている。何度もカードを眺め、嬉しさで顔がほころぶ。


「レオリックさん、キーランさん、見てください! 私の冒険者カードです!」


 二人にカードを見せると、二人は微笑んで頷いてくれた。


「さくら、おめでとう。これで君も立派な冒険者だね。」


「おめでと、さくら~」


 キーランの揺れる尻尾が可愛すぎる。くーちゃんも私の足元で嬉しそうに尻尾を振っている。

 喜びを噛みしめながら、カードをしっかりと握りしめた。

 学生証をもらったときのことを思い出した。あの時も、名前や学籍番号が書かれたカードを手にしたとき、とても嬉しかった。新しい生活が始まる予感に期待と不安で胸がドキドキしたものだ。その時と同じ気持ちが胸に広がる。


「私、頑張ってお金を稼いで、レオリックさんに出して頂いた宿代をお返ししますね!」


 決意新たに宣言すると、レオリックは一瞬驚いた顔をしたけどすぐ微笑んでくれた。


「ありがとう、でも、無理はしないでね」





「グレイフさん、それで、レオリックさんに蜂蜜とりができると聞いたのですが……」


「ああ、丁度いいな。リッチウッズの蜂蜜採取を手伝うといい。初心者に手頃だろう」


「安全ですか?」


「ああ、午前中に冒険者たちがハニースティンガー討伐をして安全になったエリアに行くんだ。それからこの村の住民やさくらのような初心者冒険者が巣の採取するんだよ。」


 グレイフの説明に頷く。


「それなら私でもできそうです! でも討伐って……」


「そう。僕やレオリックは、採取じゃなく討伐」


 キーランはそう言うと腰に下げた剣を指し示す。


 危険じゃないかと思ったけれど、でも、そうか。あのヴァーグを槍の一撃で倒した彼らなら、問題ないんだろう。





 私はグレイフの説明を聞いた後、レオリックとキーランの二人と別れ村の中心部にある広場に向かった。

 冒険者がまずハニースティンガーを討伐し、安全になったエリアに、荷車に木箱をたくさん載せて採取組が出発する。

 私がやるのは、巣を取り木箱に入れ、荷車にその木箱をのせる。この繰り返しだ。この後の行程のことはよく知らないけれど、専用の道具がある施設で住民たちが行うらしい。


 広場にはかなりの人数が集まっていた。私と同じ人間だったり、獣人さんだったり。

 くーちゃんも一緒に広場までついてきて、周りを興味津々で見回している。

 雑談しているグループもいて、一人で突っ立っているのはなかなか気まずい。なんとなくモジモジしていると、横から声をかけてくれる人がいた。


「こんにちは。初めて参加するのかしら?」


 声をかけてくれたのは人間の40代くらいの女性だった。


「私はセリーヌ。わからないことがあったら聞いてちょうだいね」


「あっ、ありがとうございます! 私はさくらといいます」


 セリーヌはとても親切で、採取のコツを教えてくれた。


「さくらちゃん、採取にはちょっとしたコツがいるのよ。まず巣を見つけたら、それを丁寧に取り出すことが大事。」


「おーい、そろそろ行くぞ!」


 係りの人だろうか、獣人の男性が大きな声で集合をかけている。





 荷車を先頭に集団で南西の森へ向かって歩く。

 くーちゃんは私の左肩に乗っている。よく落ちないな~と思うけど、そこはさすが猫なんだろうか?

 横を歩くセリーヌはとても気さくな人で、自分のことを教えてくれた。結婚して旦那さんがいること。旦那さんはお土産屋さんをやっているらしい。お子さんがいて、お子さんはアヴァロンという都市で働いているということ。セリーヌは普段は教会にボランティアに出向いているという。


「私、教会に行ってみたいと思っていたんです」


「あら、いいじゃない! 収穫祭までは忙しいけど、収穫祭が終わったら是非来てちょうだい」


 日本の神社とは全然違うそうだけど、興味がある。

 セリーヌとそうやって話をしていると、集団は森の中に進んでいった。

 森の中にはいって10分ほど進むと、先頭の荷車が止まった。


「始めるぞ~!」


 大きな声で号令がかかると、荷車から木箱やはしごをおろしはじめる。

 冒険者がまだ数人残っていて、これから森の奥へ行こうとしていた。剣や槍、弓をもっている。杖を持った魔法使いといったような冒険者は見当たらないけど、もう奥へ行っているんだろうか。


「さくら!」


 その冒険者の中にキーランがいて、私に駆け寄り声をかけてくれた。


「キーランさん! 大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」


 キーランは笑顔で頷く。尻尾がふりふりで可愛い。


「大丈夫。さくらは大丈夫?」


「はい」


 心配してくれたのが嬉しくて笑顔で頷く。


「終わったら広場で」


 キーランはそう言うと、森の奥へ行く冒険者の一団と合流し、森の奥へと消えていった。


「かっこいい人だね。さくらちゃんの彼氏かい?」


 横にいるセリーヌがニマーっと笑う。


「えええ?! ちっ、ちがいますよ!!」


 慌てて手を振る。か、彼氏なんて! 人生で一度もいたことありません!

 顔を真っ赤にして否定する私を、セリーヌは楽しそうにからかう。


「ふふふ。じゃあはじめようか」





 セリーヌさんの指導の下、慎重に採取を始めた。初めてこの世界に来た時と同じように大木が並び、その木に蜂の巣がくっついている。

 巣を慎重に木からはがすと、荷車で持ってきていた木箱に入れる。巣の大きさは様々で、私は自分の手の届く範囲の巣をとっていたが、高い位置にある巣はハシゴを使って採取されていた。

 小さいのは重たくないが、両手で抱えるほどの巣はなかなかに重たい。

 ヒーヒー言いながら運んでいると、近くで採取していたセリーヌが水を持って様子を見に来てくれた。


「なかなか腰が折れるだろう?」


「はいいぃ……」


 荷車に木箱をのせると、荷台がいっぱいになった荷車は村へと戻っていく。そして次の荷車がやってくる。

 額から汗がふきだし、ふーっと額を拭く。制服にハンカチ入れておいて良かったあああ。

 いただいた水を一気に飲む。しみわたるぅ……。


「これが収穫祭までの10日間ずっと続くからね!」


「ひいいぃぃ……」


 いや、ばててちゃだめだ! 私はいっぱいお金を稼ぐんだから!




 日が陰ってきたころ、ついに最後の荷車が出発する。

 やっと終わったあああ!

 もう足もガクガク、腕もプルプルだ。


「お疲れさま! 頑張ったわね」


 セリーヌが笑顔で声をかけてくれる。


「つ、疲れました……」


 ようやく声をしぼりだすと、セリーヌは笑う。

 私は笑う元気もないのに、もしかしてセリーヌさんって超人じゃないだろうか?


「さて、最後の一仕事。村へ帰るわよ~」


 セリーヌの言葉にがっくりとへたりこむと、くーちゃんが私の頬をなめてくれた。

 うぅ、頑張って歩くよ。

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