〜鼓動〜
世界の鼓動が聞こえた。
無関係の者達からすれば、その日は何の変哲も無い、ただ少し曇り空で日が陰っているだけの一日だった。
しかし、ただ一人の青年を囲む者達と、彼らが向かう先に待つ者達は、確かに聞いたのだ。
まるで、世界そのものが胸を高鳴らせているかのような、その鼓動を。
その青年は、望まずながら‘‘魔王’’となる事を選び、欲してもいないのに‘‘最強’’の称号を与えられた、不運で哀れなただの子供だった。
けれど、今彼を囲む五人の魔王と、一人の王は確信していた。
わずか七年というあまりに短い時間の中で見せた、彼の成長。
優しき心根にそぐわぬ、圧倒的なまでの力。
危うさと引き換えに、玉座に着く者すら魅せる内に秘めた狂気。
その全てが、肩書きでは無く、存在としての‘‘王’’である事の証明だと。
故に、‘‘六帝天’’や‘‘聖母’’と呼ばれる王の中でも一段上に君臨しているはずの彼らは、自ら青年の後ろに連なる事を選んだ。
王同士という対等な立場では無く、彼こそが自分達を統べる存在だと認め、付き従っているのだ。
彼の進む道の先に待つのが、‘‘厄災’’だと、理解した上で。
「・・・・・・改めて、王である貴殿らに自ら出向いて貰った事、謝罪と共に感謝を述べさせて貰う。兵を無駄死にさせない為とは言え、玉座を空けてまで馳せ参じてくれた貴殿らには、返し切れない恩が出来た」
目的の地に辿り着く直前、振り返った青年が発した言葉に、王達はそれぞれの反応を返すが、誰一人として不快な表情をしている者は居ない。その態度が、彼に対する恐怖や打算では無く、己の意思でこの場に居る事を何より雄弁に語っていた。
「その上、ここに貴殿らを連れて来た理由は、婚約すらしていないたった一人の姫君と、血の繋がっていない義母を奪うという、どうしようも無い俺のエゴに付き合わせる為だ。我ながら呆れ果てる」
独白とも取れるその言葉は、酷く利己的で自己中心的な内容でありながら、どこか、懺悔のようでもあった。
「だが、敢えて言おう。俺は自らの欲望を叶える為、貴殿らを利用させて貰う。代償は後から幾らでも払うが、今だけは、俺の意思が絶対だ」
普段の彼からは考えられない高圧的なセリフだが、透き通る様な微笑を讃える今の彼が口にすると、それは正に、‘‘王命’’というに相応しい、君主の言葉として、耳にした者達の脳髄まで響き渡る。
「・・・・・・行くぞ」
目的の地を見据え、青年が静かに開戦の合図を告げた、その時。
七色の莫大な魔力光が、暗雲漂う天を染め上げた。
このお話以降は、物語の空気を優先して暫く後書き無しで投稿致します。
敢えて作者の言葉は添えませんが、読んで下さっている皆様への感謝は忘れておりません。




