〜足音〜
「霊王の力を解放したところで、所詮は出来損ないか。・・・ったく、母親を殺してまで産まれておいて、このザマとはな」
「・・・・・・だったら、だったら最初から俺なんて作らなければ良かっただろうが!! わざわざ殺しに来るくらいなら、お前が魔王で居続ければ良かったんじゃ無いのか!?」
ムキになった所で何の意味も無い。今は冷静にこの状況を打開する策を考えるべきだ。・・・・・・分かってる、分かっているんだ!! なのに、言葉が止まらない!!
「どうしてお前はピニーや義母様を苦しめるような真似ばかりする!? 魔王の責務を放り出すような良い加減な男が、どうしてわざわざこの国の歴史に倣って俺たちを殺し合わせるような真似をした!? ・・・お前は、お前は何をしたいんだ!?」
「おいおい・・・。とうとう泣き言か? 我が息子ながら、情けないにも程がある。・・・・・・もういい。茶番は飽きたぜ。殺れ、グーラ」
「グルアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!」
「っっっっっ!!!! ・・・・・・くそっ、クソがあああああああああああ!?」
飽きた。この男は、いつもそんな下らない理由で、大切なはずの物を何もかも捨ててしまう。
・・・・・・俺は良い。出来損ないだと言うのなら、壊すなり捨てるなり好きにすれば。だけど、どうして、ピニーや義母様や、この国の民達までが、こいつの自分勝手な都合で傷つかなければならない!? 泣かなければならない!?
「・・・・・許さない。絶対に」
憎悪、殺意、そんな言葉じゃ表し切れないほどのドス黒い感情が、俺の心を、身体を、全てを支配した。
「ん? ・・・・・・はっ! やれば出来るじゃないか」
「グルアッ!?」
奴の声や、グーラの咆哮すら、どこか遠くに聞こえる。
もっと遠くで、霞んで消えそうな、誰かの俺を呼ぶ声も聞こえる。
だが、もうそんな事はどうでも良い。
俺のやるべき事は、ただ一つ。
この男を、殺す。
「『ノア・リヒト・ダモクレス』」
再び降り注いだ莫大な滅尽の光。
性懲りも無いと言わんばかりに、巨竜はその大口を開けて呑み込む体制を整えた。
・・・・・だが。
「・・・・・・?」
一向に己の腹に入って来ない、それどころか、自分に向かってすら来ないそれを、巨竜は不審げに見つめる。
当然だ。滅尽の光は今、俺の手の中に収束しているのだから。
「へぇ・・・・・・」
「・・・終わりだ。ロマネ・ギブレイ」
やがて、俺の手の中で滅尽の光は、大剣の形を成す。
ただの光だった頃よりも、収束、圧縮される事によってその密度を増したそれは、もはや触れるだけで何もかもを消し去る、世界最悪の凶器と化した。
「確かに次の段階には至ったようだな。少しは楽しめそうだ」
「楽しむ暇があるなら、好きにすれば良い。・・・『ロア・ロクシア・アラス』」
一度は暴走したピニーの手によって破壊された黒竜ロクサスの鎧を再び纏う。・・・だが、ただ纏い直した訳では無い。俺の背には、一対の翼が生えていた。
「・・・行くぞ」
「グルガッ!?」
一瞬にして奴らの頭上に飛翔した俺は、滅尽の光剣を構え、天空から矢の如くロマネに向かって急降下した。
「はぁぁぁああああああっっっ!!!!!」
「おっと!!」
未だ余裕の笑みを崩しはしないが、奴はギリギリのタイミングで反応して巨竜の頭から飛び退く。
だが、その巨体故に愚鈍な動きのグーラは間に合わず、その額に深々と光剣が突き刺さる。
「グルオオオオオオオオオオッッッッッッ!?」
「・・・・・お前に恨みは無いが、生かしておく訳にもいかない。すまない」
「グルアッ!? ガアアアアアアッッッッッッッ!?」
己の頭が内側から焼き滅ぼされていく激痛にのたうち回るグーラは、既に原型をとどめていない玉座の間を更に酷いあり様へと破壊していく。
そんな古の巨竜に、俺は一言詫びを入れると、手の中にある光剣へと更に魔力を注いだ。
「『ノア・リヒト』」
収束していた滅尽の光が、その密度を保ったまま、再び莫大な奔流となり、巨竜の頭蓋を消し飛ばした。
・・・少し間を開けて、首から下だけとなったその巨体が、轟音と共に、地に倒れ伏す。
「くくっ・・・・ハッハッハッ! まさか一撃でそいつの頭を吹っ飛ばすとはな! こりゃ傑作だ!」
「・・・次は貴様だ」
「ああ。良いぜ? 相手してやるよ・・・・・・と、言いたい所だが、残念。時間切れだ」
「何を・・・っ!?」
それまで腹を抱えて笑っていたロマネが、突然その相貌を鋭くした事を不審に思い、鋭敏になった感覚で周囲の気配を探ると、ここに居るはずの無い彼女の足音が、確かに聞こえた。
「なっ!? どうして・・・? どうしてここに来た!? ピナ!?」
既に崩壊している玉座の間の入り口だった場所に、いつの間にか彼女は立っていた。
その瞳には、見覚えのあるあの‘‘暗闇’’が宿っている。
「・・・・・・ごめんなさい。邪魔をする筋合なんて、私には無いのだけど、でも、今はまだ、その時では無いの。だから一度引いて頂戴。シャンベル 」
「ピナ・・・? いや、お前は・・・・・・・」
あまりにも、いつもの彼女とはかけ離れた言葉。
そして、その憂いを帯びた、泣いているようにしか見えない笑顔は、俺の知るピナの儚い笑みとは、似ている様で全くの別物だ。
「どういうつもりだ? お前の出番はまだ後のはずだろう」
「黙りなさい。血の奴隷。文句を言う資格なんて、あなたには無い。そうでしょう?」
ロマネと、ピナの身体で話す何者かの、訳の分からないやり取りに、俺の頭は更に混乱する。
「ふん。まあ別に良いが。分かってるのか? ここで出て来るって事は、もう後戻り出来ないぜ?」
「・・・・・・ええ。別に構わないわ。少し予定が早まるだけだもの」
「何の話をしている!?」
言っている意味は分からなかったが、不吉な予感が喉元までせり上がって来た俺は、思わずその焦りを言葉にして吐き出した。
「あなたは知らなくて良いのよ。どうせただの器なんだから」
「っ!? ムニエ!? 貴様、今までどこに・・・・・」
俺とロマネの戦いが始まってからずっとその姿を隠していた王女は、いつの間にか俺の背後の壁際に立ち、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
「そんな事より、良いの? 別れの挨拶を済ませるなら、今しか無いわよ?」
「別、れ・・・?」
俺は奴の不穏な言葉を耳にした瞬間、反射的にピナへと振り返る。
「・・・・・・ごめんなさい。シャンベル。本当はこの子の言葉で伝えるべきなのでしょうけど、それは、もう叶わないから、私が代弁するわ」
「・・・待て、待ってくれ!?」
訳も分からず、俺は彼女に向かって手を伸ばしながら必死で叫ぶ。
・・・だが、そんな事には、何の意味も無かったんだ。
「さよなら。シャル様」
その言葉を告げた時の、彼女の顔は、俺の知っている儚い笑みだった。
姫君と魔王様に別れの時が来るとは、書き始めた時には想像もしておりませんでした・・・・・・。
何とか年内にここまでは辿り着きましたが、中途半端な所で終わって申し訳ないです(-。-;
年始も今の所書き進めることができそうなので、内容的に時間かかるかもですが、なる早で投稿致します!
本年の秋頃から描き始めたこの作品を読んで下さった皆様、そして読み続けて頂いている神様には、本当に感謝しても仕切れません。作者のメンタルは皆様のお陰で一気に回復致しました!!!
本当にありがとうございました!!! 来年もよろしければ生暖かい目で魔王様達の行く末を見守って頂けると嬉しいです。
ではでは皆様、良いお年を。




