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~月影~


「・・・・・・くそがっ」


 自分が今まで思いのままに操っていたはずの精霊魔法によって逆に追い詰められ、身動きの取れなくなった俺は、何の意味も無い悪態を零す。


 優先順位。


 それが果たして、先に“霊王”として選ばれた事が重要なのか、それとも、適性の差なのか。・・・いずれにしても、こいつより後に生まれ、半分魔族の俺は、確実に下位という事だ。


 つまり、ここに居る限り、俺は精霊には頼れない。


 ふっ。無様なものだな。自分一人じゃ何も出来ない。結局俺は、顔も知らない母親から受け継いだ力に甘え、大切な者を救おうというこの時にすら、まだ寄りかかっている。



 ・・・・・・いや、そんな可愛いらしい感情じゃない。()()()いたんだ。



 霊王の力は強大だが、実質的には精霊に魔力を流し込み、俺の魔力回路を逆利用させるだけだ。


 つまり、ギブレイの血に・・・・・()()血に頼らず、戦う事が出来ていたのだ。


 だが、それももう今更だな。奴を殺す為とはいえ、俺は既に、その禁を破った。


 

 なら、もう躊躇う必要なんて、無い。


「シャンベル・・・・・。お願い。もう足掻くのはやめて? 大丈夫。私は、あなたから何も奪うつもりなんて無いの。あなたの知るピナは消えてしまうけれど、もともとあの子は私が造った仮初の人格。初めから存在しなかったも同然なのだし、どの道いずれは消えてしまうのだから、気に病む必要なんて・・・・・・」


「黙れ」


「・・・っ!」


「消えるのは、貴様だっ!!」


 亡霊の懇願とも取れる言葉に耳を貸さず、俺は内から溢れ出す感情の制御を()()()()


 憤怒、憎悪、殺意・・・・・意識を塗り潰す感情の奔流を止めることなく、真っ黒な海に沈んでいく様に、俺は、()()()を受け入れた。


「がぁぁぁああああああああああっっっ!!!!!」


 魔力回路が焼ける様に熱い。神経が千切れるほどの激痛が全身を襲う。


 だが、そんなもの知った事か。


「本当に、どうして、()()()()はそうなの・・・・・」


 ムニエが呟いたその時初めて、四人の姫君が同じような表情を見せた。


 けれど、俺の思考がまともに働いたのはそこまでだ。


「るぁぁああっ!!!」


 それまでびくともしなかった拘束を、容易く力尽くで破壊する。


 ロマネとの戦いでは精霊に意識と魔力を割いていた。だが今は、その必要が無い。


 ・・・・・・つまり、全ての力を、魔力操作につぎ込める!!


「凄まじいわ・・・・・()()


 亡霊が感嘆とも取れる呟きを漏らした直後、彼女だけで無く、()()()()()()()が、膨大な魔力を精霊に捧げる。


「くっ!? おおおおおおおおおっっっ!!!!」


 ムニエが生み出した無数の水の砲弾を膂力に任せて殴り散らす。


「っ!? ちぃっ!!」


 だが、背後に悪寒を感じ反射的に全力で横へ飛ぶと、つい今しがた俺が立っていた場所を、灼熱を帯びたマグマの鞭がえぐり溶かしていた。見ると、ルビーの髪を持つ姫が気だるそうにその鞭を振るっている。


「もう諦めなさい・・・・・苦しみが長引くだけだわ」


 悲哀に満ちた声に振り向くと、そこにはエメラルドの髪を持つ姫が立っていて、彼女の足元から伸びた無数の樹木が槍のように収束し、俺を串刺しにしようと迫る。


「ぐぁっ!? くぅぅぅぅっっ!?」


 どうにか腕を交差させ受け止めるも、防ぎ切れなかった樹木の槍が身体のそこかしこに突き刺さり血飛沫が舞う。直撃した腕は魔力を集め強度を増していたため千切れ飛ぶような事は無かったが、それでも深手を負う事は避けられなかった。


「はぁっ、はぁっ・・・・・ぐっ、ぉぉぉぉおおおおっ!!!」


 だが、それでも、ここで倒れる訳にはいかないっっっ!!


 血と共に力が流れ出ていく身体に無理やり有りっ丈の魔力を流し込み、擦り切れそうになる意識をどうにか繋ぎ止め、全力で踏み込む!!


「があああああああっっっ!!!!」


 姫君たちに反応させない速度で亡霊に迫り、俺は再び彼女の頭に手を伸ばす。


 この手が届けば、彼女を取り戻せる。その後は、命を全て燃やして魔力に代えてでも、この城のどこかに居る義母様ともども連れ出してみせる!!


「なっ!?」


 あと少し、ほんの数センチ前へと踏み込む事が出来れば、俺の手は彼女に届いた。


 だが、それは叶わなかった。



「・・・・その覚悟は、悲劇しか生まないわ」



 気づけば、彼女の瞳に宿るそれの様な暗闇が、俺の全身を絡めとっていた。


 どれだけ無理やり魔力を絞り出して全身の膂力を引き上げても、闇の拘束は緩むどころかびくともしない。


「離、せっ・・・!」


「あなたはただの“器”・・・誰にも負けない力さえ持って生まれ育ってくれれば、それで良かった。だからあなたの魂に私達は何一つ手を加えていない。なのに・・・・・シャンベル。どうしてあなたは、そんなにもあの方に・・・・ヴァン様に似ているの?」


「知った事か!? 貴様らが奴にどんな感傷を抱いていようが俺には関係ない! 俺を器にしてセントヴァンを復活させたいのなら好きにしろ! だが、ピナを解放しないのなら自害してでも貴様らの目論見は叩き潰す!!」


「この子とは、ほんの短い時間過ごしただけでしょう? どうしてそうまでして・・・・」


「そんなもの、愛しているからに決まっているだろうが!!」


「っ・・・!」


「命を懸けても救いたい! 何があっても守りたい! ・・・・出来る事なら、いつまでも傍でその笑顔を見て居たい!! 愛しているから、どうしようも無く幸せを願う! 当たり前の事だろうが!!」


「・・・・・・そう。そっか。似ているんじゃ無くて、同じなのね」


「っ!?」


 亡霊の目の端から、一滴の涙が零れ落ちる。


 その直後、徐々に、俺の意識が暗闇に染まっていく。


「こ、れはっ・・・?」


「ごめんなさい。ごめんなさい・・・・・・そして・・・」


 懺悔の様に涙を流しながら、俺の頬にそっと触れた亡霊は、掠れた声で、最後にこう告げた。




「・・・さようなら。シャンベル」



 

 その言葉が耳に届いたのを最後に、俺の意識は暗闇の奥底に沈んだ。

 

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