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〜ご注文はメイド『たち』ですか?〜

 

「ピナ様! おはようございます!」


 天真爛漫な溌剌とした声が、暖かい陽の光が降り注ぐ庭園に響く。


「おはようございます。アルバさん」


 清流の様な透き通った声で返事をしたのは、木陰に設えたベンチに浅く腰掛け、読書をしていたピナ・ノワール姫。

 

 宝石の様に(つや)やかな美しい黒髪と、黒真珠の様なその大きな瞳が、陽の光を吸い込んでキラキラと輝いている。


 貢物(みつぎもの)としてこの国に送られて来た彼女だが、このお屋敷で過ごす間、自由を許された姫君は進んで給仕の手伝いを買って出た。


 だが、メイド長ソアヴェの意向で手伝いは食事の支度のみとされ、他の空いた時間はこうして読書に勤しみ、この国の歴史や文化の勉強をしている。


「今日もお勉強ですか? 凄いですね〜。私なんて文字の列見てたらすぐ眠くなっちゃいますよ!」


 そして、彼女に話しかけた天真爛漫、と言うより、能天気な声の主、アルバは、相手が主人の客人だと言うことを忘れているのか、かなり砕けた態度で接している。


 背が低く華奢な体つきに、小動物を思わせるクリクリとした愛らしい目。その幼い容姿のせいもあって、使用人が客人に話しかけていると言うより、子供がじゃれついている様にしか見えない。


 明るい金色の髪から覗く闘牛を思わせるねじ曲がった二本の角は、本来人族に忌み嫌われる魔族の特徴の一つなのだが、ピナ姫は特に気にすること無くほんわかとした柔らかい笑顔で会話に応じていた。


「シャル様に貸して頂ける本はどれも読み易くて、物語調で書かれた面白い本も多いですから、全然苦ではありませんよ。・・・・・それに、少しでも寄り添ってお支えしたいのです。私に笑顔をくれたあの方にも、もっと沢山、心から笑って欲しいですから」

 

 そう言って恥じらいながら微笑むピナ姫は、この庭園に咲くどんな花々よりも可憐で、美しかった。


「ピナ様・・・可愛いー!!!」


「へ? きゃっ!? ア、アルバさん?」


 突如、奇声を上げて抱きついて来たアルバに、ピナ姫は動揺しつつも、まるで幼子にそうする様に優しく頭を撫でる。・・・・・・ゴクリ。


「えへへ〜。・・・およ?」


「こら、アルバ! またピナ様にご迷惑をお掛けして・・・」


 と、そんな彼女の襟元を掴んで、ヒョイっと持ち上げる背の高い女性が現れる。


 他のメイドと同じデザインの服を着ているのに、まるで別物にすら見えるスラリとしたその長身の彼女の名はメンシア。


 鋭い目つきやハッキリした物言いで誤解を受けがちな彼女だが、意外に少女趣味な面があったりする。


 一つ結びに纏められた長く真っ直ぐな()()と、そこから覗く短い二本の角は、()()()()と良く似ていた。


「ピナ様。おはようございます。ご機嫌麗しそうで何よりです。・・・申し訳ありません。またこの子がじゃれついていたみたいで」


「メンシアさん! おはようございます。迷惑だなんて、そんな事はありませんよ。アルバさんの髪はふわふわしていて、撫でている私の方が気持ち良いくらいです」


「ピナ様の撫で撫で気持ち良いんだよ〜。羨ましいならメンシアもして貰えば?」


「なっ!?」


「・・・撫で、ますか?」


「い、いえ! 私は、そんな・・・」


 アルバのいい加減な言葉を間に受けたピナ姫は、メンシアの顔を覗き込んで愛らしく小首を傾げる。


 その破壊力抜群の仕草をまともに見てしまったせいか、メンシアはその凛とした顔付きに似合わず頬を淡い朱に染めて、しどろもどろに口元をもにゅらせていた。・・・・・・じゅるり。


「と、とにかく! ピナ様がお許しになっても、仕事だってまだあるんだからいい加減にしなさい!」


「むぅ〜」


「すみません・・・。私も引き止めてしまったみたいで」


「ピナ様が謝られる事なんてありませんよ。この子ったら私と大して年も変わらないのに、いつまで経っても子供じみた振る舞いが抜けなくて・・・」


「え〜、でもメンシアだってぇ、昔シャル様に貰ったぬいぐるみ達と今だに一緒に寝てるくせに〜」


「どうしてそれを!? あ、ち、違っ!? 何を言ってるのよアルバ!?」


 不満そうに頬を膨らませるアルバの口から放たれた暴露に、メンシアは激しく動揺する。・・・・・・ふ、ふひっ!


「だって本当の事じゃん!」


「こ、このっ・・・!?」


「・・・ふふっ。お二人は、本当に仲良しさんなのですね」


 じゃれ合いを始めた二人のメイドを、ピナ姫は楽しげに微笑みながら見守る。・・・・・・ああ、尊い。


「わ、私たちは別に仲良しでは・・・。いえ、もう良いです。・・・・・・ところで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() プラニー」


「うっ!? ば、バレていましたか・・・・・・・」


 と、そこでメンシアが()()鋭い視線を向けてくる。


 くっ! もう少しピナ様と二人の絡みをじっくり眺めていたかったのに! 


 ・・・まあ、バレてしまったものは仕方ありません。潔くご挨拶するとしましょう。


「おはようございます。ピナ様。ご挨拶が遅れました事、誠に申し訳ありません。木漏れ日を受けて読書されていらっしゃる姿があまりに麗しかったので、つい見惚れてしまいました」


「プ、プラニーさん・・・。おはようございます。でもその、麗しいだなんて恐れ多いです」


 ピナ様は恥じらってらっしゃるのか、ぎこち無い笑顔で私に挨拶を返して下さいます。・・・頬が引きつっているように見えるのは、気のせいですよね?


「そ、それにほら! プラニーさんこそ、私なんかよりとってもお綺麗じゃないですか!」


「何をおっしゃいますか。ピナ様の可憐なお姿に比べたら、私の浅黒い肌や下品な身体つきなんて、路傍の石にも等しい凡庸(ぼんよう)な物でございます」


 メンシアの事を少女趣味なんて評した私だけれど、ピナ様の様な可憐で儚い、正に深窓の姫君と呼ぶに相応しい容姿には、誰よりも憧れがある。


 ・・・と言うか、近くで見るとやっぱりドチャクソ可愛いわねこの姫様! 部屋に飾ってずっと眺めていたいわぁ・・・・・・・。


「そんな事ありません! 不健康そうな肌や身体つきの私よりも、大人っぽくて女性的なプラニーさんの方が、ずっとお綺麗です。同じ黒髪でも、何だかとっても艶っぽく見えますし」


 しかも性格も良い! 最高かよ! ピナ様が姫君過ぎて辛い・・・。


「あ、あの、プラニーさん?」


「じゅるっ・・・へ? あ、ああいえ! 失礼しました! 少しぼーっとしてしまって」


「プラニーたまに気持ち悪いよね〜」


「たまに、は余計よアルバ」


「・・・・・・アルバ、メンシア?」


「「ひっ!?」」


 あら、そんなに怯えなくても良いのに。ちょっと目の奥で睨んだだけよ?


 ま、そんな事より今はピナ様ね。


「それはそうと、ピナ様。そのようにご自分を卑下なさらないで下さい。我々があなた様をお美しいと思っているのはお世辞でも何でも無い本心です。・・・それに、口には出さないかもしれませんが、シャル様もきっと私たちと同じお気持ちです。あまり自虐が過ぎれば、それはピナ様を想ってらっしゃる方への無礼にも繋がりますよ」


「っ! そ、そう、でしょうか・・・・・・。でも、その、気をつけます」


「・・・?」


 おや? 何だか予想以上に恥じらってらっしゃる? ・・・・・・シャル様、そっち方面はダメダメな鈍感ヘタレ魔王様かと思いきや、意外と頑張ってるのかしら?


 まあ、すれ違ったりあたふたしている二人を眺めているのは鉄板だけれど、これはこれで恥じらうピナ様を沢山見れそうだし・・・・・・イイわね!


「・・・わ、私、そろそろソアヴェさんのお手伝いに行って来ますので! 失礼します!」


 楚々とした足取りながら、あわあわと慌てながら屋敷に戻るピナ様のお姿は、やはり可愛さの塊だった。


「はぁ、はぁ、た、堪らないわぁ・・・・・・・」


「「・・・気持ち悪い」」


「何か?」


「「ひっ!?」」

と言う事で、全力の悪ふざけ第二弾でございます! 今回もごめんなさい!


・・・・・・にしても、ちょっと休憩くらいのつもりで書き始めた日常回ですが、予想以上に長く、そしてある意味濃くなってしまいましたw


ツンデレメイド長や厨二忍者もどき(←言いたい放題w)以外の配下達の事はずっと描きたいと思っていたのですが、やはりある程度は本筋の魔王様と姫君の関係を進めてからと思っていたので、何だかんだ遅くなってしまいました。

・・・とは言え、自分で書いといてこう言うのも何ですが、予想以上に濃いキャラ達になってしまった事を謹んで謝罪致します_| ̄|○(特にモノローグを担当した気持ち悪い奴)


残念ヒロインがツンデレに次ぐ定番と化して10年以上は経っていると思うのですが、作者も大好物とは言え今後が心配になるモンスターを生みだしてしまった気がします・・・。主に物語を崩壊させるバランスブレイカーになってしまうのではと言う意味でww


でも、やはり安らぎの場所であるお屋敷で働く配下達は愉快な子達多めにしていきたいと思っておりますので、今後もモンスターが登場する可能性は否めませんが、生暖かい目で見守って頂けると嬉しいです!


本文だけで無く後書きも長くなってしまいましたが、お付き合い頂いた皆様ありがとうございました!

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