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〜魔王、降臨。〜


 『魔王会談』当日、開催国である海の魔国『スパイネ』の魔王城。


 ここで今、世界でも有数の列強魔国の魔王、『六帝天』の内、()()がお付きの者を従え、既に円卓に座していた。


 今回の主催(ホスト)を務める、『‘‘海王’’アルバ・リーニ』が下座である扉の前に。

 海人マーリンである彼は両腕と背に立派なヒレを生やし、屈強な筋骨隆々とした身体に、幾つもの古傷を刻んでいた。精悍な顔つきは老いを感じさせないが、既に二百年近く玉座に着いている歴戦の魔王だ。


 その右隣に座するのは、『‘‘(じゅう)(おう)’’コラン・バール」。

 獅子人(レオルグ)である彼女は、猛々しい炎の様な立髪(たてがみ)と、溢れんばかりの色気が漂う肉感的な肢体を持つ、女性の魔王だ。その分厚い唇の端から覗く牙は、彼女の獰猛な気性をこれでもかと周囲に見せつけていた。

 見た目こそ海王アルバ以上に若々しいが、彼女もまた百五十年以上に渡って玉座を誰にも譲らない強者だ。


 その更に隣で目を瞑って静かに佇んでいるのは、『‘‘密林の(おさ)’’アルフォ・ラベリー』。

 木人(ウッディネス)である彼は、今年で五百歳を迎える最年長の魔王だ。

 植物の特性を持つ彼にとっては樹齢とも言える長い年月で全身に刻まれた深い皺と、そこに座するだけで静謐さを漂わせる神秘的な雰囲気が、曲者(くせもの)揃いの『六帝天』の中でも異色の存在感を(かも)し出していた。

 

 獣皇コランの正面、海王アルバの左隣に座するのは、『‘‘覇空’’ガムザ・パミッド』。

 鷲人(イグルス)である彼は、両腕と同化した巨大な翼を胸の前で交差させ、鋭く立派なクチバシを重く閉ざし、窓の外に目を向けていた。

 その落ち着いた物腰から見せる貫禄は他の魔王達に勝るとも劣らない物だが、実はこの中では最年少であり、玉座に着いてからまだ二十年ほどの若き魔王だ。

 ・・・因みに、彼が『六帝天』として選ばれたのもごく最近の事だ。三年前の魔王会談で起こった、後に『光の暴虐』と呼ばれる事件がトラウマになり、その座を降りた別の魔王に代わって、二年前の魔王会談から加わったのだ。


 覇空ガムザの更に左隣に神妙な顔で座するのは、『‘‘和君(わくん)‘‘ジン・ファンダラ』。

 氷人(アイセリア)である彼女の、鏡面の様な白銀の長髪、雪の如く透き通る肌、そして聖職者じみた清廉な装束を纏う姿は、その潔癖で生真面目な性格を黙っていても感じさせる。

 彼女だけ二つ名の(おもむき)が異なるのは、この中で、と言うより、世界で唯一の中立国、『カリフォニア』の玉座に君臨する魔王だからだ。

 中立国とは、文字通り魔族と人族が争わず共生する、種族を超えた中立の国である。

 そして彼女は、そんな世界でも最も異端とされる国の()()()()の内の一人だ。『カリフォニア』は、その特殊な性質故に、魔族の王、即ち魔王である彼女と、人族の王であるもう一人の王が二人で国の柱となっているのだ。


 どの魔王も、威風堂々、王者の貫禄を漂わせ円卓の席に着いている。


 だが、窓際の()()()()に位置する一席だけは、まだ空席だ。


 世界でも右に並ぶ者など早々居はしない強者たる彼らを待たせる最後の王は、なんとこの中で最も若く、最も優しく、そして・・・最も()()()魔王だ。


 ‘‘彼’’より長く生き、長く国を治めて来た歴戦の魔王たちにとって、‘‘彼’’の演じる『暴君の仮面』など、ガラスで出来た様に見え透いた物だ。その優しく繊細な心根を、ここに居る誰もが見抜いていた。


 しかし、その奥にある経験や謀略(ぼうりゃく)では(くつがえ)せない圧倒的な『力』と、それを振るう事を躊躇(ためら)わない内なる『狂気』を、彼らは無視することが出来ない。


 ・・・実は現在、本来の招集時間よりもまだかなり余裕のある時刻なのだ。

 なので、その‘‘彼’’が()()()()()()と言うより、魔王達が()()()()早く席に着いて()()()()()状況なのだ。


 ‘‘彼’’は、七年前の魔王就任時から、子供とは到底思えない落ち着きと聡明さ、そして狡猾さを発揮し、魔王会談でも立派にその務めを果たしていたが、やはり経験の浅さゆえ、まだ可愛げがあった。


 だが、三年前の『光の暴虐』を起こしてから、‘‘彼’’は変わった。


 当時はそれはもう数多の魔国総出で如何に‘‘彼’’を抑え込むか連日秘密裏に会合の場を設けて話し合っていたが、‘‘彼’’が護衛も付けず単独で『六帝天』の王城に直接足を運び、丁寧な謝罪をして回った事で、その騒ぎも収束した。


 そして、聡明さと落ち着きはそのままに、時折見せていた狡猾さと可愛げは鳴りを潜め、その代わり王の器に見合う貫禄を纏うようになった。


 故に、彼らも暫くは安泰だと、()()()()()()()気を抜いていたのだが・・・・・・。


「「「「「っっっっっっ!?」」」」」


 その豊富な経験と感の鋭さで漠然と感じていた‘‘胸騒ぎ’’が、想像を遥かに超える‘‘脅威’’の気配を(ともな)って、会談の場である魔王城に近づいて来ている事を、この場にいる全員が感じ取っていた。


 一体、今度は誰が‘‘彼’’の逆鱗に触れたのか? その答えを見つける前に、存在そのものを‘‘脅威’’へと変えた‘‘彼’’が、()()した。


「「「「「っっっっっっっっ!?」」」」」


 円卓を囲む彼らが身構えた直後、壮絶な衝撃と轟音に襲われる。


 ()()()()()が、この魔王城、それも円卓の間の窓辺に突撃して来たのだ。


 幸い、この円卓の間は海王アルバが事前に発動していた水の障壁魔法により守られていたので、中に居た者たちは無傷だ。・・・・・・もっとも、それは悪魔で、突撃して来たその‘‘何か’’に、彼らの命を問答無用で刈り取る意思が無かった故の結果だと、魔王たちは一瞬にして理解した。


 何故なら、衝撃を受けた窓際の壁は勿論、魔王城の中階層に位置するこの円卓の間より上の階層全てが、跡形も無く吹き飛んでいたのだから。



「グルオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」



「「「「「なっ!?」」」」」

 

 唖然と空を見上げる彼らの頭上を覆う、その‘‘何か’’の正体は、鋼の如く黒光りする鱗を鎧の様に纏う、巨大な『(ドラゴン)』だった。

 一対の巨大な翼、顎門から覗く一本一本が大剣の如き牙・・・・・・そして、その()()()()()()()()は、まるで獲物を品定めする様な目付きで唖然とする五名の魔王達を見下ろしている。


 だが、それも束の間。その竜が()()()()()に包まれると、虚空に溶けるように消え去り、代わりに、黒衣を纏う青年・・・‘‘彼’’が、そこに現れた。


「すまないな、海王アルバ殿。貴殿らを待たせまいと()()()()()来たところ、()()()()()城を半分ほど破壊してしまった」


 どのような魔法を使用しているのか、その足元には瞬く間に階段が形成されて行き、まるで玉座から下々の者の元へ降りてくる様に、‘‘彼’’は円卓へと足を運ぶ。


「とは言え、心配する必要は無い。・・・()()()()


「「「「「っ!?」」」」」


 歴戦の魔王達が珍しく見せる驚愕の表情にも構わず、‘‘彼’’は片手を上げ、そこに膨大な魔力を集中させると、まるでその魔力が()()()()()()()()()()()消え失せる。


 その、直後。


「「「「「っっっっっっっっっ!」」」」」


 寒気がするほど強大な魔法の気配が、魔王城全体を震撼させる。


 そして、その気配が極限まで膨れ上がると、まるで()()()()のように、城壁が空へ向かって形成されて行った。

 

 あっという間に、粉々に砕け散ったはずの魔王城の半分が、何事も無かったかの様に元通りになったのだ。


「「「「・・・・・・・」」」」」


 魔王たちは、ただただ押し黙る事しか出来なくなった。


 そんな、もはや神の御技と言っても過言では無い奇跡を起こした‘‘彼’’は、それを誇るでも無く淡々と円卓に歩み寄り、最後の一席へと腰を下ろした。


「・・・・・・さて、()()()()を始めようか?」


 揺らめく(ほむら)(ごと)く、全身から禍々(まがまが)しい紅の魔力を漲らせる‘‘彼’’の、その若さを忘れさせる低く厳かな声で告げられた、()()()()()()()()()()()に、否と言える者はこの場に居なかった。


 そして、彼らは無意識に思う。きっと、人族が恐れ(おのの)き、同胞が(あが)(たてまつ)る、‘‘魔王’’という存在の名に最も相応しいのは、自分達よりも遥かに若き‘‘彼’’であると。


 魔王シャンベル・ギブレイ。

 まだ(よわい)二十にも満たない歴代最年少の魔王にして、国の垣根すら超え歴代最強の称号を欲しいままにする、『六帝天』最後にして‘‘最凶’’の魔王。

 その種族はヴァンパイアであり、一見何の変哲も無い人族にも近しい限り無く『人』と言える容姿だが、その性質は人族の血を貪り喰らい己が糧とする、魔族の中でも屈指の凶悪種。・・・そして、その武勇と共に悪名が轟く魔国ブルガーニュ歴代の王達の中でも、ただ一人、人族の神官団をも凌駕する‘‘殲滅級魔法’’を使える、異常な存在(イレギュラー)


 彼に与えられた二つ名は・・・・・・


「・・・・・・我らが『六帝天』最後の一人、『‘‘終焔(しゅうえん)’’シャンベル・ギブレイ』殿も円卓に座した。これより、魔王会談を始める」


 海王アルバの厳かな声が、円卓に響き渡る。

 あれだけの物を見せられ、今もなお圧倒的な魔力の余波でプレッシャーをかけられ続けていながら、それでも声を振るわせなかったのは流石と言うべきなのだろう。・・・だが、その顔は恐怖を覆い隠すため、いつも以上に(しか)められている。もちろん、それは他の者たちも同様だ。


 『‘‘終焔’’』

 その気になれば世界すら終焉に導けるのではと思わせるその力と、(ほのお)にも似た紅の魔力から付けられた、彼の二つ名である。


 そして、会談が始まったその時、そんな彼が鋭い視線を向けたのは・・・・・・。


「・・・では、先ずは私から、終焔シャンベル殿に、お話しすべき事があります」


 白銀の髪を揺らし、よく聞かなければわからない程度だったが、確かに震える声で最初にそう切り出した魔王、和君ジン・ファンダラだった。


 その瞬間、終焔シャンベル以外の四名の魔王たちからも、彼女に視線が付き刺さる!!


『『『『お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!!!』』』』


 彼らの心の絶叫が空気すら震わせたように、彼女は感じた・・・・・・かも知れない。

 

作者の厨二が爆発しました。ごめんなさい。・・・・・・終焔wwwwwww


久々に二人称視点で書いてみましたが、親しい配下や姫君以外から見た魔王様は、やっぱり超魔王様ですねw


今回はかなり本編にエネルギーを使ってしまったので(いつも使えよ)、後書きは短めで締めくくらせて頂きます。


今話もお読み頂きありがとうございました! ちょっと厨二みが濃かったかもですが、楽しんで頂けていれば幸いですw 


====


2020/11/13 獣皇コラン・バールだけ種族を書き忘れたので追記しました!

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