〜魔王と二人の老兵②〜
「・・・・・・なるほど。状況は理解致しました」
俺とグリュナーの話を聞き終えたネビオーラは、重々しく頷いた。
ブルガーニュに帰国した俺たちは、その足でテロワールへと出向き、伯爵の屋敷を訪れたのだ。
「ついては、伯爵に領土の防備強化、特に農耕地帯の保護を最優先に動いてもらいたい」
俺は早速、本題を切り出した。
もちろん本音では、テロワールどころか国の端から端まで、あの男に手を出させるつもりなど毛頭無いし、守り切って見せると心に誓っている。・・・だが、それは悪魔で俺個人の理想だ。魔王として、あらゆる可能性を想定し、優先順位は決めておかなければならない。
己の無力は、七年前のあの時に傷となってこの魂に刻まれている。
「ご命令、しかと承りました。・・・・・・しかし、それだけでよろしいので?」
「・・・?」
「ネビオーラ伯爵。出過ぎた発言は慎みなされ」
伯爵の問いに俺が首を傾げていると、侯爵の言葉が割って入る。
「・・・グリュナー侯爵。ワシは貴殿では無く、魔王様に問うているのだ。そちらこそ出過ぎた真似はよして貰おう」
「魔王様のご命令に、疑問を抱くことそのものが不敬だと言っているのです。貴殿は自身の領土の事だけ考えていれば良いと、わざわざ言わなければ理解出来ませんかな?」
侯爵と伯爵、二人の間で視線の火花が激しくぶつかり合う! ・・・・・・薄々気づいてはいたが、この二人、やっぱり仲悪いんだな。
どちらも先々代の頃から魔王の配下として名を馳せた歴戦の古兵だ。俺の知らない歴史が二人の間にあり、その中で因縁のような物が生まれたのだろうと予想は出来る。
だが、この聡明で思慮深い二人がこれほどまでに露骨な態度を取るなんて、一体何があったんだ?
「侯爵、貴殿が領土の話をなさるのか? 流石、自身の領土をろくに視察をする事も無く優雅に魔王城で暮らす方は、言う事が違うと見える」
「魔王様のお側に控える事こそ、私の本懐。領土の自治は我が子たちで十分間にあっている故、心配はご無用。貴殿こそ良い加減、目の上のたんこぶなどやめて、隠居なされてはどうか? その方が御子息も早く成長され、魔王様の役に立つ配下になられるでしょう」
「誰が目の上のたんこぶか! 貴様は昔からそうやって・・・・・・」
「ネビオーラ。魔王様の御前だ。弁えろ」
「っ・・・・・・お見苦しい所をお見せし、失礼致しました。魔王様」
「い、いや、それは別に構わんのだが」
ネビオーラ伯爵・・・猛将だったという過去は知っていたが、この迫力、六帝天にも迫る勢いなんだが・・・・・・。
「魔王様。ここはもう用済みでしょう。次も控えております。そろそろ」
「へ? あ、ああ、そうだな」
お、おうふ・・・。侯爵の方もいつも以上に凄まじい迫力だな。
「お待ち下さい魔王様! どうか、どうかこのネビオーラめにも、ピュリニー様とヴォーネ様の捜索に加わるお許しを!」
「・・・なるほど。そういう事か」
伯爵が何を言いたかったのか、俺はようやく理解する。
彼の思いはとてもありがたく、魔王としてその忠誠には応えたい。・・・が、だからこそ、その願いを聞き届けるわけにはいかない。
「お前の気持ちは分かった。だが、それを許すわけにはいかない」
「魔王様・・・・・・」
悔しそうに顔を歪める伯爵の目を真っ直ぐに見続け、俺は主人としての言葉で命令を下す。
「ネビオーラ伯爵。敢えてもう一度言おう。・・・役目を果たせ」
「っ! ・・・・・・はっ。我が王よ」
目を見開いて僅かな間呆然としていた伯爵は、次の瞬間には俺の前に跪き、恭しく頭を垂れていた。
「この広大な領地を任せられる者はお前を置いて他に居ない。頼んだぞ」
「残り僅かな生涯をかけ、守り抜くと誓いまする。・・・・・・度々の無礼な発言、どうかお許し下され」
「良い。その忠誠こそ、魔王として何よりの誉だ」
俺は伯爵の肩に手を置き、信頼を示した。
「・・・・・・最初からそう素直に従っておけば良いのだ。頑固者め」
「貴様にだけは言われたく無いわ!」
「お、お前らなぁ・・・・・・」
ぽそりと零したグリュナーの言葉に、ネビオーラは牙を剥いて食ってかかる。
俺は呆れ顔で二人を宥めつつ、誰よりも大人に見えた彼らの子供のような姿に、こっそりと、少しだけ笑った。
老兵たちに取り合われる魔王様ww
作者はラノベもアニメも雑食で、ジャンル問わず本当に何でも読むし見るのですが、どんな作品でも脇キャラクターのスピンオフ的な話が大好物なので、ついそういった傾向のお話を多めに書いてしまっている気がします。
さっさと話を進めろよと思ってらっしゃる方には申し訳ないのですが、でも好きなんです。ごめんなさい。
マニアックな回になってしまいましたが、楽しんで頂けていれば幸いです!
今話もお付き合い頂いた皆様、ありがとうございました!




