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2 レストード村

 レオリックとキーランが先導してくれる道をひらすら歩く。

 前を歩くキーランの揺れる尻尾がどうしても気になってしまう。

 私はくーちゃんを抱っこしながら二人の後ろを歩いているのだが……


「そんなに見られても……」


 眉をしかめたキーランが私とくーちゃんを振り返り言う。

 キーランの尻尾が右に揺れると私とくーちゃんの目が右へ。尻尾が左に揺れると左へと、どうしても目がいってしまう。


「気持ちはわかるよ。俺も初めて見たときは尻尾が触りたくてたまらなかったからね」


 エオリックが笑いながら言うと、キーランは嫌そうな顔をするが、私は全力で何度も頷いてしまった。


「本当にここは不思議な場所ですね。私の知っている世界とは全然違う……」


 あまりに尻尾を見ているとキーランに嫌われそうなので、私は周囲の木々を見た。

 木々はとても巨大で先端が見えない。初めて見る植物や花は色鮮やかで、そのどれもが見たことのない種類のものだ。


「君がさっき話してた神社というのも俺たちは知らないからな。落ちてここにきたと言っていたけど、君は本当に違う世界から来たのかもな」


 キーランの言葉に頷き、この森で目が覚めた時のことを思い出す。それに、あの狼……。


「あの、先ほど私が襲われた……あれは、この世界に普通にいる生き物なんですか?」


「そうだね。森に生息するヴァーグというモンスターだ」


 狼ではなく、ヴァーグという名前なんだ。ということは生き物すべてが違う名前なのかな……覚えられるかな。


「ほら、もう見えるよ。レストード村というんだ」


 先頭を歩くレオリックが振り返って言う。





「わぁ……!」


 巨大な木々を抜けた先に、さくらの目に広がったのは、木でできた塀と門。その塀の中に数えきれないほどの家が建っているのが見える。

 夕暮れの光が素朴だけど巨大な門を照らしている。門に近づきよく見てみると、植物の蔦のようなものと、蜂の絵が描かれているのが見える。

 レオリックとキーランは門をくぐり歩いていく。さくらも二人と離れないように慌ててついていった。

 門をくぐり抜けると、村の中心部に向かう大きな道の両脇には花が咲いていて、その横を家々が並ぶ。遠くから聞こえる子供たちの歓声や、村人たちの声が心地よく響き、活気に満ちた雰囲気が漂っている。人も多く行き通っている。レオリックのように普通の人も、キーランのように耳や尻尾がついている人も沢山いる!


 うわあああ、すごい! 本当にここは異世界だ!


 私が見るものすべてに感動しながら歩いていると、村の中心部だろうか、大きな広場についた。

 広場には噴水、ベンチなどがあり、小さいながらも花畑が見える。


「さくら、だったね。ちょっと聞きたいんだけど、お金は持っているかい?」


 遠慮がちに聞いてくるレオリックの顔を見て、私は気づいてしまった。お金どころか何も持っていないことを!

 私は学校から家に帰り、そのまま母から用事を受け神社に向かい……荷物をおいたままあの屋敷に行き、この世界に落ちてきた。

 ずっと抱っこしていたくーちゃんを腕からおろし、制服のポケットを漁る。

 ハンカチ、櫛、あとは……ない!お金なんて1円も持っていない!

 真っ青になった私を見て、レオリックとキーランはお互い目を合わせている。


「ごめん、なさい……。私、お金もっていません……」


 がっくりと肩を落とした私を見て、キーランがふっと笑う。


「もし持っていても、さくらの世界のお金が使えるとは思えないけどね」


 確かに、そう。使えるとは限らない。

 どうしよう……。帰る方法を探すにも、まず食べるもの、寝る場所を探さなくてはいけない。服だって、かえの下着すらない。

 この村でアルバイトとかできるんだろうか?でもその前に私なんか雇ってもらえるんだろうか?

 いや、その前に今日どうしたら良いんだろうか?夜ごはんや寝る場所を見つけなくてはならない。


「とりあえず、今日の宿代は俺が出すよ」


「え?!」


 レオリックの言葉に驚いて顔を上げると、彼は優しく微笑む。


「さくらはこの世界にきたばかりで何もわからないだろうし、女の子の野宿は危険すぎる」


「でも、良いんでしょうか? 私、宿代を出していただいても、どうやってお金を返せば良いのかもわかりません……」


 レオリックは私の言葉を聞くと、顎に手をあて少し考えると口を開く。


「大丈夫だよ。とりあえず一晩だけだから。今後のことは夕食を食べながら考えようか」


「ありがとう……。本当にありがとうございます!」


 深く深くお辞儀をする。

 とりあえず今晩の心配はなくなるし、この世界でのお金の稼ぎ方も一緒に考えてくれる。右も左もわからない私としては、こんなに心強い言葉はない。


「俺たちが今泊っている宿屋があるんだ。そこでいいかな?」


「はい! ありがとうございます!」


「じゃあ、宿屋に向かおうか」


 レオリックは私に向かって頷くと、先導して歩き始める。

 私はもう1度くーちゃんを抱き上げると、彼の後について歩き始める。


 レオリックに宿代を返すためにも、働かなきゃいけない。

 私でも働けるアルバイトがこの村にもあるんだろうか?

次回からレオリック視点の話が数話続きます。


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