表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘力がインフレした世界で、アウトローはダーティに生きる  作者: 士峰
1章 無法都市ロードバンの浮浪児
5/24

弱いからだよ



 弱いからだよ 2



「アニキ。……そこに他のガキも隠れてたんすね。気付きませんでした」


 すんません。というチンピラの男の前に、首根っこを捕まれて引きずり出される。


 すぐ足元には、鼻から上を潰された子供の死体。


 アニキという男の手から解放された僕の頭を、今度はチンピラが掴むと、僕の顔を倒れた死体に近づける。


「で、テメーはこいつのグルか? ん?」


「ぼ、ぼくは……」


 徒党を組んで盗みを働くなんて発想は無かった。

 全く知らない。


「ぼくぅ? 何だお前良いとこのぼっちゃんかぁ、おいおい! ぼぉおおおくちゃぁああん」


「ぼ……俺は、こんな子供知らない。そもそも、この街にだって、先週攫われて来たんだ。知己なんて、いない」


 ぎゅっと瞼を瞑り、嘘偽りなど無いのだと、弁明を試みる。

 明確に、今、命を握られている。


「どーしてぼくがこんな目にぃとか思ってんのか? あ? 教えてやるよ、それはなぁ、ぼくちゃんが弱者だからだよぉ!」


 『弱いからだよ』


 また、またそれか。

 弱い事は、そんなに悪い事なのか。


「言い返さねえのかよ、つまんねぇクソが。

 こいつどうします、アニキ?」


 力を緩められて、頭が子供の脳漿に落ちた。

 気持ち悪い。

 口から吐瀉物が溢れ出すのも構わず、必死で顔についた血を払う。


「グルじゃないなら、良いだろ」


 然程、興味も無いのだろう。

 アニキと呼ばれた男は、あっさりと僕から眼を逸らした。


「子供の死体は、気にする奴もいる。クソガキ。この死体持って東のスラムに真っすぐ進め。看板もねえ臭い肉屋で買い取ってくれる」


 その店を思い浮かべる。

 知っている。

 小銭貨1枚で焦げた屑肉を売っているスラムの店だ。


 道に落ちていた銭貨を拾って、そこで屑肉を買った事がある。生臭くて筋張ってどうしようも無い味だった。


「分かったなら持ってけ。俺たちは行くぞ」


 2人は僕たちをその場に残して、馬車通りへと出て行った。


「……」


 暫し、呆然とする。


 以前、ファナティに、人殺しはいけない事だと言った。

 なのに、こんなにも。


「僕たちの命は、なんでこんなに」





「頭にタトゥーいれた人のアニキって人が、この死体をここに持って来いって言ってた」


「正面で声かけんな裏口まわれ」


 ぶよぶよに太った髭面の店主は、ぶっきらぼうに言うと、自身も店の奥に消える。


 僕の力では、子供の死体を運ぶのは重労働で、引きずった血の跡がそこら中に点在している。


 スラムに、そんな事を気にする人がいるのかは知らないが。

「こっちだ。入れろ」


 店主に言われるまま、裏口から子供の死体を引きずって中に入れると、銭貨1枚を握らされた。


「ほら。さっさと消えろ」


 手の中の銭貨を見る。

 転がされた子供の死体。

 この店で売っている屑肉。


「……死体なら、なんでも買い取るの?」

「イカれてんのか。……新鮮な奴だけだ。腐乱死体持ってくんなよ。それはスラム街の奴らでも喰わねえ」


 不思議だった。

 この世界で肉と言えば魔獣肉だ。


 入手が困難で、その金額は非常に高い。

 村に住んでいた頃、肉は特別な日にしか食べられなかった。

 それが屑肉とはいえ、切れ端が銭貨1枚など、安すぎると。


 肉を食って育った人と、パンと野菜だけで育った人は、身体の筋肉が違う、と父さんが言っていた事を思い出す。

 だから、農家で身体を酷使していても、ムキムキにならないと笑って。


「おっさん……」





 店で売っていた屑肉を1つ持って、店を出た。

 スラム街は城壁と石造りの建物の陰になっていて、そこから見上げる空は狭い。


 口に入れた屑肉は、固くて、何度も何度も噛まなくては、とても飲み込めたものじゃない。


 飲み込もうとする度に、何度も吐きそうになるのを堪えて、無理矢理に胃へと押し込む。


 『人族が、弱いからだよ』

 『ぼくちゃんが弱いからだよぉ』


「うるせえ……くそ。……今日から、僕はやめだ」


 口についた脂を血みどろの袖で拭いて、爪が手の平に食い込んで皮膚を破るほど、強く、強く、拳を握った。


「俺は、……強くなりてぇな……クソッ」


 流れる涙も、痛む心も、弱い自分も。

 強くなるまでは、全部無視して進むのだと。

 そう、誓った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ