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〜お茶と笑顔。①〜


 やっと意を決し、休憩室へと足を踏み入れた俺は、まず開口一番に謝罪した。


「す、すまない! 待たせてしまって・・・」


 何度か茶を淹れなおしたり、扉の前で立ち往生してしまったせいで、随分と彼女をこの部屋に一人きりにしてしまった。


 せっかく誘ったのに、初っ端から何をしているんだ俺は・・・。


「い、いえ! 全然そんな事はありません! 私の方こそ、シャル様に全てお任せしてしまって申し訳ありません!」


「いや、俺が自分から言い出した事なんだから当然だ。ピナが謝ることは何も無い! ・・・むしろ、逆に気を使わせてしまってこちらこそ申し訳ない」


「そんな! 私はこうしてここに置いて頂けるだけでも幸せなのです! なのに、私の為にシャル様がお茶まで淹れてくださるなんて、とても嬉しくて、嬉しくて・・・本当に、私は色々なものを頂いてばかりで、何もお返し出来ないのが申し訳なくて・・・・・・」


「いや、俺こそ!」


「そんな、私こそ!」


 何故か二人してペコペコと頭を下げ合う俺たちは、はたから見たら大層滑稽だったろう。


 とは言え、いつまでもこうして互いに謝り続けているわけにもいかない。せっかく淹れた茶が本当に冷めてしまう。


「え、ええっと、取り敢えず、茶を出しても良いか?」


「あ、はい! すみません・・・」


「ああいや、俺の方こそ・・・って、ははっ。これじゃキリが無いな。一先ず、お互い謝るのはもうやめにしないか?」


 苦笑しながら肩を(すく)めた俺に、ピナは一瞬だけ戸惑ったような顔をしたが、すぐに眉尻を下げて同じように苦笑を返してくれた。


「はい。シャル様」


「よし。じゃあ、注ぐぞ」


 俺は台車に乗せたカップを彼女の前に置き、ティーポットを傾ける。


 因みに、カップもティーポットも温めた直後から、風魔法の応用で空気の断層を表面に纏わせ、ある程度保温を効かせている。少しズルをしている様な気がしないでも無いが、ソアヴェに確認した所、ティーポットの中の茶に熱が移り過ぎない程度なら問題無いと言っていたので、厨房からここまで運ぶ間に冷めないよう工夫してみたのだ。


「・・・わぁ、とても華やかな香りですね」


 カップに注がれた茶から放たれるフルーツを思わせる豊かな香りに、彼女は酔いしれるように目を細めた。


 ・・・・・・よし! 取り敢えず香りは大丈夫そうだ!


「この茶葉は、俺みたいな初心者にも淹れやすい、香りも味も親しみ深い物らしいんだが、今日取り寄せたのはその中でも特定の地域でしか栽培していない、より香りが上品で豊かな物らしい。・・・なんて、偉そうに言ってみたが、全部ソアヴェの受け売りだ」


「ふふっ。博識なシャル様も、お茶の知識はソアヴェさんを頼りにされているのですね」


「俺の持っている知識は、国政や魔法にばかり偏っているからな。博識と言うより、必要に駆られて得た知識ばかりだよ。そう言う意味では、茶や料理の事も含めて、日常生活を豊かにする知識では、ソアヴェを含めた配下たちの方がよっぽど博識と言える」


「きっと皆さん、それだけシャル様の事をお慕いしておられるんですよ」


「その割には、しょっちゅう揶揄(からか)われたり罵倒されたりしてるがな・・・」


「きっとそれも信頼の裏返しです。このお屋敷にいらっしゃる皆さんは、お優しい方ばかりですから。きっと、シャル様が肩の力を抜けるよう、敢えてそういう接し方をされているのですよ」


「だと良いが・・・それこそソアヴェ辺りには、もう少し手加減して欲しい物だな」


「・・・・・・それはまた、少し別の問題かもしれませんね」


「ん? どういう意味だ? というか何故目を逸らす?」


「い、いえ! あ、あの、せっかく淹れて下さったので、冷める前に頂きますね!」


「う、うむ・・・?」


 彼女は何を焦っているのだろう? ・・・まあ、今日は茶を飲んでもらうのが目的だし、余計なことは考えなくても良いか。


「・・・っ! 美味しい・・・。凄く美味しいです! シャル様!」


 上品にカップを傾けたピナは、そう言って少し興奮気味に頬を紅潮させる。


「ほ、本当か? 気を使わなくても良いんだぞ?」


「いえ! 本当に凄く美味しいです! ・・・口に入れた瞬間、とても豊かに香りが広がるのに、後味はほんのりとした上品な苦味がすっと消えて行くようで、まるで、シャル様のお優しさが、そのままこのお茶の味になっている様な、そんな気がします」


「っっっっっっっっ!?」


 頬を(あか)らめたまま恥じらうようにはにかんで、そんなある意味殺し文句とも言える感想を漏らした彼女を見ていると、俺は全身がまるで炎に包まれたように熱くなった。


 もし、この熱に身を任せてしまったら、俺はきっと、今すぐ彼女を抱きしめて、その唇を有無も言わさず奪ってしまうかもしれない。


 そんな事を考えてしまうほどに、彼女のその笑顔は破壊力があった。


「シャル様・・・?」


「へ!? あ、ああ、いや! く、口に合ったのなら良かった! うん。本当に良かった! ははっ・・・」


 もっとも、現実の俺にはそんな度胸も甲斐性も無いのだが。・・・・・・本当に忌まわしいが、そう言う部分だけは如何にも軽薄で女たらしっぽかった父親に、少しくらい似ても良かったんじゃ無いかと思わないでも無い。


 とは言え、いきなりそんな真似をして彼女を傷つけるくらいなら、ヘタレ魔王の(そし)り程度、いくらでも甘んじて受けるがな・・・。


美少女の恥じらう笑顔、プライスレス。作者からは以上です。


・・・とか言ってみましたが、一応ちゃんと後書きっぽいことも書きますw


せっかく魔王様にお茶も入れて頂いたので、短く区切るつもりではありますが、この後ももう少し二人にはお茶を飲みながらお話を楽しんでもらおうと思っております。


バトルっぽい展開やシリアスみのある展開が多く入った方が物語として起伏に富むとは分かっているのですが、やっぱりこの二人の平和な時間を一番多く書きたいのですw


とは言え、ちょこちょこと伏線も散りばめて(散らかってとも言う)おりますので、そろそろその辺も回収して行こうかと思っております(多分)。


今後もゆるい空気感のお話多めにはなると思いますが、生暖かい目で気長にお付き合い頂けると幸いです。


今話もお読み頂き、ありがとうございました!

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