〜ご注文はメイドですか?〜
「お、おはようございますシャル様」
「お、おおう! おはよう・・・・・・ピ、ピナ」
「「・・・・・・」」
見ているだけで口から砂糖が溢れ出しそうな、食堂での朝の一幕。
私は内心を顔に出さないよう表情筋を全力で引き締めつつ、シャル様とピナ様の朝食を用意する。
・・・ちっ。
「ソアヴェさん。ありがとうございます。・・・すみません。朝食はいつもお任せしてしまって」
「いえ。元々お食事の用意は私の仕事ですから。お昼やお夕食をお手伝い頂けるだけでも、とても助かっていますよ」
「そう言えばそんな事を言っていたな・・・。ソアヴェが一緒なら問題無いとは思うが、無理はするなよ?」
「無理だなんてそんな! 寧ろ、誰かに食べて頂けるお食事を作るのはとても楽しくて、病みつきになってしまいそうなくらいです」
「がはっ!?」
ほんわかと微笑んだピナ様の愛らしいお顔を真正面からまともに見てしまったシャル様は、まるで高威力の魔法でも顔面に直撃したみたいにのけ反った。
・・・・・・・・ちぃっ!
「シャル様!?」
「だ、大丈夫だ気にするな! で、でもそうか。楽しんでいるなら何よりだ。いつもはソアヴェの作ってくれる美味い食事を期待しながら屋敷へ帰って来ていたんだが、お前も作ってくれるなら楽しみが二倍になるな」
「え!? い、いえ、私なんてまだまだです!」
「そう謙遜する事は無い。この間ご馳走してくれた食事は本当に美味かった」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
童貞のくせに相変わらず無自覚でストレートなシャル様の物言いに、今度はピナ様が赤面して口籠る。
・・・・・・・・・・・・もうメイド辞めてやろうかしら。
まあ、二人の関係が前進した理由は分かっている。例の如く昨日のお茶会もしっかり盗み聞きしていたし。
でも、もうちょっと場を弁えるとか出来ません? ここには私も居るんですよ?
・・・・・・と言っても、どう考えたって恋愛素人な二人に、今の自分たちが周りからどう見えるかなんて考えている余裕は無いのでしょうけど。
え? お前だって片想い以外ろくに恋愛経験無いだろって? うるさいぶっ殺しますよ。
「ど、どうしたんだソアヴェ? 何だか雰囲気が怖いんだが・・・」
「いえ別に。少し寝起きが悪かっただけですのでお気になさらず」
「お、おう・・・・・」
「ソアヴェさん? ・・・やっぱり、朝食もお手伝いした方がよろしいでしょうか」
「良いのですよピナ様。今日はたまたまですから」
「そ、そうですか・・・」
シャル様には澄ました顔で、ピナ様には心からの笑顔で対応した私は、一度厨房へ引っ込む。
「・・・・・・はぁ。何をしているのよ、私は。シャル様とピナ様が幸せそうなのだから、それで良いじゃない」
分かっている。素直に二人を祝福出来ないのは、まだこの胸に抱く想いを割り切る事が出来ないからだ。
でも、二人の幸せを願っているのも間違い無く私の本心。シャル様はもちろんのこと、二人で過ごす時間が増えれば増えるほど、私はピナ様にも親愛を抱きつつある。
私に実の兄弟や姉妹は居ないけれど、妹の様に彼女のことを思っている自分が居る。
・・・・・・とは言え、ああも露骨にイチャつかれると、やっぱりイライラしちゃうわ。
「はぁ〜〜〜」
「ソアヴェ」
「へ? シャル様?」
と、私が二度目の深いため息を吐き出していると、心配そうな顔をしたシャル様が厨房に入って来る。
「本当に大丈夫か? 寝起きが悪かったと言っていたが、もしかして、怖い夢でも見たか?」
「は? い、いえ、別にそう言う訳では・・・」
完全に見当違いなのだが、本気で心配している彼の言葉に、私は思わずしどろもどろになってしまう。
「そうか・・・。なら良いが、お前は俺を気遣ってくれる分、自分のことを疎かにする時があるからな。寝起きでも何でも、調子が悪い時は遠慮無く休めよ。お前に倒れられたら、俺は気が気じゃ無くてろくに仕事も手に付かんだろうからな」
「っ! ・・・・・・本当に、この無自覚女たらし魔王様と来たら」
苦笑しながらそんなことを恥ずかし気も無く言ってしまうシャル様に聞こえないよう、私はぽそりと愚痴を零した。
「ん? 悪い、聞き取れなかたった。何て言ったんだ?」
「べ、別に何でもありません! それより、ピナ様を放ったらかしてこんな所で油を売っていて良いのですか?」
嫌でも浮き足立つ心を悟られぬよう、私はそんな憎まれ口を叩きながらそっぽを向く。・・・・・・こういうところが、私は可愛く無いのでしょうね。
「うっ!? そ、それはあれだ。彼女とは昨日も一緒に茶を飲んだし、あまり俺と一緒に居ても気を遣わせるばかりだろうからな」
「・・・ヘタレ」
「ぐふっ!? ・・・ま、まあそれだけ言える元気があるなら大丈夫そうだな。それじゃあ俺は、そろそろ魔王城に向かうとしよう」
シャル様はそう言うと私に背を向け、食堂を後にしようと歩み出す。
「あっ、シャ、シャル様!」
思わず呼び止めてしまった私の方を、再び心配そうな顔でシャル様は振り返る。
「ん? どうしたんだ? やはり調子が悪いのか?」
「い、いえ! その・・・・・・行ってらっしゃいませ」
「・・・ふっ。ああ。行って来ます」
今度こそ歩みを止める事無く、シャル様は食堂から出て行った。
「・・・・・・もうっ!」
シャル様の姿が見えなくなると、私は地団駄を踏みながら熱くなった頬を冷ますように両手で挟み込んで暫くその場に蹲っていた。
まったく、本当に困った魔王様なんだから。・・・・・・馬鹿。
敢えて言おう、今回のサブタイはガチのパクリであると! でも某ダンジョンに出会いを求める系の作品はもっとストレートにパクってたからセーフだよね!(←もはや色々アウト)
いやぁ〜シリアス回が続いたものですから全力でふざけたくなってしまいました。面目無いw
とは言え、魔王様と姫君の関係性が進めば進むほどメイドさんがもやもやしてしまうと言うのは、もはや必然でございますので、作者的には本当にご注文だったのですよ〜。
と言う事で、今後もちょくちょくサブタイ等で悪ふざけする事もあると思いますが、内容は真剣に書いておりますので、見放さないで頂けると嬉しいです!
サブタイ切りせずに読んで頂いた皆様ありがとうございました!
 




