〜悪夢の囁き〜
私のお兄様は、弱い人だった。
繊細で、臆病で、口下手で、うっかりしていて・・・・・・本当に頼り無くて、でも、とても優しい人。
優し過ぎるせいで、王子だから、長男だから、兄だからと、自分じゃない誰かの分まで沢山の重りを背負って、必死で背伸びをしていた。努力をしていた。
放っておけば壊れてしまうのではと心配になるほど、自分を追い詰めることも度々あって、お母様に怒られたり。
そんなお兄様が、私は大好きで、お兄様もきっと、私の事を愛してくれていた。
・・・・・・・・・なのに、あの日、偽りの魔王が、私からお兄様を奪った。
私の目の前で、偽りの魔王はお兄様の身体を使って、大勢の配下を見た事も無い魔法で虐殺した。
お兄様と同じ声、同じ瞳。なのに、心が凍てつくほどに冷たかった。
・・・あんなの、あんなの、私のお兄様じゃない!
弱くて優しい私のお兄様が、あんなことする訳が無い!
何度も悪夢に見たあの光景を、私はきっと、一生忘れることなんて出来ない。
お父様は言った。
『シャンベルは、ギブレイの血に呪われているんだよ。今のあいつは、この世に恨みと未練を残して逝った始祖の人格に支配されちまってる』
と。だから私は聞いた。どうすれば、私のお兄様を取り戻せるのか。
『簡単さ。あいつの身体を乗っ取ってる偽りの魔王、シャンベル・ギブレイを殺せば良い。そうすれば、お前の大好きなお兄様が戻って来る』
最初は半信半疑だったお父様の言葉。
けれど、シャンベル・ギブレイと言う名が、時が経てば経つ程に悪名として世界に広がり続け、人族との戦争だけで無く、会談の場で他の魔王を手にかけたという話まで私の耳に届いた。
日に日に私は焦りを覚え、そして、お母様に隠れてお父様と何度も会ってお話しする内に、もうお兄様を取り戻す手段は、偽りの魔王を殺す他に無いと、そう思うようになった。・・・いや、そう理解したのだ。
それから私は、お父様の言葉に従って行動するようになった。
何も知らないお母様を騙すのは心苦しかったけれど、偽りの魔王の件は全て秘密にしろと、お父様が言ったから、普段は今まで通りに過ごした。
争いは好きでは無かったけれど、偽りの魔王を殺すには私の力が必要だと、お父様が言ったから、昔から得意だった魔力操作の腕に更に磨きをかけ、最初は触るのも躊躇っていた剣も自由自在に振るえるよう訓練した。
私達の面倒を見てくれたジン様とプリム様にはご迷惑をおかけしてしまったけれど、偽りの魔王を出し抜く為だからと、お父様が言ったから、お母様を連れ去り、お二人に黙って行方をくらました。
全ては、私の愛するお兄様を、偽物から取り戻す為。
お父様が、そう言ったから。
何だかとっても危ないモノローグになってしまいましたが・・・・・・、彼女の‘‘歪さ’’の謎が、少しだけ紐解かれて来た感じです。
とまあ、あまりその辺を後書きで掘るのもアレなので、今後の流れの中で解き明かしていきたいと思います。
そろそろ、奴にも出て来て貰う・・・・・・・・かも知れません(←ひよった)。
今話から始めましての皆様、以前からお読み頂いている神様、お付き合い頂きありがとうございます。最近ふわっとした後書きばかりですいません笑
徐々にですが、この物語の最初のクライマックス(←になるであろう)に近づいて参りましたので、素人とは言え作者も何だか珍しく気合が入って参りました。拙い文章で分かりづらい部分等多々あるとは思いますが、少しでも伝わるよう努力する所存なので、生温かい目で見守って頂けると嬉しいです。




