〜従える者〜
「戦争、か。威勢が良いのも結構だが・・・・・・まさか、この前みたいに俺が手加減すると思ってるわけじゃ無いよな?」
終焔様の宣戦布告を受けたロマネはその直後、自分の背後に幾つもの巨大な奈落の暗闇・・・‘‘門’’を開く。
あれが、ロマネ・ギブレイの‘‘独自魔法’’、『アーク』。空間を繋げる門だと聞いていたけれど、実際に目にするとその魔法の異常性がはっきりと分かる。それに・・・・・。
「蹂躙しろ。僕共」
獰猛な笑みで彼がそう告げると、門の中から次々に無数の魔物が湧き出てくる。
「「「「「ギャオォォォォォォォスッッッッッッ!!!!!!」」」」」
狼や熊の様な姿をした獣型、カマキリや蜘蛛の姿をした蟲型、トカゲや蛇の姿をした爬型など、数え切れない種類の魔物が、その凶悪な気配と共にあっという間に空を埋め尽くした。
そして、その背後からは・・・・・・。
「「「グルァァァァァアアアアッ!!!!!!」」」
「あれは!? エンシェント・ドラゴン!? それも、三体も!?」
竜型の中でも別格にして神話の存在、エンシェント・ドラゴン。一体と遭遇するだけでも天災に見舞われるのと同義なそれが、今私達の眼前に、三体現れている。まるで、世界の滅びを見ている様な光景だ。
先ず最初に出てきたのは、四枚の巨大な翼を持つ黄金の巨竜。その鱗は一枚一枚が大剣の如き鋭い輝きを放っており、触れるだけで何もかも切り裂いてしまいそうだ。
次に門から出てきたのは、翼を持たない二本の後ろ足で歩行する土色の巨竜。前足は獲物を掴んで離さないと言わんばかりの鋭利な爪がギラつき、その顎門からは、巨大な牙が何本も覗いており、岩盤すらも噛み砕く凶悪な気配を漂わせている。
そして、最後に現れたのは、鏡面の様な鉱石が無数に繋ぎ合わせて竜の形を成す、まるで前衛的な美術品の様な不可思議な姿の巨竜。その瞳に生物的な色は無く、ただ紅い光だけが暗闇から除いている。
どれも異様な姿と、圧倒的な存在感を醸し出す三体のエンシェント・ドラゴン。
その従者の如く、周囲には何種類もの竜型の魔物を引き連れている。
これが、ロマネのもう一つの独自魔法、『カシオン』・・・・・・。
魔物を支配する力と、門を開く力が合わさる事で、こんな驚異的な光景を作り出してしまうなんて・・・・・。これはもう、殲滅級と言って過言ではない規模の魔法だわ。
けれど、世界を終わらせる力を持つのは、彼だけじゃない。
「それで、手札は全てか?」
この光景を前にしても、終焔様は悠然と佇んでいた。その顔に動揺は一切感じられず、ただただ目の前の事実を確認しているだけという冷静さしか見て取れない。
「何・・・・・?」
「お前が支配している魔物は、これで全てかと聞いたんだ。出し惜しみしているなら、さっさと出せ」
「はっ! もし他に切り札を持っていたとして、何でわざわざお前に見せなきゃならない?」
「別に隠し持っておきたいなら好きにすれば良い。俺はただ、時間を節約したいだけだ」
「っ・・・・・・!!」
その時、再び終焔様の周囲の景色が激しく揺めき、エンシェント・ドラゴン達の圧倒的な存在感すら呑み込む、正体不明の強大な気配が、この場を支配した。
「俺はこの戦いで、お前に時間をかける気は無い。故に、最初から全力で行くぞ」
直後、終焔様が膨大な深紅の魔力を解き放つと、彼を囲む強大な気配が、その姿を現し始めた。
「霊王シャンベルの名に於いて命ずる。今この時のみ、その理によって現世を侵せ」
朗々と響き渡る祝詞の様な神秘的な声。
「『霊軍顕現』」
聞き覚えの無いその魔法名が告げられた直後、確かにはっきりと、私は目にした。
生涯この瞳に映る筈の無い、その存在・・・・・精霊達の姿を。
「終焔様、あなたは、やはり・・・・・・っ!!」
白い虎の姿をした者や、美しい女の姿をした者、雄々しい美丈夫の姿をした者、巨大な時計の針の様な形状の剣を携えた騎士の姿をした者・・・・・・そして、終焔様が魔王会談に現れた姿と酷似した、黒い鉱石を鎧の様に纏う、エンシェント・ドラゴンにも匹敵する巨大な竜の姿をした者。
数はロマネの支配する魔獣達と比べるべくも無く少ないが、一体一体が放つ存在感は、次元が違う。
その余りに神々しい光景と、当然の様に彼らを従える終焔様の正しく‘‘王’’と呼ぶに相応しい姿に、気が付くと私は、涙を流していた。
「精霊を受肉させた? ・・・・・いや、‘‘概念’’を‘‘存在’’に一時的に変換したのか。まさか、『霊王の瞳』にこんな使い方があるとはな」
「ロマネ。お前は魔物達に蹂躙しろ言ったが、俺はそんなぬるい戦い方をする気は無い・・・・・・」
終焔様は僅かな間瞑目すると、その手をゆっくりと前にかざした。
「精霊達よ。滅ぼせ」
その王名が静かに告げられた直後、数多の殲滅級魔法が、全てを呑み込んだ。




