〜お疲れ魔王とWメイド?①〜
一通り頼りになる貴族の元を回った俺と侯爵は、一先ず魔王城の前まで飛竜車で帰ってきた。
屈強な肉体を持つ飛竜とは言え、国中を駆け巡った今日はかなり酷使してしまった。故に、俺は回復魔法をかけながらその体を撫で、少しの間労ってから、城のすぐ側にある竜舎へと帰した。
「では、魔王様。私は城に戻り、残りの貴族たちへ送る書状を取りまとめて参ります」
「それなら俺も手伝おう。今日話を通せたのはほんの一部の者たちだけだ。国中に通達するとなると、かなりの数だろう」
帰って早々に次の仕事へと移ろうと動き出した侯爵を追いかけ、俺もその後ろへ続いた。
「・・・・・・」
だが、侯爵はすぐに足を止め振り返ると、真っ直ぐに俺の目を射抜くような視線で見つめた。
「な、何だ? どうかしたか?」
「・・・はぁ。魔王様。こんな時まで無理にいつも通りなあなた様で居ようとしなくて良いのです」
「っ!?」
「力こそ遠く及ばずとも、私はあなた様の十倍以上長き時を生きております。多少寄りかかって頂いた所で、揺らぐ事などありはしません。・・・と、幾ら言っても聞く耳持って頂けないので、平時は諦めておりますが、ピュリニー殿下とヴォーネ殿下の行方不明など前代未聞。あなた様は今、多大な心労に苛まれているはず。シャンベル様。どうか、今は些事などこの老兵に任せ、その御心をお休め下さい」
「・・・・・・ははっ。参ったな」
まるであの時の様に、俺たちを名前で呼んだ侯爵の言葉に、俺は乾いた笑みで返すことしか出来なかった。・・・自分でも気づかない間に、表情も繕えないほど精神を消耗していたらしい。
どうやら、俺はとことんこの頼りになり過ぎる配下に敵わないようだ。これじゃ、どっちが主人か分かったもんじゃないな。
「・・・口にするのも大変不本意ですが、屋敷に仕えているあの者達は、少なくとも魔王様の心労を和らげる事に関しては私などよりよほど役に立つでしょう」
「何ともお前らしい言い方だな。・・・ふっ、グリュナー。一応言っとくが、俺が魔王になってから一番寄りかかっているのはお前だからな。あまり自分を卑下しないでくれ。言われた通り、今日は大人しく帰るからさ」
「それはそれは、光栄の至り。・・・では、御前、失礼致します」
「ああ、よろしく頼んだ」
「御意」
侯爵は深々と一礼し、再び俺に背を向けると、揺るぎない足取りで魔王城へと向かって行く。
その頼もしい背中に、俺も黙礼を返して、ゆっくりと屋敷へ向かって歩み始めた。
「・・・・・・けど、帰ったらまた、ソアヴェ達やピナに心配をかけるんだろうな」
屋敷の門が近づくにつれ、俺の足取りは重くなる。
ただでさえソアヴェにしょっちゅう嘘が下手くそだと罵られているのに、今は表情を繕う気力すら無いのだ。優しい彼女達に、また余計な心配をかけてしまうのかと思うと、どうしても申し訳無さが先に立ってしまう。
とは言え、せっかく侯爵がくれた休息を無駄にするのも忍び無いし・・・・・・。
「とか、考えている間に着いてしまった・・・ん?」
あっという間に門を抜け、入り口の扉の前に立った俺は、その向こうにある気配の違和感に気づく。
いつもなら、ソアヴェかピナが一人で出迎えてくれるのだが、何やら今日は複数の気配を感じるのだ。
「これは・・・・・・っ!?」
と、俺が首を傾げたまま扉に手を掛けようとした所で、内側からドアが開けられた。
「「「「お帰りなさいませ。シャル様」」」」
「なっ!?」
開け放たれたドアの向こうに待っていた予想外の光景に、俺は思わず間抜けな顔で後ずさる。
なんと、屋敷のメイド達が総出で並んでいたのだ。
そして、その奥には・・・・・・。
「お、お帰りなさいませ、シャル様・・・」
「ピナ!? そ、その格好は!?」
メイド達がまるで花道を作るように並び直した先には、やたらと恥じらいながら俯くピナが居た。・・・のだが、問題はそこでは無く、彼女の格好だ。
いつもなら、ドレス風の可愛らしいメイド服を纏って出迎えてくれる彼女が、今日はやたらと丈が短く、袖も無い刺激的なデザインの正真正銘のドレスに、上からエプロンだけを付けて、そこに立っていた。
触れれば壊してしまいそうな華奢な肩や、白く細い脚が太ももまであらわになり、大人しい彼女の人柄からは考えられないほど扇情的な姿になっている。・・・・・・って、んな冷静に分析してる場合か!? 目のやり場に困るとかそんな次元じゃ無いぞ!? と言うか何だこの状況!?
「あ、あの、その・・・・・・・ご、ご飯にしますか? お風呂にしますか? そ、それとも・・・」
パニックになりぐるぐると目を回している俺の前で、彼女はもじもじと口ごもる。・・・が、意を決したように真っ赤な顔を上げると、か細い声で、その衝撃的な言葉を告げた。
「・・・私に、しますか?」
「・・・・・・・(チーン)」
その余りに刺激的な姿と破壊的に愛らしい仕草、そしてトドメを刺す破滅的な誘惑の言葉に、俺の頭は限界まで沸騰し、煙を上げて動かなくなった。
すいません。流石に姫君をあの伝説の姿で降臨させる勇気はありませんでした。作者的にギリギリまで攻めたつもりなので許して下さい(←もはやアウトじゃね?)。
とは言え、久々に姫君に可愛く登場して貰えました。次回は更に大活躍?して貰う予定なので、彼女の頑張りを応援して頂けると嬉しいです。
最近、自分で読み返して後書きがうるさいなと思ってしまったので(←今更?)、ちょっと短めにするよう心がけます(-。-;
読んで下さる方がいると思うと、やはり調子に乗ってしまいますね。
ではでは、次回も是非生暖かい目で読んで頂ける事を祈って、この辺で失礼させて頂きます。
今話もお読み頂き、ありがとうございました!
 




