〜和君と聖母?〜
颯爽と魔王会談の場を後にした私は、それまでどうにか表情筋を駆使して澄ましていた顔を、ゆるっゆるに緩ませる。
「・・・・・・ふふっ。キマった」
完璧! 完璧よ私! 政治的な駆け引きをしながらも終焔様への献身的な姿勢を完璧に示せたわ!
ぐふふっ・・・これはもう、あの方が世界征服した暁には、右腕にして頂けること間違い無しね!
いや〜、一時はどうなる事かと思ったけど、良く考えたら久々にギラギラしてる終焔様も見れたし、結果的には大満足! ・・・・・・・っと、いけないわ。元はと言えば、私たちの失態でご家族を攫われてしまったせいで、あの方は望まぬ手段まで使って必死に情報を得ようとしていたのだから。喜ぶなんてあまりに不謹慎と言うものよね。
・・・・・・でも、少し前まで可愛かったお顔がいつの間にかあんなに凛々しくなられて、でもやっぱりまだまだ可愛げもあって・・・嗚呼、ますます虜になってしまいそう。
「・・・失礼ながら、ご主人様。飛竜車に着きました。どうぞお乗り下さい」
「へ? あ、ああ。ごめんなさいカルメ。少し、考え事をしていて」
従者の声にハッとした私は、慌てて表情を取り繕う。
愛らしい声でありながら、無機質で抑揚の無い口調の彼女は、カルメ・ネール。種族は兎人で、まだ十四になったばかりの子供と言ってもおかしくない歳だが、優秀かつ冷静沈着な私のお気に入りのメイドだ。・・・・・・いや、別にくりっとした目とか魔族には珍しい白髪の頭の上にちょこんと生えた兎耳がツボにハマったから従者にした訳じゃ無いですよ? 本当に優秀だからですよ?
その証拠に会談中、流石に終焔様の迫力には気圧されながらも、いつでも私の盾となれるよう後ろで密かに身構えていた。曲がりなりにも魔王と呼ばれる我々ですら死を覚悟したあの場で、自ら判断して行動出来る者がどれだけ居るだろうか? ・・・ね? だからほら、決して邪な気持ちで人選した訳じゃ無いんですよ?
「考え事、ですか。・・・はぁ」
・・・あれ? もしかして私、呆れられてる? 魔王なのに? ご主人様なのに!?
「あ、あの、カルメ? そのため息はどういう・・・」
「何の事でしょう? それより、他の六帝天の方々がいらっしゃる前に、出発した方がよろしいのでは?」
「うっ・・・そ、そうね」
私の問いかけをさらりとかわしたカルメは、飛竜車のドアを開けて私を促す。・・・ぐすん。私、魔王なのにぃ。ご主人様なのにぃ。
「何を情けない顔をしているんだい? ジン。・・・って、いつもの事か」
「誰がいつも情けない顔ですか!」
飛竜車に乗り込んだ途端、からかい半分呆れ半分の声がいきなり飛んできた。
仮にも六帝天に名を連ねる私を堂々と呼び捨てにした上、開口一番罵る彼女は、我が国カリフォニアのもう一人の王、‘‘聖母’’プリム・ティーヴォだった。
亜麻色の長髪に気品のある顔立ち。弓形に弧を描くまぶたは優しげで、飾り気の無い純白の法衣を纏うその姿は、正に『聖母』という彼女の二つ名が良く似合う。・・・・・・とは言え、それは外見だけの話だが。
「あなたこそ、隙あらばだらしない格好ばかりして! 椅子に足を上げるなと何度言えば分かるのですか!? 行儀の悪い!」
今彼女は、法衣がはだけることも構わず、私が座る方の座席に足を上げて見るからに怠けた格好で座っているのだ。
・・・・・・そう。彼女の性格は、外見とは正反対のガサツでだらしない、とんだぐーたら女なのだ。
「何を言っている? これは椅子じゃなくてソファーだ。次いでに言えば僕はだらしないんじゃなくて自然体でいるだけさ」
おまけに、一人称が『僕』だなんて、色々と盛りすぎなんですよ!
「屁理屈言わない! まったく、あなたという人は・・・・・・」
「体裁ばかり繕っている誰かさんと違って、僕はおおらかなんだよ」
「王が体裁を繕わなくて誰が繕うというのですか・・・。それより、本当に皆さんにご挨拶もせずに帰る気ですか?」
「構わんさ。僕が用があったのはあの坊やだけだからな」
「えっ!? いつの間に終焔様と話したのですか!?」
「話してなどいないさ。ただ、近くで視た。それだけだ。・・・・・・まあ、あっちも僕の存在に気付いていたみたいだけど。暫くは背筋も凍るような視線に冷や汗ダラダラだったよ」
「近くでって、概念の次元を視るあなたの視界には物理的な距離は関係無いでしょう?」
「ただ視るだけならな。だが、その存在を物理次元でも近くに捉えている方が、より鮮明に魂を認識できるんだ。いやはや、坊やの魂の色は相変わらず形容し難い美しさだな。しかも今日は特に輝きが強かった」
「当然です。終焔様の魂が美しくなければ誰の魂が美しいというのですか!」
「そうだな。少なくともジン、君のは酷く濁っているよ。しかも今日は特に」
「私の印象を壊す様な事を言わないで頂けますか? ぶっ殺しますよ?」
「おい和君。もっと印象大事にしような?」
「ご主人様方。お戯れはその辺りに。飛竜車を出します」
私達が他愛も無い(若干の殺意はある)会話をしている間にも、カルメは飛竜車の用意を済ませ、最後に飛竜へ指示を出し出発させた。
「・・・・・・はぁ。もう辞めようかな。この仕事」
そして、彼女が聞こえるか聞こえないかギリギリの声量でこぼしたそんな言葉を、私とプリムは揃って聞こえないフリをするのだった。
またもや濃いめの子達が登場しましたが、やっぱり彼女はぶっちぎりのモンスターですね・・・。
まあでも、彼女がいるおかげでシリアスみが大分緩和されてる気もするので、作者的にはちょっと助かってたりヒヤヒヤしてたりですw
ちょっとずつ更新ペースが回復して来ましたが、まだまだブレブレになるとは思いますので、何卒生暖かく見守って頂けると助かります。
今話もお付き合い頂いた皆様、ありがとうございました!




