〜お疲れ魔王とWメイド?⑥〜
「おおっ!! これはまた豪勢だな・・・」
色々な羞恥心を振り切って(半ばヤケクソ)、すまし顔で食堂に座していた俺は、テーブルに並べられる豪華絢爛な料理の数々に目を瞬かせた。
パッと見ただけでも、肉料理だけで数種類。こんがりと焼かれ香草とスパイスで香り付けされた塊肉や、衣を着けて揚げた、見るからにサックりとした食感を想像させる鶏肉、トロリとした濃厚さを感じる赤色のスープには、挽肉をかためて焼いた物が根菜類と一緒に浮いている。
魚介料理も負けず劣らず。生のまま食べやすく一口分にスライスされ並べられた、色とりどりの切り身に、オレンジとグリーンのソースがかけられた物や、皮目を香ばしく焼き上げ、クリームソースを添えてある白身魚、そして極め付けは、鍋に丸ごと一匹たっぷり身が詰まった大きなエビが入れられた煮込み料理。
それに加えて、何種類もの野菜で丁寧に盛り付けられ、別皿に数種類のドレッシングが用意されたたサラダ。
もはや、夕食というよりパーティーの様相を呈していた。
「それにしても、凄い種類と量だが、作るのはかなり大変だったんじゃないか?」
料理を並べ終え、後ろに控えるソアヴェとピナに、俺は問いかける。
・・・因みに、二人とも服はいつものメイド服に着替えている。べ、別に、名残惜しくなんか無いぞ? あんな格好されてたら落ち着いて食事なんて出来ないし?
「私はお手伝いしただけなのでさほどは。殆どピナ様がお一人でお作りになったのですよ?」
「い、いえ! ソアヴェさんにも使った事の無い調味料や食材について色々教えて頂いたり、私では出来ない魔法を使った調理など、たくさん助けて頂きました! あ、でも、大変という事は本当に全然無くて・・・寧ろ、こんなに色々とお料理を作らせて頂くのは初めてだったので、すごく楽しかったです」
「ふふっ。そうですね。ピナ様、ずっとシャル様のお味の好みなんかを聞きながら、とても楽しげに作ってらっしゃいましたもんね?」
「へ!? や、やっぱり分かってしまいましたか? あぅ・・・」
恥ずかしそうに身を縮めるピナと、彼女に微笑みかけるソアヴェは、まるで仲の良い姉妹のようだ。
とても尊くて、温かい二人の姿を見ていると、自然とこちらまで笑顔になる。・・・そして、在りし日の妹との何気ない時間を思い出して、少しだけ、胸が苦しくなった。
「あ、あの、シャル様! よろしければその、温かいうちにお召し上がり下さい」
「・・・ふっ。そうだな。ありがとう。ピナ、ソアヴェ。頂くよ」
照れを誤魔化す様に俺を急かすピナに、再び俺は思わず笑いを漏らして、改めてテーブルに向かい座り直した。
だが、そこで、何か物足りなさというか、寂しさ、のような、漠然とした感情を抱く。
決して料理に不満があるわけでは無い。寧ろ俺だけで食べるのは勿体無いくらいだ。
そう、俺だけでは。
「・・・・・・悪い。二人とも。少しだけ、ワガママを聞いてもらって良いか?」
「「っ!」」
振り返らず、ぶっきらぼうにそう告げた俺の言葉に、二人は驚いたような気配を漏らす。
どんな反応をされるか、想像も付かないが、俺は勇気を振り絞って頭に浮かんだ願いを口にした。
「一緒に、食べてくれないか?」
「ご一緒に、ですか?」
「・・・・・・」
不思議そうに聞き返すピナと、無言のままのソアヴェに、俺は慌てて思いつく限りの言い訳を口にしようとする。
「ほ、ほら! 量も多いし、それに、せっかくの美味そうな料理を独り占めするのも、何だか申し訳ない気もするし! あ、いや、もちろんいつも出してくれる料理も美味そうなんだが・・・・・・あー、くそ! 上手く言えん! とにかく、お前らと食卓を囲んで、一緒に食べたいんだ!」
が、それも途中で崩壊し、結局は、ヤケクソ気味に自分でもよく分かっていない本音をぶちまけることしか出来なかった。・・・は、恥ずか死ぬ!
「・・・はい。では、ご一緒させて頂きます」
「まったく、珍しくワガママなんておっしゃるから何かと思えば・・・。それくらい、ワガママの内に入りませんよ、シャル様」
「っ・・・」
優しげに目を細めて微笑むピナと、困った子供でも見るような顔で苦笑するソアヴェ。
そんな二人の表情に、俺は更に顔が熱くなり、見られないよう必死で下を向きながら、再び口を開く。
「・・・は、早く座れ。冷めてしまうぞ」
「シャル様はとても熱そうですよ?」
「う、うるさい!」
「ふふっ」
「ピ、ピナまで笑うな!」
「申し訳ありません。いつものとても大人びてらっしゃるシャル様より、何だかお可愛らしく見えてしまって」
「なっ・・・!?」
堪え切れないと言わんばかりに含み笑いを漏らすピナに、俺は何も言えなくなり、あわあわと口を開いたり閉じたり間抜けな顔で繰り返す。
「ほら、シャル様? 早く食べないと、お料理が冷めてしまいますよ?」
「お、お前なぁ・・・」
俺の恨みがましい視線を、ソアヴェはサラッと受け流す。もはや魔王の威厳など、何処にもありはしなかった。
「ふふっ」
そんな俺とソアヴェのやり取りを見て、ピナはまた笑う。・・・まあ、良いか。
この屋敷では、俺はただのシャルで良いらしいしな。
「・・・頂きます」
「「頂きます」」
自然と手を合わせた俺に習うように、席についたピナとソアヴェも手を合わせる。
この温かい時間を守り抜き、そして、かつての温かかった時間を取り戻す。
俺は、心の中で静かにそう誓った。
さあさあ、次のお話でいよいよWメイド回もラスト(の予定)です! いやあ、楽しかった!
ですが、そろそろ本格的に例の奴らが動き出すと思うので、シリアス回も多くなるとは思いますが、お付き合い頂けることを願っております。
今話もお読み頂き、ありがとうございました!




