〜お茶と笑顔。③〜
「でも、何だか不思議な気持ちです。まさか、ロクサス様のような精霊の方と、こうしてお話する事が出来るだなんて、思っても見なかったので」
一度カップを傾け、しみじみと言葉をこぼすピナ。
俺はそんな彼女に向けて、少しだけ得意げな顔をしてしまう。
「我ながら、この『ろくさすさん』を始め、『ぬいぐるみシリーズ』の魔道具は画期的な開発だと思っている。・・・・・・とは言え、今の所、俺以外には使えないのが欠点なんだけどな」
「え? そうなのですか?」
疑問を口にしたピナに、ロクサスが愛らしいぬいぐるみの顔を向けた。
「普通の魔道具は、人族の魔力を規定の『量』さえ注ぎ込めば機能しますが、我々を宿らせるこの『ぬいぐるみシリーズ』は、使用者を選ぶのです」
「つまり、例えば私が使おうとしても難しい、と言う事ですか?」
「左様です。姫君は、魔道具に使われる『魔留石』という鉱石をご存知ですか?」
「はい。・・・と言っても、本で読んだ知識しかありませんが、精霊・・・の、方を宿らせ、定期的に魔力を注ぎ込むことで、継続的に魔法を発動できる鉱石、という事は存じております」
彼女はロクサスと話したことで、漠然とした知識でしか知らなかった精霊にも敬意を覚えたのか、「・・・の、方」と慌てて言い直している様が何とも愛らしい。
・・・・・・っと、いかんいかん。真面目な話の最中にニヤけていては、失礼という物だ。ん? ロクサス? おかしいな。基本ぬいぐるみだから表情は変わらない筈なのに、ジト目を向けられていると感じるのは気のせいだろうか?
「・・・・・・その通りです。ただ、その『魔留石』には、注げる魔力に上限がある、と言うことまでは知らないのでは?」
「え? 上限?」
まるで呆れたような仕草で俺から視線を外し、再びピナに向き直ったロクサスは、彼女に問いかけるようにして話を続ける。ピナもまた、そんな彼(彼女?)の言葉に興味を惹かれたようで、前のめりに問い返していた。
・・・何だろう。意図的に蚊帳の外に追いやられた感じがする。ロクサスさん。頼りになるのは良いんだけど、精霊なのに会話スキルが高すぎません? 俺の十倍くらい早くピナと打ち解けてるんですけど・・・。
「『魔留石』は、ある一定以上の魔力を注がれると砕けてしまうのです。そして、この『ぬいぐるみシリーズ』は、たとえ魔力純度の高い王族であっても、上限まで魔力を注いだ所で起動しないのです」
「それは始めて知りました。魔力純度が高い、とは、ロクサス様が仰っている『栄養』が多く含まれている、と言う事ですか?」
「然り。人族が“魔法の才能“と呼ぶ物は、主にこの魔力純度の高さを言います。同じ魔法を発動しても、魔力純度が高い者の方が、精霊から引き出せる力が強いからでしょう。他にも単純に保有する魔力量の多さや、術式を開発、応用する能力も才能には含まれるでしょうが、王族や貴族の血筋は等しくこの魔力純度が高い事からも、もてはやされるのはやはり前者でしょう」
「そうだったのですね・・・。恥ずかしながら、人族でありながらその辺りのお話は何も知りませんでした。魔法の存在は知っていましたが、自分が使ったことも無ければ、誰かが使う所を見たことも殆ど無かったので」
「ほう、それは珍しい・・・」
「っ! そ、そうだよな・・・・・・」
自嘲するように苦笑したピナに、俺は思わずたじろいでしまう。
彼女の育った環境を思えば、魔法について知識はあっても実体験が無いことくらいは想像が付いた筈なのに、何を珍しい魔道具一つ開発した程度ののことでいい気になっていたのだろうか。
けれど、ここで口ごもったままでは彼女にまた余計な気を使わせるだけだ! 今こそ、彼女を元気付けられる言葉や行動で、魔王としての威厳を・・・いや、男を示さねば!
「ピ、ピナ! なら、俺が・・・」
「でしたら、シャンベルに魔法を教わってみては? 見たところ、姫君の魔力純度は王族だけあってかなり高そうです。知識もあると言うなら、単純な魔法くらいならすぐに使えるようになるでしょう」
ってお前が言うんかーいっ!!!! ・・・・・・はぁ。この感じ、前にもあったなぁ。
「ええ!? で、でもそんな、ただでさえお世話になっているのに、これ以上ご苦労をおかけ出来ません! それに、シャル様はお忙しい身。こうしてお茶をご一緒する時間を作って頂けるだけでも・・・・・・」
「でしたら、あなたも対価を差し出せば良いのでは?」
「た、対価?」
「っ! ロクサス、まさか・・・!」
俺は彼(彼女?)が何を言わんとしているか察し、止めようと手を伸ばすも、ぬいぐるみは「ひょいっ」とでも言うように俺の手をかわし、意味ありげな視線だけを一瞬こちらに向けて、話を続ける。
「姫君の血を、シャンベルに捧げれば良いのです」
「ロクサス!」
「私の、血を・・・?」
思わず声を荒げた俺と、微動だにしないロクサスの間に視線を彷徨わせながら、ピナは戸惑いを見せる。
「ピ、ピナ! 今のはその、気にしなくて良いからな! そんな事をしなくても、魔法くらいいつでも教えてやるし、そのくらいの時間を作るのは別に苦でもなんでも無いんだ。だから、お前が負い目に感じる必要は何も・・・・・・」
「シャンベル。良い加減にしなさい。あなたの優しさは、時に相手に重荷を背負わせる。そうして無償で尽くせば尽くすほど、余計に彼女が負い目に感じてしまうとまだ分からないのですか?」
「っ!?」
諭すようなロクサスの言葉に思わず息をつめてピナに視線を向けると、彼女は、どこか気まずげに視線を逸らした。
「っ、ピナ・・・・・」
「ち、違うのです! 決して重荷になんて感じてはおりません! ・・・・・・ただ、その、シャル様は以前、自分の厚意は自己満足だとおっしゃいました。けれど、やはり私は、頂いたたくさんの温かい物に報いる何かをお返ししたいと、そう思ってしまって」
「っ・・・・・・」
必死に訴える彼女のその言葉が、自分に対する気遣いの表れだと分からないほど、俺も愚かでは無い。
けれど、俺は彼女がこの屋敷で笑顔で過ごしてくれれば、それだけで良いと思っていたのだ。
・・・・・・いや、そんな綺麗事だけじゃなく、少しでも自分に好意を向けてくれれば、なんて、下心もあっただろう。情けないが、彼女に一目惚れし、ハッキリと恋心を自覚した今となっては、そういう気持ちも全く否定出来ない。
だがいずれにしても、それは俺の都合でしかない。彼女に見返りを求めるつもりも、ましてや引き換えに血を求めようなどとは少しも思っていなかったのだ。
だが、結局そんな俺の浅はかな考えが、いつの間にか彼女を追い詰めていた。
・・・・・・どこまでも未熟な自分に、心底腹が立って仕方がない。
「シャンベル。あなた自身に血を飲むことに対する忌避があるのは知っています。ですが、もう痩せ我慢も限界でしょう? 何も彼女の血を飲み干せとは言っていません。幸い姫君は魔力純度の高い王族です。彼女の気持ちを軽くするためにも、せめて魔力回路を回復出来る程度に分け与えて貰えば良いではありませんか」
「え!? シャル様、もしやお身体を悪くされているのですか!?」
「い、いや! 別に悪くなっている訳では・・・」
「悪くなっています。彼はある程度『魔力操作』と『魔法』の併用で体調をコントロール出来るので、一見身体に異常は無いように見えますが、肝心の魔力回路がこれ以上弱れば、それも難しくなるでしょう」
「くっ・・・!」
普段の精霊との会話なら『霊王の瞳』に魔力を注ぐのを止めれば打ち切れるが、『ろくさすさん』に既に必要な分の魔力を注ぎ込んでしまっている現状では、それこそ『魔留石』ごと破壊しなければ、その言葉を止める事は出来ない。
だが、そんな真似をすれば、ロクサスとの信頼関係が壊れるのは勿論、ピナも、余計に事態を深刻に捉えてしまうだろう。
「・・・・・・私の、私の血を飲めば、シャル様は良くなられるのですか?」
「それ、は・・・・・」
思わず顔を逸らす俺を見て、ますますピナの表情が曇る。・・・くそっ。こんな顔をさせたくて茶に誘ったわけでは無いと言うのに。
「シャンベル。これまでは大事にならなかった故、見過ごして来ました。ですが、これ以上はあなたを想う者達の為にも、子供じみたワガママを押し通すのはおやめなさい。・・・・・・・顔も覚えていなくとも、あなたを想うあまり、文字通り全てを捧げて逝った母の話を、忘れたわけでは無いでしょう」
「っ!?」
まさか、ここで実の母の話を持ち出されるとは思わず、俺は瞠目する。
「・・・彼女との約定故、あまり多くは語れませんが、先代の『霊王』は私達の制止も聞かず、シャンベル、ただあなたを生かしたいと言うワガママを押し通してこの世を去りました。精霊を含め、彼女を想っていた者達は皆、深い悲しみに暮れた。そうして生かされたあなたが、我々と同じ思いを、この姫君や配下達にさせるつもりですか?」
「違う! 俺は、俺は・・・・・・」
否定したい筈なのに、何ひとつ言葉が見つからず、俺はぎこちなく口を開けたり閉じたりする事しか出来ない。
「シャル様」
「・・・ピナ?」
決して、強い声では無かった。けれど、いつものどこか儚い響きのそれとも違う、凛とした声で俺を呼んだ彼女の方へ、まるで吸い込まれるように俺は視線を向けていた。
すると、彼女は今までに見せたことの無い力強い眼差しで俺の瞳を見つめ返し、そして・・・・・・。
「どうぞ、召し上がって下さい」
「なっ!?」
突如、躊躇い無くドレスのボタンを外し、首から胸元まで無造作にはだけさせた。
「ピ、ピナ! 待ってくれ! 俺はまだ、お前の血を飲むなんて一言も・・・」
「いいえ。シャル様。召し上がって下さい。・・・もし、今ここで、私の血を飲んで頂けないと言うのであれば、私は舌を噛み切って自害致します」
「っっっ!?」
あまりに唐突なその要求、いや、脅迫に、俺は言葉を失う。
それほどに、彼女の目は真剣だったのだ。
「・・・・・・どうして、どうして俺なんかの為に、そこまで・・・・・・」
俺の喉から絞り出せた物は、そんな情けない呟きだけだった。
「シャル様は・・・ご自分の事が、お嫌いなのですね」
「っ・・・・・・」
どこか労るような響きで告げられた彼女の言葉を、俺は奥歯を噛み締めて無言で肯定する。
自分を好きになんて、なれる筈が無い。
実の母を殺して、生まれ落ちた。
どこかで生きている父親に抱いているのは、憎悪と殺意だけ。
愛してくれた義母と、幼くか弱かった妹を、この手で国から追放した。
殺戮と力の誇示で国を治め、そのくせ綺麗事に縋ってハリボテの魔王を演じる事すらままならない。
こんな、醜く、利己的で、無力な自分を、どうやったら愛せると言うのか。
「それでも、あなた様の事をお慕いしている方は、沢山いらっしゃるのですよ?」
「俺、を・・・?」
「・・・このお屋敷で、ソアヴェさんたち配下の皆さんと過ごしていると、とても強く伝わって来るのです。皆さんのシャル様への想いが。敬愛や親愛という言葉ですら足りないほど強い、あなた様をお慕いする心が」
「でも、それは・・・・・・」
「たとえ、シャル様がご自分の事を好きになれなくても、皆さんのお気持ちまで、否定する事は出来ないのではありませんか?」
「っ・・・・・!」
・・・あいつらが、俺を大切にしてくれている事は、勿論分かっている。けれど、それはきっと恩返しの意味合いが強く、俺自身への想いだけじゃ無いと、勝手に予防線を張って、自惚れそうになる自分を戒めていた。
愛してくれた誰かを、また失うのが怖かったから。・・・・・・そうか、俺は、怯えていたんだな。あの時から、ずっと。
「それに、ロクサス様とお話しして分かりました。シャル様はきっと、精霊の方々にも想われてらっしゃいます」
そう言って視線を向けたピナに応え、ロクサスはゆっくりと頷く。
「・・・・・・皆が、とは申しません。けれど、親しく接している者達は、多かれ少なかれシャンベルの身を案じ、出来る事なら末長く寄り添いたいと、そう願っているでしょう」
「ロクサス・・・・・・」
言外に、自分もそうだと視線を投げて来るロクサスを、俺もまた見つめ返した。
己の血に目覚めたあの時、初めて出会ってから・・・いや、もしかしたらそれよりも前から、側で俺を見守り続けてくれた精霊たちが、何を想い、何を考えているのか、俺は真剣に向き合った事があるだろうか?
意思を通わせる力を持ちながら、どこかで彼らを魔法を使う手段としてしか見ていない自分が居たのでは無いだろうか?
彼らの声に耳を傾ける機会は、数え切れないほどあったというのに。
「私は、皆さんに比べればシャル様と出逢い、共に過ごした時間はとても短いです。・・・けれど、それでも、あなた様の事を考えると、この胸にとても温かな想いが、沢山湧き上がって来ます。こんな事は初めてで、戸惑いもありますが、けれど、これがあなた様から与えられたとても幸せな温もりだと言う事は、外の世界を知らなかった私にも、ハッキリと分かるのです」
そう言って、自分の胸の前を押さえるピナは、恥じらうように頬を染めながらも、真っ直ぐに俺の瞳を見つめる。
「シャル様。無理にご自分を愛せとは申しません。ですが、どうか、どうかせめて、大切にはなさって下さい。シャル様を想う皆さんの心を、裏切らない為に」
「ピナ・・・・・・」
「それに、私は寧ろ嬉しいのです。この身に流れる王族の血を、あなた様に出会う以前の私は、呪いの様に感じておりました。けれど、その血がシャル様のお役に立つと言うのであれば、願っても無い事です。与えられた全てに報いるにはきっと足りませんが、それでも、私に捧げられる数少ないものなのです。どうか、お受け取り下さい」
立ち上がり、見惚れるほど美しい所作で一礼したピナは、ゆっくりと顔を上げると、俺のそばまで歩いて来る。
そして、ドレスの裾を持ち上げ、傅く様に俺の前で身をかがめ、その真っ白な首筋を晒した。
「・・・・・・本当に、良いんだな?」
「はい。・・・っ、どうぞ、お好きなだけ、お召し上がり下さい」
「っっっっ!!!」
往生際悪くここに来てもまだ躊躇いを見せる俺に気遣ったのか、ピナは自身の首筋に爪を立て、小さな切り傷を付けて血を滲ませる。
その甘く芳醇な、極上の美酒の様な香りを感じた瞬間、俺はこれまで感じたことが無いほどに抗い難い吸血衝動に意識を支配される。
な、何だ!? 今まで人族が血を流した戦場なんて幾つも経験しているのに、これほどまでの激しい渇きと欲を覚えたことなんて無いぞ!? まるで、初めて母の血を前にしたあの時の様な、いや、それ以上の衝動だ。王族の血には、それほどまでにヴァンパイアを狂わせる何かがあるのか!?
「あ、がっ・・・!?」
俺は必死に衝動に抗おうとするも、否応なく彼女の首筋に吸い寄せられ、徐々に牙を剥いた自身の口元を近づけていく。
「ぐっ・・・・」
「・・・大丈夫です」
「っ!?」
その時、どうにかこの激しい欲求を抑えようと顔を逸らした俺を、ピナは抱きしめる様にして、自分の首筋に俺の口元を近づける。
これまでとは比べ物にならないほど間近で、強烈な血の香りが脳を揺さぶった。
そして、理性を吹き飛ばした俺は彼女を無遠慮に抱きしめ返し、獣の様にその首筋に牙を突き立てた。
「がああっ!!!!!」
「あっ!? っ・・・・・んっ、んんっ・・・」
痛みを堪える彼女の、歯を食いしばる気配が伝わって来る。
けれど、強ばった体で、必死に離すまいと俺の背中に腕を回す彼女が漏らす熱い吐息に、ますます俺は気が昂り、抑制が効かなくなる。
舌の上に流れ込む彼女のとろけるように甘く濃厚な血を、味わう手間すら惜しんで貪り続けた。
「んくっ、んくっ・・・・・・」
弱っていた魔力回路が、まるで歓喜の雄叫びを上げるように彼女の魔力に潤され、抑え切れないほどに膨れ上がった真紅の魔力が全身から迸る。
過去に感じた中でも最上級の全能感と高揚に、俺の意識は支配されて行った。
「はっ、あ・・・・・んっ、ふっ・・・シャル、様ぁ・・・・・・」
「っっっっっっ! っぐっ・・・!」
だが、強ばっていた体から力が抜け、俺にしなだれかかったピナの、名を呼ぶ声を聞いた瞬間、手放していた理性と自我を、どうにか無理やり引き戻し、彼女の首筋から俺は自身の口元を引き剥がした。
「ピナ! 大丈夫か!? くっ、俺は、何て事を・・・!」
「・・・はっ、はっ・・・大、丈夫です。少し、ふらついてしまっただけ、ですから」
頬を上気させ、息を切らせる彼女は、ただでさえ白い肌を透けるのでは思うほど青白くさせた顔で、どう見ても強がりの微笑みを俺に向ける。
こんな時でも儚く美しいその微笑みに、俺は思わず泣きそうになりながら彼女の身体を横抱きに抱えた。
「そんな訳無いだろう! 意識は朦朧としていたが、自分がどれほど血を吸ってしまったかくらいは分かるんだ! 今すぐ医務室に、いや、その前に回復魔法で少しでも体力を補わなければ・・・・・『ヒーラ・リヒト』! 『ホリア・オー』! 」
俺はすぐさま『霊王の瞳』で光と水を司る精霊に働きかけ、身体を癒す光魔法、『ヒーラ・リヒト』と、魔力を回復させる水魔法、『ホリア・オー』を、同時に彼女に施す。・・・だが、いずれも失った血を元に戻す事が出来る訳では無い。
・・・何とか顔色はマシになったが、いざとなれば、この身の全てを賭けた大魔法を発動してでも、彼女の命を救わなければっ。
「・・・・・シャル様、お身体は、もう、よろしいのですか?」
「なっ・・・」
だが、俺の心配をよそに、彼女は俺の手に自分の手を重ね、そんな言葉を告げた。
「俺のことより自分の身を案じろ! 多少頑丈に出来ている魔族ならともかく、人族は血を失いすぎるとそれだけで命を失ってしまうだろう!」
「・・・ふっ、ふふっ。さっきまでと、立場が逆になってしまいましたね」
「だから、そんな事を言っている場合ではっ」
「シャンベルの魔力回路は回復しました。我が保証します。故に、安心して休まれるが良い。心優しく勇敢な姫君よ」
「ロ、ロクサス・・・?」
俺の言葉を遮り、驚くほど優しい声音で彼女に俺の回復を告げるロクサス。
その声を聞いて、ピナは一度コクりと頷くと、俺に再び顔を向け、小さく口を開く。
「申、し訳、ありません。・・・シャル様。・・・少し、休ませて、頂き・・・・・・・」
途切れ途切れの言葉だけを残し、彼女は静かに目を閉じた。
「ピナ・・・? おい! ピナ!?」
「慌てなくとも、意識を失っただけです。弱ってはいますが、すぐに処置したのが良かったのでしょう。大事は無いようです」
落ち着いたロクサスの声を聞き、俺は少しだけ冷静さを取り戻す。
「・・・・・そう、だな。命に別状は無さそうだ。でも、油断は出来ない。すぐに医務室に運んで、安静にさせよう」
「ええ、それが良いでしょう。・・・・・シャンベルも、久方ぶりの吸血で身体がまだ反動を受けているのでは? どうせ彼女を見守るため側を離れないのでしょう。ならついでに、一緒にゆっくりと休んで来なさい」
「・・・・・・ああ。そうするよ」
雲でも抱えているのかと思う程軽い彼女の身体を揺らさないようゆっくりと抱き直し、俺は休憩室を後にした。
見送るように後ろから向けられるロクサスの視線は何を思っているのか、俺は想像して、少しだけ、本当に少しだけ、笑った。
また間が空いてしまい申し訳ありません。
ギャグを挟みつつも、またまたシリアスみの強いお話になってしまいましたが、魔王様と姫君の絆は、より深まったのではないかと作者は愚考致します。
さてさて、次回からは新章、『魔王会談』編をお送りしたい! ・・・と、思っております。
珍しくちょっと真面目にプロットを練ってから(←いつもそうしろ)描こうと思っておりますので、またまた間が空いてしまうかもですが、なる早で投稿するので見放さないで頂けると嬉しいです!
今話も貴重なお時間を頂き、ありがとうございましたm(_ _)m
 




