幕間 クルン王国三十二候会議
幕間 クルン王国三十二候会議
人族生存圏最南端の国クルン王国。
都市の南北を走る大河で守られた、縦横30kmもある巨大な城塞都市国家である。
現王は122代目にあたり、代を重ねる毎に広げられる石造りの巨大な城壁は、中央から第3城壁まで建造されている。
20万人の人族が暮らす都市の中央に建てられているのは、白鋼石と金箔で彩られた絢爛豪華な王宮。
その円卓の間には、現在クルン王国を支配する32人が集まり、会議が行われていた。
「次に、国軍第3軍団長代理より報告します。第72期大草原開拓事業の失敗報告です」
1の王、7の貴族、24の各庁官からなる会議は、クルン王国三十二候会議と呼ばれている。
そのうち、末席にほど近い所に座っていた若輩と呼んでいい風貌の男は、手に資料を持ち、席から腰を浮かす。
「国軍第3軍団長ベルナンド様の代理、第3軍団情報部隊長補佐官です。我が国の食料不足解消のために行われた、第12番開拓村の34期入植は、失敗に終わりました。
原因は、獣人族の子供が狩りの練習を行ったためです」
また獣人族か。という声が方々から上がる。
「入植したのは、農業開発部門から25人と公募の農家250人、城壁設置部門から技工20人と公募の荷役……まあ、日雇い労働力ですな。これが100人。他、行政担当が30人と、医療や建築の専門家など合わせ75人。それと、その家族が約300人ほどになります」
「合計800人か。獣人族の狩りとなると、全滅か?」
「いえ。逃げてこの国に辿り着いた者がおります。
その者の話によれば、事前に狩りが行われる事を知る事が出来たらしく、最低限の足止めを残して、村を脱出してきたと報告を受けています」
「事前に狩りが行われる情報を得ただと?」
「バカな! そんな事がなぜわかる!」
「逃げてきた村長役の者の話によれば、獣人族の子供と、農家の子供の間に事前の接触があったらしく、その農家の子供から情報を知り得たようです」
「接触とはなんだ。殺されたのか?」
「いえ、……情報によれば、1週間ほど、農作業の終わりに遊んでいたと」
32人もの大人が一斉に黙り込む異様な空気。
若輩者の補佐官には堪ったものではない。
「どうして、そんなイカれたやつが入植に参加していた? 入植公募は審査があったのだろう。そもそも国の教育はどうなっている。ふざけてるのか」
「いや、その公募はあくまで農家の家長に対して審査を行うものでありまして、その家族や農奴までは審査の対象にはなっていなかったようで……。それと、教育は教育庁の方に聞いていただいて……」
ベルナンドが送った視線を、教育庁官は俯いたまま目を合わさず、やり過ごす姿勢である。
口の中でだけ「じじいが」と呟きながら、助けを求めて最上位に座す主へと視線を向ける。
「……教育は、考える必要がありそうだな。被害は?」
「はい。足止め役を担った農家80名と荷役40名ほどが現地に残り、他は全員この国へ向かって来ていたそうですが、途中でランク3の魔獣に襲われたらしく、辿り着いたのは400名ほどになります」
「村で獣人族の子供の糧になったのが120人、逃走中に魔獣に喰われて死んだのが280人か。どっちも、出くわした相手の割に被害が少ないのは、幸運だったな」
「仰る通りかと。襲撃後、国軍第3軍団の偵察部隊が現地調査に赴いた結果、大量の血痕を確認しております」
「生存者を家探ししたのか?」
「勿論、それも行ったそうですが、生存者は1人もおりませんでした。……また、民家の中から様々な物が盗まれた跡もあったという事から、ロードバンの民が火事場泥棒を行ったのではないかと推測されます」
「無法都市ロードバンの連中か。あのクソ蠅どもが。どこから聞きつけてきやがるんだ」
「ロードバン都市国家が崩壊して100年余り、あの都市のゴミ共は増える一方だ」
そして、会議の議題は、壊滅した開拓村から、崩壊した都市国家ロードバンへと変わっていく。
開拓村にいた、少年と少女の事など、彼らが知る由もない。