〜お疲れ魔王とWメイド?④〜
ふわりと、宙に浮いている様な不思議な感覚が、全身を包んでいた。
目に映るのは、どこか色褪せたような景色。
窓の無い、石造の小さな部屋。あるのは簡素なベッドと、小さな木のテーブルと椅子。そして、古びた書物の並ぶ棚だけだ。
一見、何の変哲も無い無味乾燥な光景。だが、何故か酷く、胸が締め付けられる。
ここは、何処なんだろうか?
そんな風に考え始めた所で、部屋に一人の少女が入って来た。・・・いや、俺は直感的に、戻ってきた、と思った。
漆黒の艶やかな長い髪に、同色の大きな瞳。溶けかけの雪のような儚く透き通った肌と、あまりに華奢な体躯。
見間違う筈も無い。その姿は、ピナ・ノワールそのものだ。
感情の見えない虚な表情が、今の彼女とはあまりにもかけ離れていて、一瞬別人では無いかと自分の目を疑ったが、出会ったばかりの頃・・・と言っても、まだ一ヶ月も経っていないのだが、初めて屋敷に招いたあの日の彼女とは、近い感じがした。
彼女は扉を閉め、部屋の奥に歩を進めると、棚から一冊の書物を取り出し、椅子に腰掛けた。
・・・・・・どれくらいそうしていただろう。彼女はその虚な表情を変える事も無く、淡々とその書物を読み進め、やがて、最後のページをめくる。
「・・・・・・はぁ。もう、終わってしまうのね」
(っっっっっ!?)
ゾクり、と。その氷の様な冷め切った声に、俺は背筋が粟立つ。
確かにその声音は彼女の物。だが、何かが決定的に違った。
「・・・? 誰かいるの?」
不思議そうに首を傾げた彼女は、椅子に座ったまま周囲を見回す。
けれど、その声に応える者は無い。そう、俺は答えられなかったのだ。何故なら、この場所に俺は存在しないから。
そう、これは、この光景は、きっと・・・・・・。
「・・・ふふっ」
(っ!?)
ぼんやりとしていた思考が真実に辿り着こうと・・・いや、現実に帰ろうとしたその時、合うはずの無い目が合い、そして、彼女は微笑んだ。
それが偶然なのか、それとも俺に向かって微笑んでいたのか、考える間も無く、俺はその薄暗い部屋から、少しずつ離れていく様に、意識を覚醒させていった。
「・・・・・・ん、んん? ここは・・・」
「シャル様!? 大丈夫ですか!?」
目を覚ますと、先ほどまで夢で見ていた、けれど、夢とは大違いの、表情豊かな彼女の顔が目の前にあった。
「ピナ・・・。良かった。いつものお前だな」
「え? えっと、それはどういう・・・?」
思わずホッとして笑ってしまった俺に、ピナはキョトンとした顔で不思議そうに小首を傾げる。
やっぱり、まるで別人みたいだ。まあ夢なんて、現実とは大概かけ離れているしな。・・・でも、それにしては情景がやけに具体的だったと言うか、妙な現実感があったな。
「あの、シャル様・・・?」
「え? ああ、悪い。少し寝ぼけてしまった。・・・って、そう言えば、俺は何で寝て・・・・・・ん?」
何だろう。寝転がっていることには流石に寝ぼけていても気づいたが、妙に後頭部に感じるこの柔らかくも程良い弾力のある感触は、いったい・・・?
ん? ちょっと待て。そもそも、どうして俺とピナの顔の距離は、こんなに近いんだ?
「え、えっと、ソアヴェ様から聞いたお話では、お風呂でのぼせて倒れられてしまったとか。・・・やっぱり、よほどお疲れだったのですね」
「のぼせて・・・・・・あ!? そ、そうだな! うん! 久しぶりにゆっくり湯に浸かったのもあるだろう! は、ははは・・・」
そうだった! ソアヴェのあの刺激的な格好とか、ちょっとアレな声に気が動転して、そのまま意識を失ったんだ! ・・・・・・・でも、今のピナの言い方だと、詳細までは聞いて無いみたいだな。ふぅ〜。
・・・いや待て。何を安心してるんだ俺? と言うか、もしかしなくても、現状もかなりヤバい状況なのでは?
「・・・・・・ピナ。一つ、聞いても良いか?」
「・・・? はい。何でしょう?」
「もしかして、今の俺、と言うか、俺たちの状態って・・・・・・」
「あ! 申し訳ありません! 枕の代わりがすぐに見つからなくて、つい、私の膝に・・・」
「・・・・・・・・・(っっっっっっっっ!!!!!!!!)」
声にならない絶叫を、俺は胸中で迸らせた。
膝枕。
それは、古より男たちの心を震わせる、魔法を超える魔法の言葉。
今まさに、俺はそれを言葉だけで無く、体験しているのだ。
しかも、一目惚れした、初恋の女性の、膝で。
「・・・・・・・・(チーン)」
「シャ、シャル様!?」
天へと登るような心地良い温もりと、幸せな感触に身を委ね、俺は再び意識を手放した。
相変わらずシリアスなんだかギャグなんだかよく分からない物を書いてすみませんw
でも、真面目な話の中にあるギャグ要素とか、逆にギャグタッチな作品のシリアス展開とか、あるいは全部ひっくるめた群像劇とか・・・そういう、色々な要素が絡み合った作品が好きなので、ネット小説と言う自由で楽しいこの場を借りて、書かせて頂いてます。
なので、拙い筆ですが、一緒に楽しんで頂けたら、これほど光栄で嬉しいことはありませんので、どうか生暖かい目で見守りつつお付き合い頂ければ幸いです。
・・・・・・何だか急に真面目っぽい後書きになってしまいましたが。すいません。ちょっと今頭がアレなので、いつもとノリが違うかもですw
ではでは次話で、またお会いできることを願いまして、おやすみなさい。
 




