〜血別〜
俺はこの日を待ち侘びていた。
あの日から、この男を我が手で殺す事を願ってやまなかった。
国を捨て、妹を捨て、義母を捨てたこいつを・・・・・・いや、きっとそんなのは建前だ。
俺は、この男が、俺に全てを押し付けて居なくなった事が許せなかったんだ。
決して心から尊敬していた訳でも、父として慕っていた訳でも無い。そもそも、まともに会話したのも数える程だ。・・・・・・けれど、きっと期待はしていた。
世界随一の武闘派国家ブルガーニュを治める最強の魔王であり、義母が誰よりも信じ愛していた、この男を。
いつかその背中に追い付き、追い越して、立派な魔王になってみせると、夢見ながら。
だからこそ、あの日の裏切りが心の底から許せなかった。
勝手に期待して、勝手に失望した。
最初からこの男に、王としての尊厳も、父親としての愛情も、ただの一雫たりとも無かったと言うのに。
だから。
「っ・・・・・・これで、終わりだ!!!!」
この一太刀には、何の未練も無い。
俺が今から殺すのは、先代の魔王でも、父親でも無い。
目的の前に立ちはだかる、ただの障害だ。
だから、ただ、前へ進むために排除する。それだけだ。
「ふっ・・・・・・こんな時だけ、俺にそっくりな顔してんじゃねぇよ。馬鹿息子」
滅尽の剣が奴の身体に届く直前、そんな言葉が聞こえた。
けれど、その意味を考える暇など無かった。
意味を考える必要など、無いと思った。
俺にはもう、父だった男の言葉など、必要無いのだから。
・・・・・・・じゃあな。
 




