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〜魔王じゃなくて良い?〜


「「・・・・・・」」


 ソアヴェに言われるがまま、休憩室に訪れた俺とピナ姫は、無言のまま向かい合っていた。


 だが、その無言の意味は、今までのそれとは異なる。


「失礼致します。お待たせしました」


 以前の茶の席ではいつもわざとらしく勿体(もったい)付けてから茶を運んで来たソアヴェが、今日に限ってはすぐに用意して俺たちの前にカップを並べる。


 注がれた茶はどこか草原を思わせる香りで、塞ぎ込んでいた心にそよ風が舞い込んで来た様な気がした。


 一度カップを傾け、温かくほろ苦いそれを乾いた喉に流し込んだ俺は、意を決した様に口を開く。


「・・・・・・その、ピナ姫。先ずは謝罪をさせて欲しい」


 どうにか口を開いた俺の様子を見て、ソアヴェは淡く微笑み、無言で一礼して部屋から下がる。

 

 ・・・・・まったく、どこまで優秀なんだよ。うちのメイド長は。


「・・・?」


 まだ涙に濡れた瞳のまま、少しだけ首を傾げるピナ姫に、俺はゆっくりと(わだかま)った思いを言葉にしていく。


「今日、配下から受けた報告に、気がかりな物があってな。それで、考え事をしたり、感傷的になったり、とにかく頭の中がごちゃごちゃしていて、せっかく夕食を用意して出迎えてくれたお前に・・・いや、()()()()、不誠実な態度を取ってしまった。だから、謝らせてくれ」


 俺はそう言って立ち上がり、彼女の前に(ひざまず)いて頭を下げる。


「っ!? あ、頭をお上げくださいシャル様! 私の方こそ、色々と失礼な事を勢いに任せて言ってしまって・・・」


「それは良いんだ。ピナ姫、あなたはきっと、とても清らかな心の持ち主なのだろう。だから、他者の痛みを敏感に感じ取り、涙を流すことが出来る。・・・・・・同じなんだ。俺を育ててくれた義母も、そういう方だった」


「そんな・・・私は、ただ何も知らないだけの名ばかりの姫に過ぎません。お会いした事はありませんが、シャル様をこんなにも優しく育てられたお義母様と同じだなんて、とても恐れ多いです」


「恐れ多いなんて言ってくれるな。きっと、あの方はあなたに会う事があれば、喜んで親しくなろうとするだろう。そしてきっと、与えられなかった親の愛情を補って余りある程に、温かく大きな愛で抱きしめてくれる」


「・・・本当に、とても素敵な方なのですね」


「ああ。・・・・・そして、俺はそんな方を、まだ幼くか弱かった妹と共にこの国から追放したんだ」


「っ・・・・・・もしかして、シャル様が泣きそうなお顔をされていたのは、そのお話が関係あるのですか?」


 ピナ姫の遠慮がちながらはっきりと問いかける言葉に、俺は思わず苦笑が漏れる。


「ははっ。泣きそうな顔、か・・・。本当に、俺は情けない魔王だな」


「・・・・・・魔王じゃなくて、良いのではないのでしょうか」


「え・・・?」


「このお屋敷に居る間は、魔王シャンベル・ギブレイ様でなく、ただのシャル様として過ごされても、良いのではないのでしょうか? 私も、きっと、ソアヴェ様達もそう望んでおります。だって、私にこのお屋敷で好きに過ごして良いと、最初に言って下さったのは、シャル様なのですから」


「っっっ・・・・・・・!」


 その言葉と共に、濡れた瞳のまま微笑んだ彼女の顔は、まるで絵画でしか見たことの無い聖母のそれの如く美しくて、俺は、思わず溢れ出しそうになった涙を堪えるのに苦労した。


 そして、気がつくと俺の口からは、涙の代わりに自然と言葉がこぼれ出ていた。


「・・・・・・ピナ姫。少し長い話になるが、聞いてくれるか? ただのシャルだった俺が、魔王になった日の、罪を背負った日の話を」


「っ! ・・・はい。あ、あの、ですがその前に、一つだけよろしいでしょうか?」


「ん? ああ、構わないが」


「そ、その・・・()()()、と呼んで頂けるのも、本当のお姫様のように扱って頂けているみたいで、とても胸が高鳴るのですが・・・で、出来れば、今まで通り、()()、と呼んで頂ける方が、距離が近く感じられて、私は嬉しいです」


「っ!? そ、そうか。そういう物なのだな・・・うむ」

 

 そう言って照れながら見せた彼女の微笑みは、やっぱり、綺麗だった。

・・・・・・ちょ、ちょっとだけイチャイチャしたっぽいので、許して下さいw


さて! 気を取り直して(勝手に)! 次回はいよいよ今まで深くは語って来なかった、魔王様が魔王様になるまでのお話を描きます!←(頭悪そうな文章でごめんなさい)


ただ、今回は今まで以上にじっくりと描きたいお話となっておりますので、恐らく何部かに分けて書かせて頂くと思います。


ごゆるりと、お茶でも飲みながらお付き合い頂ければ幸いです。

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