〜鈍感魔王は鬼畜メイドに弄ばれる!?④〜
「うん! 美味い! やはり疲れた時は、お前の作ってくれる食事に限るな」
「・・・・・はい。ありがとうございます」
食堂へ着くなり、すぐに食事を始めたシャル様は、一見とても上機嫌で、言葉とは裏腹に疲れすら全く感じさせない。
・・・けれど、その笑顔が作られた物である事を、私はよく知っている。
幼くして魔王になってしまったシャル様は、その重責を背負う為にご自分の心を徹底的に殺し、出会った頃は表情すらも失っていた。
私達と暮らす中で大分柔らかくはなられたけれど、その根本にある強すぎる責任感と、本当のご家族を国から追放した罪の意識に苛まれ続けるお心は、七年経った今も少しも変わっていない。
寧ろ時が経つにつれ、魔王としての責を果たし続ければ続ける程、シャル様はご自分をより追い詰めている様にすら思える。
・・・知っていたのに、感情に任せて何をしているのよ、私は・・・っ!
「ソアヴェ? もしかして、まだ機嫌が悪いのか?」
「いえ、そんな事は・・・あの、シャル様」
「ん? どうした?」
「私は・・・私達は、あなたに家族の様に思って頂けるなら、それ以上の幸福はありません」
「っ! ・・・・・・でも、俺は・・・」
「あなたに救って頂いたあの日から七年間、お側でお仕えして来た私達は知っております」
「知ってるって・・・何を?」
「シャル様は、呪われたギブレイの血にも、この国の闇にも屈しない、歴代最強最高の魔王様だという事をです」
「っ!?」
「・・・私達では、本当のご家族の代わりにはなれないと分かっております。ですが、今までも、これからも、私達はずっとあなたのお側に居たいと、心からそう願っております」
「・・・・・・」
「だから、俺なんか、などと仰らないで下さい」
「・・・・・良いのかな」
「え?」
「いや・・・ありがとう、ソアヴェ。でも、俺が魔王でいられるのは、お前達配下のお陰だ。お前達に支えられていなければ、とっくの昔に壊れていただろうな」
「シャル様・・・・・」
瞳から溢れそうになる熱い滴を必死に引っ込め、私はシャル様と真っ直ぐ視線を交わす。
「俺は、歴代の誰よりも恵まれている魔王だよ。・・・・・だから、彼女にも知って欲しいんだ。寄り添ってくれる、誰かの温もりを」
「っ!」
そうか。だから、シャル様は・・・・・・。
「俺にはお前達が居た。でも、ピナ姫はずっと一人で孤独に晒され、人族にとって恐怖の象徴である魔王の貢物にされる為だけに生きて来たんだ。・・・そんなの、悲しすぎるだろ。ソアヴェのお陰で、彼女も笑顔を見せてくれる様にはなったが、それでもきっと、心の内に抱える寂しさや痛みはすぐに拭いされる物では無い」
「そうですね。お会いした頃のシャル様も、少しずつ笑顔を見せてくれる様にはなりましたが、今みたいに愉快なリアクションを見せてくれる様になるまでは数年かかりましたから」
「うぐっ・・・い、今それを言うか?」
「ふふっ。では、とっておきのお茶を入れて差し上げられるよう、今日からみっちり特訓しませんとね」
もう、迷いは無い。この方が望むと言うのなら、それを叶えるのが私の役目。・・・いえ、本懐なのだから。
「あ、ああ。でも、間違い無く上達出来ると思ってるよ。いつも最高の一杯を淹れてくれる、ソアヴェが先生なんだからな」
「なっ!? ・・・ま、まあ? それは当然ですが、シャル様のセンスが壊滅的という可能性もございますので、その時はお覚悟下さいね?」
「お、おう・・・・・・」
「・・・ふん」
・・・本当に、どうしようも無いほど優しくて、罪な魔王様なんだから。
何だか今回は大分シリアスみの強い回になってしまいましたが、次回はやっとこさタイトル通り、魔王様が紅茶の入れ方を習い始めます。お待たせしてすいませんw
因みに、劇中では「紅茶」の事を「お茶」とか「茶」と表現しておりますが、一応これにも理由がありまして、今のところ登場しているのは「紅茶」のイメージで描いている物なんですが、後々ハーブティーや中国茶、日本茶っぽい物も出して行こうと思っているので、ぼかした表現にしております。
一応、西洋風なファンタジー世界をイメージして描いているのでメインのお茶は「紅茶」なのですが、作者は重度のカフェイン中毒でお茶と付く物ならすべからく大体好きなので、色々出てくると思いますがご容赦をw
某赤髪の白雪プリンセス的なノリで、良い感じに和風なテイストも取り入れて行けたら良いなぁとかも思っております。
後書きが長くなってすいません。今後とも読んでいただけると嬉しいです!
 




