5 レオリック視点 不思議な少女
―――レオリックの視点
「私はさくらといいます。先ほどは助けて頂いてありがとうございました」
目の前の少女は頭を下げて感謝を述べてくれた。
見た感じ10代の半ばだろうか、身長は成人女性に近い。ただ、キーランの尻尾を目でおいかけて顔が左右に動く様を見ると、まるで子供のようだ。
肩より少し下まで伸びた柔らかな茶色の髪が特徴的で、髪は自然なウェーブがかかり、優しそうな顔立ちをしている。大きな茶色の瞳はまるで水晶のようで、見る者に優しさと温かさを感じさせる。彼女の頬は健康的な赤みを帯びており、怪我はおろか体調の良さが見てとれる。
見慣れないデザインの上着とスカート、特に赤と茶色の縞模様は、この世界では珍しい。上着の襟元に結ばれた赤く太い紐や、胸元に付けられた紋章のようなバッジは見たことがない。姿勢が良く、どこかの貴族の娘と言われても遜色ない。
「こんなところで何をしていたの?」
ひとまず、ヴァーグに刺さった愛用の剣を抜きながら、さくらという少女を見る。すると、さくらは戸惑ったような表情をして、首を横に振った。
「それが……私もよくわからないんです」
「わからない?」
キーランと二人目を合わせて顔をしかめる。さくらの癖なんだろうか、身振り手振りを加え説明を始めた。
ジンジャという施設の奥にある屋敷にいったこと、その屋敷の中にあった鏡を触ったら落ちたこと、そして気づいたらここに倒れていたと言った。
さくらの横でおとなしく座っている黒猫のくーちゃんとは、随分仲が良いと思ったのだが、出会ったばかりだという。
「ちょっと俺にもよくわからないかな……。そのジンジャというのは何だい?」
顎に手をかけ首をひねると、キーランも頷く。さくらは驚いた顔を見せたが、ジンジャについて説明をしてくれた。
「教会みたいなもんか?」
「神に祈りを捧げる場所ならそうだね」
俺たちの話を聞いていたさくらの表情が曇る。
「教会……」
彼女はそう呟くと黙ってしまった。
彼女の話が真実なら、彼女はこの世界の住民ではない可能性が高い。鏡に触れて、落ちてこの世界にきたというのも想像ができない。その鏡というのは魔法アイテムだったんだろうか?
確かにこの世界には様々な魔法アイテムが存在する。そういった魔法アイテムがあっても不思議ではないが、別の世界へと渡るような力のある魔法が存在するだろうか?
そもそも、この世界以外に、別の世界が存在する……?
やはり、にわかに信じがたい話ではあるが……目の前の少女を見ると、嘘をついているようには見えない。
横を見ると、キーランも同じように腕を組んで考え込んでいるのが見える。
ふと、木々の間から降り注ぐ陽の光に陰りを感じる。
もうすぐ暗くなるだろう。
「それより、もうすぐ陽が落ちる。このままここにいることはできない。夜になると、色んなモンスターが活発になり危ないんだ。とりあえず、近くの村に一緒に行こう」
考え込んでいる二人に声をかける。
「私も一緒に行っていいんですか?」
さくらは、不安の色を濃く顔に浮かべて俺の顔を見る。
「もちろんだよ。くーちゃんもね」
不安そうな少女に、安心させるように俺は微笑んで頷いた。表情が明るくなった少女とキーランを促し、レストード村に戻るべく歩き始める。
くーちゃんを抱き上げ歩く少女。森を歩きなれていないのか、足元が危ない。それに、かばんも持たずに、着の身着のままのようだ。
このまま、この少女と猫を森に残せば、たった一晩ももたずに朝を迎えられることはないだろう。
村に連れて行っても、宿屋に泊まれるお金も持っていないように思う。
それでも、俺たちは冒険者だ。冒険者として困っている人を助けるのは義務であり、責務だ。しかし、ずっと援助を続けることもできない。今後を考える必要がある。これについてはグレイフに助言をもらってもいいだろう。
キーランの揺れる尻尾を目を輝かせながら追うさくらとくーちゃんの様子を見ると、彼女が悪い人間のようには思えない。キーランは、さくらに尻尾を狙われて困っているようだが、その様子が微笑ましい。
二人の様子を見てくすくすと笑いながら、俺たちは帰路を急いだ。
次回からさくら視点に戻ります。
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