〜強がり魔王と悪戯っ子な精霊達?〜
「今日は風が気持ち良いな・・・」
その日、公務を昼過ぎに終えた俺は王都を離れ、ブルガーニュには数少ない農耕が盛んな街、テロワールへと視察に来ていた。
緑豊かな山々に囲まれ、その湧き水が清流として流れるこの街は、王都の様な派手さこそ無い物の、どこか心を和ませる景観見せてくれる。
『ねぇねぇシャルく〜ん。今日は戦争行かないの? こんな田舎見てても何にも楽しく無いんですけどぉ〜』
突然頭の中に響いた声に従い、特に慌てるでも無く振り向くと、そこには誰も居ない。
だが、俺はこの声の主が、そこに居る事を確信して、『右眼』に意識を集中した。
すると、まるで水面から浮き上がって来たように、葉を衣服の様に纏った美しい女性が、その姿を現す。
「買い物行かないの? くらいの気軽な調子で物騒なこと言うな、エーデル。と言うか、精霊が自然に囲まれた街を見て出てきた感想がそれとか、台無しにも程があるだろ・・・」
『え〜? だってぇ、私たちが司っているのは自然の理であってぇ、自然そのものでは無いものぉ。別に生命の息吹とか感じてもどうとも思わないしぃ〜』
「イメージ台無しだな! 人族の者が聞いてたら泣くぞ・・・」
『大丈夫だよ〜。どうせ普通の人族には私達の声聞こえ無いしぃ、そもそも姿も見えないしぃ?』
「・・・・・そう考えると、改めて俺は卑怯な存在だな」
人族は基本的に、精霊と交信して魔法を行使する。けれど、交信と言いつつ、あるのは明確な意思のやり取りでは無く、魔法陣を用いて精霊に自らの魔力を提供し、提供された魔力に応じて、精霊が相応の魔法を行使する、という非常に即物的な、取引とも言えるやり取りだけだ。
故に、こうして直接精霊と意思を交わし、魔法陣を用いずとも思いのままに強力な魔法を行使出来る俺は、彼らからすれば悪夢の様な存在だろう。
『卑怯と言う事は無いだろう。お前には資格が有ると言うだけの事。それに、実際に力を行使する際に支払っている代償は、彼らの比では無い』
エーデルのそれとは違う生真面目でハスキーな女性の声が、頭の中に響く。
すると、目の前にもう一人、稲妻を思わせる鮮烈な黄金のドレスを纏うエキゾチックな美貌の女性が、その姿を浮かび上がらせる。
「トーレス・・・お前までどうしたんだ?」
『シャンベルがまた一人で勝手に落ち込んでいたので、元気付けようと』
真顔でそんな事を言う彼女に、俺は何とも言えない微妙な苦笑顔になった。
「あ、ありがとう」
『も〜う! トレちゃんは言葉遣いがキツすぎぃ〜。そんなにハッキリ言ったらシャルくんが余計落ち込んでぇ、また面倒くさい感じになっちゃうでしょう?』
『・・・?』
「ぐっ!? ・・・エーデル、お前の言葉も破壊力は抜群だからな? 寧ろ、無意識な分余計にタチが悪い・・・」
『え〜?』
彼女ら精霊と会話出来るようになってから暫くして分かった事だが、精霊は基本的に感情表現が良くも悪くも素直で、魔族や人族の様な、いわゆる『おためごかし』とか『駆け引き』と言った類の話し方は一切しない。
もっとも、それは当然の事だ。彼らは本来意思の疎通に言葉を必要としない。俺と話している時は、こちらに合わせて己の意思を言葉に変換し、魔力の繋がりを通じて伝えてくれているので、どうしても言い回しが直接的になるのだ。
語尾や話のテンポが変わるのは、それぞれの精霊が持つ個性を言葉に変換した際に反映させている故だろう。
『そんな事よりシャンベル。お前、最後に血を飲んだのはいつだ?』
「な、何だよ突然・・・」
『この所、明らかにお前は弱っている。戦が続いたせいだろうが、それにしても魔力が痩せすぎだ。自覚はあるだろう?』
『あ〜! それアタシも思ったぁ! この間の戦争の時も、あんなショボい盾いっつもだったら兵士ごと一発で吹き飛ばせるのに、三発も魔法撃ってたよね! それにぃ、いっつもよりちょっとジューシーさが足りないなぁって感じだったのよねぇ〜』
「っ・・・・・・やはり、お前らには分かってしまうか」
トーレスとエーデルが言っている『痩せすぎ』だとか『ジューシーさが足りない』とは、恐らく魔力の『質』の問題だろう。
俺の種族は『ヴァンパイア』。人族に比べ数多の種族が存在する魔族の中でも、ブルガーニュ王族であるギブレイ家の血筋のみしか存在しない、希少中の希少種族だ。
その特性は幾つかあるが、中でも魔族として異質なのは、人族の血を取り込み、己の魔力に変換するというおぞましい能力を有している点だ。
他の魔族と同様に、『ヴァンパイア』も食事や休息で魔力の『量』自体は回復する。
だが、魔法を発動する際の威力や一度に消費する魔力量に影響する『質』が、血を取り込むのと、そうで無いのでは雲泥の差があるのだ。
しかも、血を取り込まずに魔力の消費を続ければ、体内の魔力回路が徐々に衰弱していくという持病の様な体質もおまけに付いている。
これを『呪い』と呼ばず、何と呼ぶのか。
そして俺は今、この呪いに抗いながら、どうにか自分を誤魔化して力を行使し続けている。
『せっかく丁度良い貢物が送られて来たのだ。良い加減、意地を張るのはやめたらどうだ?』
「っ!? ふざけるなっ! 彼女を供物にするなんて、そんな真似出来るわけが無いだろう!」
『・・・すまない。何故かは分からないが、私はお前を怒らせた様だ。謝罪しよう』
眉を下げて申し訳無さそうに俯くトーレスの態度に、過ちを犯したのは自分の方だと俺は気付く。
「あ・・・いや、俺の方こそすまない。お前に悪気が無い事は分かっている。感情的になってしまったのは、その、俺が彼女の事を大切に想っているからだ」
こちらの機微に疎い彼女らは、時折こうして心無く聞こえてしまう言葉も口にするけれど、それはあくまで合理的な判断や、その場で思い付いた考えに基づいているだけだ。
決してこちらを傷つけようとか、煽ろうとする意図は無い。・・・と、分かっていたのにな。やはり俺はまだまだ未熟だ。
『それはそうと、シャルくん? こんな道の真ん中で大きい声出して大丈夫? 多分、変な子だと思われてるわよぉ?』
「・・・・・え?」
エーデルにそう言われ、俺は周囲を見回して自分の状況に気付く。
決して土地の大きさに対して住む者の多い街とは言えないが、昼過ぎのこの時間は買い物や仕事で外を出歩いている者も多い。
小さな子供から年老いた者まで、様々な一般民達がこの通りを歩いている。
・・・・・・何が言いたいかと言うと、めっちゃ奇異の目で見られてる! 彼らの視線は、完全に不審者を見る時のそれだ!
因みに、俺は素性がバレないよう変装しており、麻で出来たローブのフードを目深に被っていた。怪しさ満点だ!
「し、しまった・・・・・・」
当然だが、普通の魔族は人族同様、精霊の姿を見るどころか声すら聞くことが出来ない。
つまり、俺の事は虚空に向かってツッコんだり怒ったりしている滅茶苦茶イタい奴にしか見えなかったはずだ。・・・って、冷静に考えると死にたくなるな!
「・・・失礼、そちらの方」
「うっ!?」
まさか、街の警備兵に通報されたか!? ま、まずい・・・。魔王が不審者扱いされて連行されるとか、恥ずかしいにも程がある! かと言って、ここで権力に物を言わせて強引に黙らせれば、一生物の黒歴史になる事間違い無しだ。と言うか絶対変な噂が立つし・・・・
だが、事実を有りのまま説明する事も当然出来ない。俺が精霊と意思疎通できる事は、一部の者を除いて明かしていないからだ。万が一、そこから俺が人族とのハーフである事が国に知れ渡れば、いくら力で押さえつけても反乱が起きかねない。
くっ、どうしたら・・・・・・ん?
「いや待て、その声聞き覚えが・・・」
「やはり、魔王様でらっしゃいますね?」
「ネビオーラ伯爵!」
恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは、少し腰の曲がった犬人の老紳士だった。
魔王の座に着いてから幾度も見たその顔に、俺は安心して気が緩んだせいか、思わず大声でその名を呼んでしまった。
だが、彼は驚くでも咎めるでも無く、落ち着いた物ごしで恭しく頭を垂れる。
「お久しぶり、と言う程でもありませんが、ご健勝そうで何よりでございます、魔王様」
「あ、ああ。お前も変わり無いようだな」
「お言葉は嬉しゅうございますが、見ての通りの役立たずな老体。今は机仕事がせいぜいのお荷物でございます」
「そんな事は無い。貴殿は俺の方針に従い、良くこの土地を治めてくれている。今日も農作地を見て来たが、作物の出来栄えも、働く者達の充実した顔も素晴らしかった」
世辞では無く、俺は正直な言葉でこの老紳士を称賛する。
彼は、先々代の魔王がこの国を治めていた頃、大きな戦争で武勲を上げてのし上がった生粋の叩き上げ貴族なのだが、その勇ましい経歴とは裏腹に、思慮深く落ち着いた性質を持ち、俺が魔王になってすぐ打ち立てた強引な政策や新しい法にも、異を唱える事無く素直に従った。
そればかりか、瞬く間に自分の治める領地の民へ俺の意図を理解させ、行動に移させた。その手腕もさることながら、上に立つ者としての器と風格は、俺なんて比にもならないだろう。
「もったい無きお言葉、ありがたき幸せにございます」
「そう謙遜するな。俺の方こそお前に見習う事ばかりで、こちらが頭を下げたいくらいだ」
魔王という立場故に、俺は彼にも偉そうな物言いはするが、若輩であり上に立つ者の後輩として、尊敬の念は絶えない。
「ハッハッハッ。やはり、魔王様は先代にも、先々代にも似ておられませんな。顔付きもお二人の面影はありますが、一番お優しく見えます。最近は、特に柔らかくなられた」
ほがらかに笑いながらそんな事を言う彼に、俺は思わず苦笑する。
「ネビオーラが相手では、俺も歴代最強などとふんぞり返れんな」
「魔王様がご自分からふんぞり返られた事など、ありはしないでしょう。そのお心を見抜こうともせず、勝手に恐れている者達が、あなたを見上げているに過ぎません」
「優しいのか手厳しいのか、微妙な発言だな」
「これはこれは、御前で大変失礼致しました」
「「・・・ふっ」」
いつも挨拶代わりにする冗談の様なそうで無い様なやり取りを終えた俺たちは、互いに小さく笑い、改めて向き直る。
「して、本日はどの様な御用向きでこのテロワールへ?」
「なに、そろそろ季節の移ろう頃だからな。農地や街に異変が無いか、視察しておきたかっただけだ。徴税の具合は任せるが、いつも通り、出来るだけ彼らが豊かに暮らせる様にしてくれ」
「もちろんでございます。わざわざご足労頂き、ありがとうございます。・・・とは言え、多少異変があろうとも、税政に関してはご心配無用でしょう。何せ、この七年間、魔王様は全ての戦争をお一人で引き受けなさっておられる。それはつまり、兵士たちの装備や治療、食料など、有事の際にかかる膨大な国の支出がほぼ皆無であるという事。たとえ以前の十分の一以下に下げられた税収でも、十二分に国庫は潤っているでしょう」
「それくらいしか、魔王という兵器として生まれた俺には、出来ることが無いからな。・・・とは言え、お前や一部の貴族を除けば、税収の事を含め、俺の方針が気に入らない者の方が圧倒的多数だ。全員味方になれとは言わないが、せめてお前やグリュナーの聡明さを半分でも持っている貴族がもっと多く居れば、この国ももう少しマシになると思うんだがな」
「グリュナー、ですか・・・」
「ん・・・?」
と、そこで何故か、ただただ穏やかだった伯爵の雰囲気がピリッと、ほんの僅かな緊張を見せた。
「時に魔王様。風の噂で耳にしたのですが、グリュナー侯爵の孫娘を公務補佐として仕えさせているとか」
「え? あ、ああ・・・。まあ、そうだな。だが、別にグリュナーの孫だからと言って贔屓にしている訳では無いぞ? 純粋に有能だから役職を任せているだけだ」
「ええ、魔王様がその様な人選をされるとは微塵も思っておりません。・・・ただ、私からも一人、推挙したい者がおりまして」
「・・・・・・」
何だろう。そこはかと無く嫌な予感がする・・・。
「ジンファ! 魔王様にご挨拶しなさい」
ネビオーラが珍しく鋭い声を出し、背後に控えていた馬車に顔を向ける。
すると、ゆっくり馬車の扉が開き、彼と同じ犬人の女性が、優雅な所作で降りて来た。
「覚えておいでで無いかも知れませんが、お久しゅうございます。魔王様」
派手では無いが上品なワインレッドのドレスの裾を持ち上げ、その女性は恭しく頭を垂れる。
「ジンファ・・・もしかして、昔よくネビオーラの後ろを付いて回っていた、あの小さい子か?」
「っ! ・・・はい。覚えていて頂き、光栄の至りですわ」
はにかむ様に顔を綻ばせた彼女を見て、俺ははっきりと思い出す。
昔会った時はもっとオドオドしていて、挨拶もどこかぎこちない様子だったが、心も体も随分と成長したようだ。
確か髪型も昔は癖っ毛を気にして短くしていたが、今は美しいウェーブがかったブロンドで、顔付きも常に自信無さげだったあの頃に比べると、気品に満ちた淑女のそれだ。
「いや、すぐに思い出せなくてすまない。それにしても見違えたな」
「恐れ多いお言葉、ありがとうございます。祖父の勧めで、魔王様が建てられた王都の寄宿学校に通っているのですが、きっとそこで受けさせて頂いている教育のお陰ですわ」
「おお! あそこに通っていたのか。そう言えば、今は連休期間だな。と言うことは、今は里帰り中か?」
「はい。祖父が王都での買い物ついでに、馬車に乗せて連れ帰ってくれました」
「そうか。まあ、テロワールなら王都から大した距離も無いし、羽休めに帰りやすいだろう。・・・にしても、たまに視察には行っていたんだが、気付かなかったな・・・」
俺が魔王の座に着いてから二年ほど経った頃だったか、民たちの根本的な思想や教育を改善する為、俺は王都を含め幾つかの学校を設立した。
彼女が通っているのは、貴族の子供達を通わせる為に王都に建てた寄宿学校だ。
わざわざ親元を離れさせる『寄宿』の体制を取ったのは、無論、凝り固まった彼らの価値観から引き離し、ゼロから平和的な思想を学んで貰う為だ。すぐには無理でも、いずれ家督を継ぎ、この国を支えていく彼らの間に少しでも真っ当な価値観が芽生えれば、少しずつでも不要な争いを減らせると考えたのだ。
「致し方ありませんわ。魔王様はただでさえ国政や戦でお忙しい身。国中を定期的に視察されているだけでもどれだけの時間と労力を割かれているのか、想像も出来ません。なのに、それぞれの街に建てられた学校も見て回られているのですから、一生徒の事まで確認していたら、いくら魔王様でも倒れられてしまいます」
「学校運営も国政の一環だ。顔ぐらい出すさ。しかし、せっかく入学してくれたのにこう言っては何だが、ネビオーラの教育を受けているお前なら、あそこに通わずとも、立派にこの国を任せられる貴族になれるだろうに。わざわざ窮屈な学生生活に勤しむなんて、真面目と言うか、物好きだな」
そう言って、俺は肩を竦めながら苦笑する。
建てた俺が言うのも何だが、王都の寄宿学校は他の学校と比べて特に素行や生活態度に厳しくするよう教員に申しつけているので、今まで何不自由無く自由奔放に暮らしていた貴族の子供達には、かなり窮屈に感じるだろう。
もちろんそれも、無闇に民から税を巻き上げたり、権力争いばかりにうつつを抜かして領土の自治をおざなりにする様な貴族を一人でも減らすためだ。
そんな狙いがある故に、真っ当な貴族のお手本の様なネビオーラを祖父に持つ彼女には、あの学校に通う事は不要ではないかと思える。
「・・・・・それは、少しでもあなた様のお近くに居たかったからです」
「え?」
き、聞き間違いだろうか? 今何かとんでもないことを言われたような・・・・・・。
「魔王様。少しよろしいでしょうか?」
「ネビオーラ?」
伯爵は何故か頬を染めて俯いてしまったジンファの側を離れるよう俺を促し、まるで悪巧みでもする様にこそこそと小声で話しかけてくる。
・・・・・・何故だろう。何も悪いことをしていないはずなのに、先ほどから背中の冷や汗が止まらない。
「身内の贔屓目もあるでしょうが、ジンファは美しい娘に育ったと思うのです。それに、歳は魔王様の一つ下。まだまだこれから大人の女になるにつれ、美しくなって行くでしょう」
「そ、そうだな」
「それに、あれは今のところ学校でも主席の成績を取っており、将来はきっとあなた様の優秀な配下となります」
「う、うむ。それは心強いな?」
う〜ん? 何だか話の流れがきな臭くなって来た様な・・・。
「どうでしょう魔王様? 我が孫娘を、あなた様の許嫁として城に迎えては頂けませんでしょうか?」
「ああ、なるほど許嫁・・・って、ブフッ!? い、いきなり何を言い出すんだ!?」
ネビオーラがあまりに平然と口にした唐突な申し出に、俺は盛大に吹き出す。
「正妻になどと贅沢は申しません。当家の家柄では不足である事も承知しております。ですが、側室であれば、ジンファほど従順で有能な者は居ないと思いますが?」
「い、いや、そう言う問題では無いだろう!? そもそも俺にはまだ早い話だ!」
「何を申されますか。貴族であれば生まれる前から許嫁が決まっている者も少なくありません。寧ろ、既に魔王となられて七年も経ったシャンベル様が、今でも妃の一人も迎えられていない事の方がおかしいのです」
「うっ・・・・・・」
た、確かに今までの慣習や歴代の魔王の事を考えればそうなんだろうが・・・・・・。
「で、でも、彼女の意思だってあるだろう!」
「そちらは問題ございません。あれは、昔からあなた様のお側に侍る事を望んでおります」
「なっ・・・・・!?」
もはや声をひそめる事すらせず堂々と言い放つネビオーラの言葉を聞いて、思わずジンファに視線を向けると、彼女の頬は朱に染まりつつも、じっと俺の目を見返していた。
『ねぇねぇシャルくん? これってとってもラッキーじゃない?』
『エーデル?』
それまで姿を消していたエーデルとトーレスが、再びその姿を見せる。
俺はネビオーラ達に悟られないよう魔力の繋がりを利用して、声を出さず言葉を伝える。
『シャンベル、お前が血を吸うことを躊躇っているのは知っている。だが、己からその身を捧げる者ならば構わないのでは無いか? お前は父とは違い、魔族の血でも糧に出来るのだろう?』
『トーレスまで!? いや、だからそう言う問題じゃ無くてだな!』
『も〜う! シャルくんたらホント面倒くさいんだから! 仕方無いなぁ、私が協力してあげよう!』
『は?』
『よし。私も手を貸そう』
『おい!?』
いきなり意味不明なやる気を出し始めた精霊たちに俺は慌てるが、時既に、遅かった。
「きゃっ!?」
「はぁっ!?」
突如、俺たちの周囲にだけ吹いた突風によって、ジンファが着るドレスの裾がめくれ上がる!
「え? わっ!?」
「うおっ!?」
その光景に気を取られた瞬間、俺と彼女の間に小さく稲妻が閃き、まるで引きつけ合う様に二人の身体が密着してしまった!
「ま、魔王様・・・・・」
「ちょ、なっ!?」
俺に張り付いたまま彼女は顔を熱したヤカンの様に茹で上がらせる。
『イっちゃえシャルくん!』
『思うまま貪るが良い』
『お前らの仕業か!?』
親指を立ててウィンクをかましてくるエーデルと、どこか得意げな顔で頷くトーレスに、俺は盛大に顔を引き攣らせる。
だが、そこでふと気付く。あまりに突然の出来事で勢いに流されていたが、よく考えれば彼女たち精霊が魔法を使うには、人間が使う魔法陣の代わりに、俺の身体、その中にある魔力回路を媒介にする必要が有る。
なら、俺の意思で彼女たちが流し込んで来る魔法の術式を止めることが出来るはずだ。
意識を集中し、俺はその術式を強制的に破棄する。
「・・・・・・よし」
「っ!? 魔王様、その瞳は・・・?」
「あ、ああ、気にするな。ほら、もう離れられるぞ。・・・今のはまあその、俺の魔力が暴走した結果だ。すまんな。迷惑をかけた」
「迷惑だなんてそんな! ・・・寧ろ、一時でも魔王様の胸に抱かれ、ジンファは幸せでございます」
「そ、そうか・・・・・・・」
ネビオーラ・・・いったい、彼女にどんな教育をしているんだ?
『ちぇ〜。もうちょっとだったのに!』
『まったく、このヘタレめ』
『やかましいわ!』
相変わらず好き勝手言ってくれる精霊たちに、俺はただただ振り回されたのだった。
まず、更新遅くなり申し訳ありません! 最近作者諸事情で遅れ気味になっておりまして、恐縮であります(-。-;
毎日書いて投稿したいのですが、なかなか思う様にいきませんね^^;
さて、言い訳はこの辺りに致しまして、またまた新キャラ続々登場でございます! ちょっと出し過ぎて間延びした感は否めませんが、精霊たちや屋敷外の配下についても描いていきたかったので、長くなるのは承知で強行してしまいましたw
にしても、色々なところにフラグが立ちまくってしまいました。まさか某侯爵様方面のお話がここまで広がるとは作者も予想外でしたがw
でも主人公以外の所で関係性がごちゃごちゃして行くお話も大好きなので、本筋を見失わない程度にこれからも描かせて頂ければと思います!
読んで頂いた皆様、ありがとうございます! これからも生温かい目で見守って貰えると嬉しいです!




