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3 レオリック視点 レストード村に到着

 ―――レオリックの視点





 俺とキーランがレストード村についたのは翠月(5月)の1の日だった。

 夏までの数か月、この村で滞在する予定だ。


 ここレストード村は人間の王国アヴァロンと獣人の王国フェルベリアの中間に位置し、商人たちが行き交う中継地として栄えてる村だ。

 四方を豊かな森に囲まれ、澄んだ小川が村の中央を流れている。春には村中が花で埋め尽くされ、蜜蜂が忙しなく飛び交う様子が見られる。

 アヴァロンの領土内ではあるが獣人の姿も多く、時にはエルフやドワーフの姿を見かけることもできる。

 特に翠月(5月)や陽月(6月)には冒険者が集まり一層の賑わいを見せる。


 その理由が、このレストード村の南西に位置するリッチウッズと呼ばれる森だ。

 リッチウッズは四季折々の花々が咲き誇る豊かな植物に覆われ、蜜を多く含む花が多いことからハニースティンガーと呼ばれるモンスターの生息地として知られている。

 ハニースティンガーは特にレベルが高いモンスターではなく、冒険者に積極的に狙われるわけではないのだが、ハニースティンガーが集める蜂蜜が効果の高い回復ポーションの素材となる。

 冒険者ギルドやポーション屋に持っていくと「リッチウッズの蜂蜜」は高く売れる。そのため、この時期は冒険者が集まり我先にと蜂蜜採りに精を出すのだ。


「ここに来ると、帰ってきた……って感じがする」


 隣では友人のキーランが背伸びをしている。


 俺たちは2年前、1年前と連続でこの村に来て蜂蜜採集をしている。金策になることは勿論、この村の雰囲気が好きだからだ。

 朝早くから村人たちは畑に出て働き、夕方には広場に集まって互いの収穫を称え合う。子供たちは小川で遊び、老人たちは木陰で昔話を語り合う。市場では新鮮な野菜や手作りの工芸品が並び、村全体が活気に満ちている。


 近頃各地のモンスターの数が増え、狂暴化しているとの噂もある。モンスターの被害は年々増えていき、拡大化している。

 その中でもこの村はのどかで住民たちも親しみやすく、冒険者を歓迎してくれる。ハニースティンガーがレベルの低いモンスターと言えど冒険者でもない住民には危険だ。そこでハニースティンガーの数を減らし蜂蜜を採集する冒険者を暖かく迎えてくれる。

 通りを歩くと、市場の賑やかな声が響き渡り、新鮮なパンの焼ける香りが鼻をくすぐる。


「あっ、あそこのパン後で食べたい」


 キーランは目を輝かせ通りにあるパン屋を指差す。



 リッチウッズでの蜂蜜採集は古くからの伝統で、レストードは蜂蜜により栄えてきた村だ。そのため、村のいたるところにハニースティンガーや蜂蜜を模した工芸品が数多くある。


 宿屋「レゲン」の入口には木製の看板が掛かっており、蜂蜜の絵が描かれている。中に入ると、暖かな暖炉の炎が揺らめき、木の香りが漂う。壁には地元の工芸品が飾られ、テーブルには色とりどりの花が活けられている。蜂蜜が描かれた前掛けを着た女性が受付の裏から顔を出す。


「レオリック、キーラン! 今年も来てくれたのね」


 宿屋の受付をしているマリエルが笑顔で出迎えてくれた。マリエルは歳は30代頃に見える朗らかな人物だ。

 俺たちはレストードに来ると必ずこの宿屋に宿泊する。最初は冒険者ギルドの紹介でこの宿屋に宿泊したのだが、大当たりと言える。宿代は安く、飯が旨い。


「今日着いたのかしら? 丁度良いと思うわよ。そろそろ解禁されるはずだから」


「そうか、良かった~」


 受付帳に記名をしながらキーランが答える。


「去年は読みがはずれて、2週間も前に来たんだよなぁ」


 俺が苦笑しながら言うと、キーランが受付カウンターに寄りかかり頬杖をつく。


「スゲー暇だった……」


「ふふふ。今年はバッチリだったわね!」


 そんな俺たちを見てマリエルが笑う。

 この村では、ハニースティンガーの繁殖期や蜜の収穫に適した季節が決まっているため、村長や冒険者ギルドが安全性を考慮して解禁日を設定している。そうして解禁されてから10日後には収穫祭が開催される。


「明日冒険者ギルドに顔を出してくるよ」


 俺がそう答えるとマリエルは大きく頷く。


「グレイフがきっと待ってるわよ!」





 翌日冒険者ギルドに向かうと、多くの冒険者とすれ違う。みんな蜂蜜狙いなんだろう。冒険者ギルドの扉は開かれており、そのまま扉をくぐり正面にある受付カウンターへと進む。


「よう、レオリック、キーラン。無事到着して何よりだ」


 カウンターの奥から聞こえた低く力強い声に振り向くと、グレイフが立っていた。彼はレストード村の冒険者ギルドのギルドマスターで、40代の獣人だ。狼の特徴を持ち、灰色の耳と尻尾をもつ。鋭い目つきと力強い体格が、彼がただ者ではないことを物語っていた。


「グレイフ、今年もお世話になります」


 俺は手を挙げて挨拶する。キーランも同じく手を挙げて笑顔を見せる。


 グレイフはにやっと笑いながらカウンターに近づいてきた。


「お前たちが来ると心強いよ。蜂蜜採集が解禁されるまで、少しの間待ってくれ」


「もちろんだ。今年も沢山蜂蜜を集めるつもりだよ」


 グレイフは頷きながら、俺たちに一枚の地図を差し出した。


「これはリッチウッズの最新の地図だ。新たに発見された蜂の巣の場所も載せてある」


 俺たちは地図を受け取り、感謝の言葉を伝えた。


「あ~、そうだ。明後日には解禁されると思うが、その前に1つクエストを受けてくれないか?」


「クエスト?」


 キーランがぴょこんと耳を立てると、グレイフが地図のレストード村の東の森を指し示す。


「なんかよ、ここにヴァーグの目撃報告があったんだよ」


「ヴァーグ?」


 ヴァーグというのは狼型のモンスターだ。

 動きが速く、爪や牙も鋭い。中堅クラスのモンスターだ。

 過去にも家畜を襲ったり、村人を傷つけたりしている。


「そうだ。最近になって村の近くで目撃されたんだ。村人たちが不安がっているから、早めに対応してほしい」


「了解。ヴァーグならなんとでもなる」


 俺は地図を確認しながら答える。

 キーランはグレイフの耳を見て笑った。


「狼型のモンスターだし、グレイフの仲間みたいなもんだよね」


 グレイフは苦笑しながら首を振った。


「あいつらは俺とは違う。気をつけろよ」


 俺たちはグレイフに別れを告げ、早速宿に戻りクエストに取りかかるために準備を始めた。武器や装備を再確認する。


「レオリック、準備はいいか?」


 キーランが確認する。


「うん、行こう」


 俺は頷き、二人で東の森へと向かった。

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