〜お世話され慣れていない姫とお世話したいメイド長①〜
「ソアヴェ。後は頼んだ」
「は。お任せを」
休憩室から出て来たシャル様に一礼し、私は入れ替わるようにして姫君の側まで行き、声をかけた。
「失礼致します。殿下。お食事、湯あみ、どちらもご用意が出来ておりますが、如何なさいますか?」
「・・・ありがとうございます。ですが、殿下などと呼ばれる程、私は立派な者ではありません。どうぞ、もっとぞんざいにお扱い下さい」
ふむ。うちのヘタレ魔王様も大概だが、こちらの姫君もあまり仰々しく敬われたりするのはお得意では無いご様子ね。
ま、ぶっちゃけ盗み聞きしてたから大体どんな性格は分かってるんだけど。
本来なら魔王様のお客人に無礼な振る舞いをするなんてメイドの名折れだけれど、暫くはご滞在されるご様子だし、ある程度は砕けた態度の方が気を遣わせなくて良いのかもしれない。
出来るメイドは礼儀の押し売りなどしないのだ。
「承知致しました。では、ピナ様とお呼びしても? 流石にお客人を呼び捨てにさせて頂く訳にも参りませんので」
「・・・・・・分かりました。では、その様にお願いします。えっと、それではお風呂の前に、お食事を頂いても?」
「かしこまりました。では、どうぞこちらへ」
そう言って私が手を差し出すと、ピナ姫は僅かにピクッと肩を揺らす。・・・・・・しまった。メイドとして配慮が足りなかったわ。
「・・・申し訳ありません。ピナ様。いきなりお手に触れようなどと」
お話を聞く限り、ピナ姫は魔族に全く慣れていないご様子。そもそも魔族と自然に接することが出来る人族なんて殆ど居ないのに、いきなり触れられそうになれば怖がるのは当然よね。
「い、いえ! ・・・・・・違うのです。その、誰かに触れられる事に、あまり良い記憶が無くて、反射的に体が震えてしまっただけなのです。決してソアヴェ様に触れられる事が嫌な訳ではありません」
とても申し訳無さそうに俯く彼女の表情は、どう見ても嘘を言っている者のそれには見えない。・・・ちょっと勘ぐり過ぎたみたい。人族に慣れていないのは、私も同じ、か。
それに、彼女の生い立ちからして、母国の王宮で受けていた扱いはきっと酷いもの。そのくらいの想像力は働かせなくちゃ、それこそ最高の魔王様に仕えるメイドの名折れだわ。
「いえ、私の配慮が足りなかったのは同じ事なので。それと、ピナ様? 私はメイドでございます。様など付けず、気軽にソアヴェとお呼び下さい」
「で、でも・・・・・・」
「その方が、私もお話しやすいので」
「・・・・・・分かりました。では、ソアヴェさん、とお呼びしても? その、多分、私の方が歳も下だと思うので」
「本来は、さん、も不要なのですが・・・承知致しました。あまりご無理を言って名前を呼んで貰えなくなるのも、寂しいですから」
「寂、しい・・・?」
「っ・・・・・・」
・・・う〜ん。これは、シャル様が一撃でノックアウトされたのも無理無いわね。何このキョトン顔。絵に描いて部屋に飾って毎日見ても飽きないんじゃないかしら? 端的に言ってめっちゃ可愛い。
同性の私でもこれなのだから、あの童貞拗らせヘタレ大魔王様が落ちない訳無い、か。
まあ、あの方の場合、まだ子供だったのにいきなり酷な試練を課されて、しかも魔王になっちゃって、この歳まで恋愛してる余裕なんて微塵も無いくらい多忙で辛い日々を送って来たのだしね。
・・・本当なら、仕事さぼって女を囲いまくってハーレムしてても誰も文句言わないのに。まったく、どうしようも無く真面目で、不器用で、優し過ぎる魔王様なんだから。
「そうそう。シャル様・・・魔王様の事も、よろしければお名前で呼んで差し上げて下さい。きっとお喜びになります」
だからまあ、これくらいのお節介は焼いてあげなくちゃ、ね?
「そう言えば、ソアヴェさんはシャル様と・・・・・。シャンベル様の略称、ですか?」
「はい。この屋敷に仕えている者は、皆あのお方をそう呼んでおります。昔、私達がシャル様にお仕えすると誓った日に、その方が気が休まるからと、あのお方が仰ったので。何でも、以前いらっしゃったご家族にはそう呼ばれていたとか」
「・・・・・そう、ですか。努力してみます」
「ふふ。そう気張らなくても大丈夫ですよ。さ、食事が冷めてしまいます。食堂に参りましょう」
「は、はい」
ご自分で立ち上がったピナ様は、私の後をまるで雛鳥の様にトコトコとついて来る。
・・・やっぱり可愛いな。この人。頑張って下さいよ。私達の魔王様。
早速魔王様が蚊帳の外になってしまいましたがw
でもじっくり色んな関係性を描いて行きたいと思うので、生暖かい目で見守りながら楽しんで頂ければ幸いです。
その分更新は出来るだけ早くなる様頑張ります。・・・多分w




