〜憂鬱な魔王と呆れるメイド?〜
「・・・・・・それで、結局ロクサス様に散々お膳立てして頂いて、最後はピナ様に押し切られる形で血を頂いたと?」
「うっ!? ・・・は、はい」
シャル様がご自分で淹れたお茶をピナ様に振舞われた、その翌日。夕食後の席で私は、彼からお茶の席で起こった事の顛末を聞いていた。
残念ながら昨日は他に仕事があった為、いつもの如く盗み聞き出来なかったので、こうして落ち着いた時間に話を聞く事にしたのだ・・・・・・が。
「取り敢えず私からはこの言葉を送ります。・・・このヘタレ大魔王」
「ぐはっ!?」
大袈裟に胸を押さえてうずくまるシャル様を、私は温度の無い瞳で見下ろす。
「・・・・・ピナ様、まだ寝込んでおられますよ?」
「がはっ!?」
「幾ら久しぶりの吸血だったからと言って、もう少し加減という物が出来なかったのですか?」
「ご、ごめんなさいいいいいいいっ!!!!」
せっかくピナ様から血を頂いたばかりだと言うのに、文字通り血反吐を吐く勢いで叫びながら土下座するシャル様。・・・・・・無様ね。魔王なのに。
まあ、せっかくこっちは色々と妄そ・・・では無く! 覚悟してご褒美まで考えていたのだから、これくらいの仕返しは当然よね?
とは言え、イジメるのはこれくらいにしときましょう。昨日は結局一睡もせずにピナ様に寄り添っていたようだし。そのまま公務の為魔王城には顔を出したみたいだけど、かなり早く帰って来た事から見るに、どうせいつも以上に無理をして仕事を終えて来たのは分かりきっている。
先程お出しした夕食を食べていた時も、『食欲は無いが、せっかく用意してくれたのに残すのは申し訳ない』と、顔に書いてあった。・・・・・・まったく、本当に分かりやすいんだから。
「とは言え、先程様子を見に行った時には顔色も良く、安らかな寝息を立ててらっしゃったので、もう心配は無用でしょう。・・・シャル様も、無事、復調なさったようで何よりです」
「っ!・・・・・・本当にすまない。お前にも、色々と心配をかけてしまったな」
そう言って、神妙な顔でもう一度頭を下げるシャル様に、私は思わず苦笑する。
「魔王様がそんなにホイホイと頭を下げる物ではありませんよ。さあ、お顔を上げて下さい。遅くなりましたが、お茶を淹れましょう」
「いや、今日は・・・」
「ピナ様の事なら、私だけで無く使用人の皆が気にかけております。シャル様も、少し落ち着いて下さい」
「・・・・・・そうか。いつの間にか、彼女も随分とこの屋敷に馴染んでいたんだな。分かったよ。有り難く頂くとしよう」
復調したばかりだと言うのに憔悴しきっていたお顔に、いつもの柔らかさが戻ったのを見届けて、私は厨房へお茶の支度をしに行く。
飲んで頂くお茶は予め決めていたので、手早く用意し、シャル様の元へと戻る。
「お待たせ致しました」
「・・・いや、全然待ってないんだが。やっぱりお前、ピナとの茶の席ではわざとゆっくり持って来ていたな?」
「さあ? 何の事やら」
いつも通りサラりととぼけた私は、何食わぬ顔で彼の前にカップを置き、お茶を注ぐ。・・・取り敢えず、余計な事を考えるくらいは余裕が戻ったようね。
「ったく・・・ん? この茶、何だかいつも飲んでいる物とは香りの感じが違うな」
「気付かれましたか? 仰る通り、これは普段淹れているお茶に使っている‘‘茶葉’’では無く、‘‘香草’’を使って淹れた物です」
カップから立ち登る、普段召し上がっているお茶とは趣の違う甘く柔らかな香りに首を傾げるシャル様に、私は少しだけ『してやったり』と、内心で少し得意げになる。
「香草? あまり詳しくは無いが、普通は料理に使う物なんじゃ無いのか?」
「確かに、料理に使ったり香水の原料にされる物も多いですが、幾つかの種類は茶葉と同様に、こうしてお茶にして飲む物もあるのですよ? 一般的な茶葉で淹れた物に比べて少しクセがあるので、苦手な方もいらっしゃいますが、この香草は比較的香りも柔らかいので、慣れていない方でも召し上がり易いかと」
「ほう・・・。確かに、最初は少し驚いたが、何だか肩の力が抜けると言うか、安らぐ香りだな」
そう言って微笑を浮かべたシャル様は、ゆっくりとカップを傾け、「ほ・・・」と一息吐く。
「美味いな・・・。こうして香りを嗅ぐだけでも心地良いが、飲んでみるとほのかに甘い味わいもあって、不思議と心が落ち着いて来る」
「それは何よりです」
良かった。お口には合ったみたいね。
「ソアヴェ。ピナが起きたら、彼女にもこれを飲ませてやってくれないか?」
「っ! ・・・かしこまりました」
言われる前からそのつもりだったのだけど、同じことを考えたのだと思うと、何だか気恥ずかしいわね・・・。
「ん? どうした? 少し顔が赤いようだが・・・」
「い、いえ! 何でもありません!」
鈍感ヘタレ魔王のくせにこういう時だけ何ですぐ気づくのよ!
「そ、そうか? なら良いんだが」
「それよりも、落ち着いたのなら、本日はそろそろお休みになった方がよろしいのでは? 昨日は結局、一睡もされなかったのでしょう?」
少し露骨かと思いつつも、私は今日の本題に話の方向を切り替えようと早口に言葉を並べる。
「え? ああ・・・まあ、一日二日寝なくても俺は大丈夫だからな。ピナのお陰で魔力回路は完全に回復したから、魔力操作と魔法で体力は補完出来るし。寧ろ、久々の全快状態のせいか、気が昂って今日も寝れそうに無いと思っていたんだが・・・・・ソアヴェが淹れてくれたこの茶のお陰で、安眠できそうだ。いつも気にかけてくれて、ありがとな」
「うっ・・・い、いえ。メイドとして当然の事をしているだけですから」
屈託の無い笑顔で躊躇いも無く素直な感謝の言葉を口にするシャル様に、私は再び顔が赤くなるのを必死で堪えなければならなかった。・・・頑張れ私! こんなヘタレ童○魔王の言葉でいちいちトキメクな!
「わ、私などの事より、気にかけることがあるのでは? 今年の『魔王会談』まで、もうあまり日にちも無いと記憶しておりますが」
「・・・・・・・・・・」
私が『魔王会談』と口にした途端、シャル様の顔から、表情が抜け落ちた。そしてまるで、銅像のように固まっている。
「・・・・・まさかとは思いますが、お忘れになっていたのですか?」
「・・・・・・・・・・・は、ははっ。そんな、まさか・・・」
ギギッと錆びたネジの様な動きで顔を逸らした彼は、プルプルと震える手でお茶を口に運ぶ。
いやコレ完っ全に忘れてたやつでしょ。と言うか誤魔化し方下手過ぎか!
「シャル様?」
「・・・・・・・・すいません」
私が再び温度の無い瞳を向けると、シャル様は躊躇いがちにだが素直に謝った。・・・こういう所は本当にまだまだ子供っぽいのよね、うちの魔王様は。別に、ちょっと可愛いとか思って無いですよ?
「思い出したのなら、せっかくピナ様のお陰で復調された身体を壊さないよう、いつも以上に睡眠や休息をしっかりとって下さい。他国の魔王様方に、弱みを見せる訳にはいかないのでしょう?」
「それはまあ、勿論そうなんだが・・・・・・」
目を逸らしつつ口籠る彼に、私はいつも以上に強い語調で釘を刺す。
「ピナ様の事は、我々がしっかりと見ておきますから、シャル様はご自分の事に集中なさって下さい」
「お、おう・・・・・・そうだな。任せたよ。ソアヴェ」
私の勢いに押されて返事をしつつも、最後にはしっかりこの屋敷の、そして、国の主人としての顔で頷いたシャル様に、私も力強く頷き返す。
「はい。仰せのままに」
と言う訳で、新章がぬるっと始まりました!
因みに、本日メイド長さんに淹れて頂いたお茶は「カモミールティー」をイメージしております。安眠、リラックス効果があると言われているハーブティーですね。拙い文章力で伝わったか不安だったので、ここでご紹介させて頂きましたw
そして、章タイトルにもある『魔王会談』なるワードがしれっと出て来ましたが、はてさてどのような物なのか。・・・まあ、聡明な読者の皆様は字面だけで余裕で予想出来るとは思いますが、つまりそういう事ですw
今までのお話よりちょっと世界観が広がるので、作者的には色々と大変な事になりそうな章にはなるかと思っておりますが、楽しみながら描いて行きますので、皆様にもお付き合い頂ければ幸いです。
長くなりましたが、今話もお読み頂きありがとうございました!




