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〜魔王と二人の老兵①〜


「・・・・・・はぁ」


「よくぞ堪えましたな。魔王様」


 魔王会談を終えた俺とグリュナー侯爵は、海の魔国スパイネから『飛竜車』に乗って帰路に着いていた。


 飛竜車とは、文字通り飛竜に縄を繋ぎ、浮遊魔法を施した篭車(かごぐるま)を引かせる移動手段だ。

 因みに、今は侯爵が浮遊魔法を維持している。この飛竜車は特別製で魔留石も積んでいるため、俺が精霊に魔力を注げば自動で浮かせる事も出来るのだが、往路と会談で魔力と精神を消耗した俺を気遣ってか、侯爵が何も言わず先に浮遊魔法を発動したのだ。


 全くもって、彼にはいつまでも頭が上がらない。


「すまんな。もう玉座に着いて七年だと言うのに、お前にはいつまでも世話をかけっぱなしだ」


「あの時、あなた様に‘‘魔王’’という業を背負わせたのはこの老ぼれです。それに、()()()()()()()。期待はしておりましたが、この短期間でここまでご立派に成長されるとは、失礼ながら考え及んでおりませんでした。寧ろ、この程度の世話しか焼けぬ事に拍子抜けしているのです。・・・・・・先代も先々代も、世話どころか手を焼くと言うのも生温い、王とは名ばかりの()()()でしたからな」


「も、問題児・・・」


 普段は敬意を重んじる彼の口から、元とは言え魔王達を幼子の様に揶揄したその言葉に、俺は思わず頬が引き()る。


 ・・・・・・気のせいか、侯爵の目が据わっている様に見えるんだが。


「それに、ここからはいつ余談を許さない状況が訪れるか分かりませぬ。魔王様のお力は、出来る限り温存しておくべきでしょう。もっとも、どうやら()()は済まされた様なので、もはや万が一にも今のあなた様に手傷を負わせられる者など、居はしないでしょうが」


「うっ!? さ、流石にお見通しか」


「『眼』を凝らして魔力を見ずとも、纏う覇気が違いまする。私で無くとも、見る者が見ればすぐに分かるでしょう」


「・・・・・・そこまでか。悪い。一応俺なりに思うところもあって吸血を控えていたんだが、お前にも余計な心配をかけていた様だな」


「滅相も無い。それがあなた様の意思だと言うのなら、私は従うまで」


「ふっ・・・敵わんな」


 苦手としている部分もあるが、彼の一貫した姿勢は、主人(あるじ)として素直に誇らしく思う。

 ・・・と、同時に、自身の未熟さも思い知るんだが。だからこそ、今出来ることに全身全霊を傾け、魔王として恥じぬ生き様を見せなければ。


「一先ず、六帝天の協力は得られた。だが、彼らから寄せられる報告を待つばかりと言う訳にもいかない。正直、今すぐにでも全速力で世界中を駆け巡って、自分でピュリニーと義母様を探しに出たい所だ」


「ですが、あなた様はそうなさらなかった」


「ああ。魔王会談まで待てと言ってきた時点で、カリフォニア側が何らかの手段で二人の無事を確認している事は予想できたからな。ジン殿は和君などと呼ばれていても、頭はキレる。俺という()()を前に、何の根拠も無くそんな言葉を吐くほど愚かでは無いと確信していた」


「・・・では、やはり陰謀の可能性を考えておいでで?」


「あの男が何を考えているかは分からないが、わざわざ俺の逆鱗に触れて来たと言う事は、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()、と言うことだ。単純に暴走させてどこかの国を滅ぼさせるつもりなのか、あるいは、・・・もっとおぞましい何か、か」


「そうなると、()()()では無い可能性も捨てきれませんな」


「その通りだ。あの男がブルガーニュにまだ興味を持っているとは考えにくいが・・・側にいる誰かが、我が国に何かしらの攻撃を加えようとしている可能性は十分にある。なら、まずは‘‘外’’では無く、‘‘内’’を駆け回る方が先だ」


「つまり、防備を固めるため、貴族たちに警鐘を鳴らすと言うことですな?」


「ああ。幾人かの信頼を置ける者たちには、ある程度事情も話すつもりだ。・・・と言っても、数えるほどしか居ないのだがな。まあ今は、手間が省けると空元気でも喜んでおこう」

 

()()()()()様は、国の在り方その物を変えようとなさっておられるのです。歴史に毒されて生きて来た者達が反発するのは当然の事。・・・・・この私とて、()を唱えるつもりは毛頭ございませんが、戦場に常にお一人で向かわれる事には、思うところがあります」


「・・・そうだな。俺はきっと、ブルガーニュの王として相応しくは」


()()()()、私はあなた様を選んだのです」


「っ!」


 俺の言葉を遮って、力強く断言した侯爵に、思わず息を呑む。


「あなた様が魔王になられたあの時、そして今も、その選択が間違っていたとは微塵も思っておりません」


「グリュナー・・・」


「今のブルガーニュは、確かにこれまでの歴史を否定しているのでしょう。けれど、()()()()()()その価値を見出せなかった国民が、今は()()()笑っている。血の(たぎ)る様な戦場に想いを馳せる事が無いと言えば嘘になりますが、これから先、子供、孫と、新たに歴史を紡ぐ子孫達が笑って暮らせる国になると言うのなら、この老兵、喜んで剣を捨てましょうぞ」


「・・・フェルト・グリュナー侯爵。俺はお前の様な配下を持てたことを、何よりも誇りに思うよ」


 偉そうな口ぶりなれど、最大限の敬意を込めた俺の言葉に、侯爵は深く腰を折り、(こうべ)を垂れた。


「もったい無きお言葉。しかと、この胸に刻ませて頂きまする」


「俺の方こそ、先程の言葉、決して忘れぬよう魂に刻もう」


恐悦至極(きょうえつしごく)にございます」


 俺と侯爵はしばし視線を交わし、そしてどちらからとも無く小さく笑った。


「では魔王様。どの者の所へ最初に向かわれますか?」


 再びいつもの(いかめ)しい表情へ戻った侯爵からの問いに、俺は少し考えてから口を開いた。


「・・・そうだな。やはりここは、()()()()()()()から話を通すべこだろう。彼の治めるテロワールは国内で屈指の農耕地帯だ。もし他国との外交が絶たれる様な事態になれば、第一に守り抜くべきはあそこだろう。そうで無くとも、人望、政治力において、彼ほど頼りになる貴族は他に居ない」


「・・・・・・」


「・・・?」


 何故かいきなり無言になった侯爵の様子に、俺は首を傾げる。


「ど、どうかしたか?」


「・・・いえ。失礼致しました」


「いや絶対どうかしてるだろ!?」


 明らかにこれまでとは雰囲気を一変させ、殺意と言っても過言では無い雰囲気を纏う侯爵。


 ・・・・・・薄々気づいてたけど、グリュナーとネビオーラ、昔なんかあった???? 

まさかの老兵回がやって参りましたw

個人的にいつの間にか侯爵がかなりお気に入りのキャラになってしまった作者ですが、まさかここまでフューチャーする事になるとは書き始めた頃は思ってもおりませんでした。頭の中で勝手にCV大塚HOUTYU様にして楽しく喋って頂いてます(←声豚乙)。

可愛い女の子に活躍して欲しい方々ごめんなさい。もうちょい待って下さいw


今話もお付き合い頂いた皆様ありがとうございました。最近作者は素人なりに本当に書くことが楽しくなって来て、リアルの方が色々と疎かになって参りましたが(←ちゃんとしろよ)、この楽しさが少しでも物語を通して伝われば幸いですm(_ _)m


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