〜お世話され慣れていない姫とお世話したいメイド長②〜
「お待たせ致しました。本日のディナーは、香草のリゾットと、オミエル海老のスープでございます」
「っ!・・・・・・こ、こんな贅沢なお品、本当に頂いてよろしいのですか?」
「もちろんでございます」
私がテーブルに並べた香しい風味を放つ二品に、ピナ姫は遠慮しながらも、今までよりほんの少しだけその大きな瞳を輝かせる。・・・・・良かった。嫌いな物は入って無さそうね。
安堵した私は、再び口を開く。
「寧ろ、これでもシャル様の命に従って、かなり品数も抑えているのですよ?」
「え?」
「ああ、誤解はなさらないで下さい。ピナ様のおもてなしは最善を尽くす様にと仰せつかっております。ただ、本日は長旅からの謁見と、疲労も心労も溜まっているだろうから、温かくて体に優しい物を出してやれ、と。シャル様が仰ったので。余り量が多過ぎても食べ疲れてしまうかもと思い、この程度に」
「そんな・・・・・・。私には、贅沢過ぎるほどに素晴らしいお料理です」
「そこまで仰って頂けるなら作り甲斐もあると言う物ですが、折角なので、ご感想は是非召し上がってからお聞かせ下さい」
「あ、そ、そうですね。・・・では、頂きます」
ピナ様はゆっくりとした所作でスプーンを手に取り、小さく口を開けてついばむ様にスープを飲む。
すると、目を見開いて暫し硬直したかと思うと、先程より幾分か早い所作でリゾットを掬い、口に入れる。
「・・・・・・はぁ。美味しい、です。凄く、凄く」
柔らかい筈のリゾットを、まるで飲み込むのを惜しむ様にゆっくりと噛み締めた後、ピナ様は吐息と共にそう呟いた。
「っ・・・・・!」
「っ!? ピナ様!?」
その呟きの直後、彼女の頬に一雫の涙が伝い、私は慌ててハンカチを取り出して優しく拭う。
「も、申し訳ありません! こんなに、こんなに美味しい物を食べたのは、初めてで・・・・・・。紅茶を頂いた時は、まだ我慢出来たのですが・・・」
「・・・・・・それはそれは。メイド冥利に尽きるお言葉。ありがとうございます」
彼女の境遇を、私は甘く見ていたと、今ハッキリ分かった。
シャル様に救われるまで、私は・・・・・・いや、私達は、貧乏と言うのも生温い、酷い生活をしていた。
故に、どこかであの方や私達以上に不幸な者など居ないのだと、思い込んでいたのかもしれない。
少なくとも、温かい料理を口にしただけで涙を流す様な、そんな境遇に見舞われている姫君がいたなんて、想像もしていなかった。
・・・・・・決めた。私も、彼女の事をただのシャル様のお客人では無く、一人の女の子として、大事に扱おう。
その方が、あの方もきっと、喜んで下さるから。
「ご存分にお召し上がり下さい。足りなければ、お代わりは幾らでもありますからね」
もう少し簡潔に書いて行く予定だったのですが、思いの外この二人のやり取りやソアヴェの心情を描くのが楽しくなって来てしまってw
ピナ姫は当然ですが、ソアヴェも今後居なくてはならないキャラになって行く予定なので、出来るだけ早く魔王様が活躍出来るよう書き進めますが、この二人の関係も楽しんで頂ければ嬉しいです。




