〜苦労性魔王と最凶魔王?〜
やばいやばいやばいやばい皆めっちゃこっち見てるぅぅぅぅぅぅっ!?
・・・と言うか終焔様、完全に目がイッちゃってるんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? ちょ、ちょっとゾクゾクするかも。ハァハァ・・・って、んな事考えてる場合じゃ無かったわ!?
「しゅ、終焔シャンベル殿からお預かりしていた妹ぎ」
「(ギロッ!!)」
「ひっ!? お、お預かりしていた方々が先日、行方不明になってしまったのは、配下の方からお聞きになったと思います」
わ、私としたことが! あの方々が終焔様のご親族だと言うことは超極秘だったのに!
「・・・ああ。ここに居るグリュナー侯爵が事情を聞こうと貴殿の王城を訪ねた所、門前払いにあったとも聞いたぞ? 和君ジン殿?」
「へ?・・・ひぃっ!?」
全く笑っていない目のまま不敵に口角を上げた終焔様は、おもむろに後ろを指さす。その動きに従って視線を向けると、いつの間にかただならぬ雰囲気を纏った老人が立っていた。
だが、落ち着いてその厳しい顔を見てみると、彼が何者なのかハッキリと思い出す。
フェルト・グリュナー侯爵。
先々代のブルガーニュ王より側近を務め、諸国の魔王に勝るとも劣らぬ武勇を誇る猛将。近年は流石に老いたのか、戦場に出ることは無く文官として国を支えていると聞いていたのだけれど・・・・・・・。
「(ギロッ!!)」
「ひぃぃぃっ!?」
バリバリ現役じゃん! 何あの眼光!? 完全に殺ろうとしてる目だよね!? 和君とか言われてても、私一応魔王なんですけど!?
て言うか、え? 一昨日来てたの侯爵だったの? 言い訳を考える暇も無かったから帰ってもらったけど、そんな重鎮が来てたなら言ってよ門番! ブルガーニュの使者としか言われなかったら分かんないわよ!
「・・・先日は、先に書状も送らず謁見を賜ろうなどと失礼を致しました。私如き老兵がいきなり尋ね、そのご尊顔をお見せ頂けるなどと思い上がったこと、伏してお詫び申し上げる」
メチャクチャ根に持ってるぅぅぅぅっ! 頭を下げてると言うよりそのご立派な角で狙いを定めてる様にしか見えないんですけど!?
「い、いえ! 頭をお上げ下さい!! ・・・コホン。私の方こそ、まだ情報が整理出来ていなかったとは言え、追い返すような真似をして、大変失礼致しました」
私は何とか魔王としての威厳を保ちながら謝罪しようと、必死に引きつりそうになる顔を意思の力で固定する。
うぅ、どうして私ばかりこんな目に・・・。
元はと言えば、七年前に我が国『カリフォニア』のもう一人の王、『プリム・ティーヴォ』が安請け合いしたのが悪いのだ。あのお人好しめ! ‘‘聖母’’とか呼ばれて調子乗ってんじゃないわよ!
おまけに、今よりも更にずっと子供だったくせに、全然抜け目無かった終焔様に、彼女たちを預かる見返りとしてがちがちの停戦条約(実質脅迫)を結ばされたから逃げ場も無いし!
・・・・・・いや、まあ? 私もあの時小さいのにしっかり魔王してる終焔様のギャップにちょっとハァハァ・・・じゃなくて! 可愛いなとか思って油断したっちゃしたかも知れませんけどね?
「情報が整理できていなかった、と言うことは、今日はきっちり整理された情報を聞けると思って良いのだな?」
「うっ・・・・・・」
終焔様のただでさえ切長で鋭い目つきが更に鋭利になり、私は思わず威厳を保つ事すら忘れて生唾を飲み込んだ。
し、しまった! 侯爵の眼光がヤバすぎて思わず言い訳しちゃったけど、まだ犯人の目星すらついて無いのに、私はなんて軽率な事を・・・。
「どうなのだ? ジン殿」
「そ、その、取り敢えず、お二人の命は無事・・・・・・だと、思います」
「っ! ・・・その根拠は?」
一瞬だけ、終焔様が放つ圧力が引き潮の様に収まった。・・・・・・やっぱり、お二人の事が心配で仕方無いのね。
いくら強大な『力』や底の知れない『狂気』を抱えていたとしても、彼はまだ齢二十にも満たない子供で、仮面では隠し切れない優しさを持った人格者だ。
せめて、魔王の先達として少しでも安心させる言葉くらい言えないと、‘‘和君’’の名がすたると言うものよね。
「我が国のもう一人の王、‘‘聖母’’プリム・ティーヴォが、特殊な精霊と契約している事はご存知でしょうか?」
「ああ。・・・確か、生命を司る精霊だったな」
「そうです。と言っても、亡くなった方を生き返らせたり、命を持たない物に生命を与えると言うような、御伽噺に出てくる様な魔法は使えません。彼女曰く、『私の魔力じゃ質も量も足りない』、だそうです。まあ、人族の中でも最高峰の魔法資質を持つ彼女に無理なら、実質不可能という事なんでしょうが・・・・・」
「ジン殿。悪いが世間話に付き合っている暇は無い。要点だけ話して貰えないだろうか?」
「そ、そうですね。失礼しました。お喋りは私の悪い癖でして・・・」
「ん? そうか。貴殿は無口な方だと思っていたが、どうやら勘違いだった様だな」
「え? あ、えっとぉ・・・・・・」
・・・ど、どうしよう。本当はメチャクチャお喋りなんだけど、終焔様に『ミステリアスで綺麗なお姉さん』と思って貰いたくて、格好つけて無口ぶってたんです、とか言える空気じゃない。
あ、ちょっと! 他の魔王の皆さん!? シラッとした目をこっちに向けないで!
「・・・すまない。要点だけ話せと言っておいて、俺の方こそ話を遮ってしまったな。続けてくれ」
「あ、はい」
た、助かった〜!
「こ、コホン! と、まあ、生命を司る精霊と契約しているからと言って、プリムはそんな大それた魔法が使える訳ではありません。ですが、一度出会った人の魂の形を正確に記憶・・・いえ、記録し、ある程度その状態を確認する事が出来るのです」
「・・・いまいち要領を得ないな。具体的には、どういった魔法なんだ?」
「彼女の言葉を借りると、この世界は、私たちの目に見えている物質が存在する次元と、目に見えない精霊や魂といった概念が存在する次元の二つで構成されているそうです。・・・そして、彼女は限定的にですが、概念が存在する方の次元にも、目を向ける事が出来るそうなのです」
「っ!? ・・・・・・という事は、彼女には精霊が見えているのか?」
「いえ。先程申し上げた通り、彼女の力は限定的で、見えるのは『生きている者の魂』だけだそうです」
「そ、そうか」
「概念の次元では、プリムは物理的な距離に左右される事無く、自分の記録にある魂を視る事が出来るのです。そして、彼女があの方々の魂に視線を向けたところ、その存在が確認できました」
「彼女がその目で捉えることが出来たという事は、つまり生きている、そう言いたいのだな?」
「はい。彼女の力については以前からあらゆる場合を想定して確認しているので、それは確かかと。・・・・・・ただ、物理的な法則に縛られない故に、彼女たちの居場所までは判然としないのです」
「ふむ・・・・・・」
終焔様は、顎に手を当てて思案顔を見せる。・・・・・・取り敢えず、山場は超えたっぽいわ。ふぅ、危うく国ごと滅ぼされるとこだったぁ〜。私偉い! 頑張った! これであの話もさり気無く黙ったままで済ませる事が・・・。
「先程、プリム殿はある程度なら魂の状態を確認できると言ったな?」
「(ギクゥゥゥッ!!!)」
て言ったそばからぁぁぁっ!? いや、言ってないんだけども! 巧妙に話の流れで誤魔化そうとしてたんだけども!!! うぅ、せっかくちょっと安心してくれたと思ったのにぃ・・・。
にしても、相変わらず抜け目無いと言うか、こうして見ると以前にも増して色々な意味で隙が無いわね、終焔様。
私と話している間も、さり気無く他の魔王たちに意識を向けて、何か知っていないか視線だけで探りを入れている。以前は感情を抑える事に精一杯と言った感じだったのに、今は完全に自分の感情をコントロールして、それすら有利な状況を作る為の武器にしているわ。
「・・・・・・その反応、まさか、彼女たちに何かあったのか?」
「うっ・・・・え、えっと、少し説明が難しいのですが、プリムは、魂の状態を感覚的に認識している様なのです。色に例えるのが一番分かりやすいそうなのですが・・・・・・」
「それで?」
「・・・・・・実は、お二人方の内、比較的お若い方の彼女の魂の色が、平時の穏やかな淡い紫から、濁った血の様な深紅に染まった、と」
「っ!? 何だそれは!? 無事なのか!?」
「え、ええ! 寧ろ、状態だけを見るなら今までより活性化しているそうです。しかも、その色は、その・・・・・・七年前、魔王の座に着かれたばかりの頃の終焔殿、あなたのそれによく似ているとも言っておりました」
「七年前の、俺の魂の色に・・・・・・?」
それまで険しい表情しか見せていなかった彼の顔が、困惑に染まる。
「それと、手がかりになるかは分かりませんが、行方不明になる直前まで彼女たちの住んでいた住居に、これが」
私は懐から、一枚の何も書かれていない羊皮紙を取り出す。
「・・・・・・僅かだが、魔力の残滓を感じるな」
「はい。ですが、あまりに微弱で、我が国で最も『眼』の良い私が視ても、誰の物かは判然としませんでした。ただの未使用の羊皮紙という可能性もありますが・・・・・・それにしては、どうも違和感を感じて、こうしてお持ちした次第です」
私から渡されたその羊皮紙を手に取り、終焔様はその真紅と深緑の双眼でじっとそれを見つめる。
「っ! この波動、まさか・・・・・・」
「わ、分かるのですか?」
「くくっ・・・・・そうか、そう言うことか」
「あ、あの、終焔殿・・・?」
突如、彼は片手で自分の顔を覆ったかと思うと、小さな笑い声と共に肩を揺らし始めた。
「くくっ、ははははははははははっっっ!!! あの男は、とことん俺の怒りを買わないと気が済まない様だなっ!!!! 良いだろうっ! どの道こちらから殺しに行ってやるつもりだったのだ!! 自ら来いと言うのなら、望み通り二度とこんなふざけた真似が出来ぬよう、その存在ごとこの世から消し去ってくれるっ!!!!」
「「「「「っっっっっ!?」」」」」
禍々しい、なんて言葉では言い表せないほど濁り切った黒にも近い紅の魔力を迸らせながら、終焔様は高らかに哄笑を上げる。
牙を剥き、爛々と輝くその瞳が見つめる虚空の先に居る者が誰なのか、彼が誰よりも憎み忌み嫌う者を知っている私たちは、すぐに思い至った。
「終焔殿。もしや、あの方々を攫ったのは・・・・・・」
「・・・・・・ああ、この忌々しい魔力の波動は他でも無い、我が父にして先代ブルガーニュ王、『ロマネ・ギブレイ』の物だ。これまで行方をくらました奴の事は、国政を優先していたが故に捨て置いていた。・・・・・が、あちらから俺の逆鱗に再び触れて来たのだ。もはや是非も無い。即刻見つけ出して地獄の苦しみを味合わせてくれる」
それまで放っていた物が児戯であったのかと思えるほど、さらに重さと鋭さを増した絶大な圧力を放つ彼に、我々は再び息を呑んだ。・・・・・・自分の息子とは言え、この最強にして最凶の魔王相手に挑発の様な真似をするなんて、一体あの男は何を考えているのかしら?
飄々とした態度で考えを読ませない、いわゆる食えない魔王ではあったけれど、その力はやはり屈指の武闘派国家ブルガーニュの王に相応しい物だった。
・・・とは言え、その息子でありながら終焔様は、そもそも格が違う。
正直、魔王という立場的な同格ではあっても、我々は皆どうしようも無く理解している。彼は、自分たちの一段上に君臨している存在だと。この状況や席の配置が、その良い証拠だ。
そもそも『六帝天』という呼び名も、突出して強大な力を持っていたブルガーニュ王と自分たちを無理やり同格に定義するために、過去の魔王たちが苦肉の策で作り出した物だ。
そして、終焔様はその歴代のブルガーニュ王の中でも別格の力を持っている。・・・・・もし、彼がその気になれば、世界を支配する事だってきっと容易いのだ。そうしないのは、ひとえに彼の優しい心根に我々が救われているからに過ぎない。
なのに、わざわざそんな彼の逆鱗に触れるなんて・・・・・・まさかロマネは、自分の息子に世界を滅ぼさせようとでもしているのだろうか?
「魔王様、落ち着きなされ」
「「「「「っっっ!?」」」」」
と、そこでグリュナー侯爵が、終焔様の肩に手を置き、あろうことか命令とも取れる言葉で彼を諫める。
私達は驚愕に目を見開き、『こいつ、死にたいのか!?』と、内心で絶叫した。
・・・・・・どうでも良いけど、他の魔王一言も声を出して喋らないわね。見守るって言えば聞こえが良いけど、完全に自分に火の粉が飛んで来ない様、まるで肉食動物を前にした草食動物の如く息を潜めてるじゃない。魔王のくせに! まあ、私も同じ立場だったらそうするけど。だって自分の国、滅ぼしたくないし。
「っ! ・・・・・・すう、はぁ〜。すまない侯爵。世話を掛けたな」
「いえ、出過ぎた真似を失礼致しました」
が、そんな私たちが想像した様な最悪の事態にはならなかった。
それどころか終焔様は、素直に侯爵の言葉に従い、深く息をして昂っていた気を落ち着けると、彼を労った。
・・・・・・これが、あのブルガーニュで長年側近を務めてきた歴戦の将、フェルト・グリュナー。
ある意味で、私たちは今日一番の戦慄を覚えた。
「先ずは、会談の場を掻き乱したこと、謝罪させて頂きたい。その上で、数々の無礼を働いた後で恐縮だが、私から、ここに居る世界で最も頼りになる五名の先達へ、頼みを聞いて貰いたい」
「終焔殿・・・・・・」
それまでの凶悪な雰囲気を嘘の様に消し去り、終焔様は真摯な態度で我々に頭を下げた。
「私の、大切な妹と義母が、憎き父に攫われた。どうか、彼女たちを探す手伝いをしては貰えないだろうか」
その生真面目な顔は、魔王の威厳と優しい青年、その両面を併せ持っていた。
・・・・・・やっぱり、このギャップたまらないわぁ。ハァハァ。
シリアスが保たない残念な作者でごめんなさいww
おかしい。和君ちゃんはただの苦労性な魔王になる予定だったのに、またモンスター予備軍が登場してしまった・・・。もはや文章力の未熟さとかそんな問題では無く、ちょっと自分の趣味嗜好がアレなのでは? と今更の様に思う今日この頃です。
こんな感じでシリアスになったりゆるくなったりしてしまいますが、楽しんで読んで頂ければ幸いです。
今話もお付き合い頂きありがとうございました!




