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〜出逢い〜

「何? 同盟だと?」


 厳かで低い、けれど、どこか若さを感じさせる声が、玉座の間に響き渡る。


 その声は、玉座に座り、禍々しい邪竜を模した鎧を纏う人物、魔王ギブレイの声だった。


 ここは魔族が支配する魔国、「ブルガーニュ」。


 魔国の中でも、取り分け武闘派、残虐で知られる国家だ。


 そして、その王城、すなわち魔王城に、かの魔国と戦争中の人国、「バルドー」から書状と共に使者が遣わされていた。


「・・・・・・はい。魔王様。我が国バルドーの国王は、貴方様の圧倒的力に平伏し、争いを続けるよりも、互いに益のある関係を結びたいと望んでおります」


 使者の顔はベールに隠れて見えないが、声からして恐らく女性、それも、かなり若い。


 だが、この場には魔王だけで無く、屈強な肉体や醜悪な相貌の魔族達も集まっている。


 歴戦の雰囲気と、玉座の間に踏み入る許しを得ていることから、恐らく皆ブルガーニュの幹部達だろう。


 もしうら若い女性だとすれば、この恐ろしい魔族達を前にして、声を震わせることが無いだけでも大したものだ。


「ふざけるな! そちらから仕掛けておいて、今更同盟だと!?」


「魔王様! この者を八つ裂きにし、今すぐかの国を攻め滅ぼしましょうぞ!」


「そうだ! 磔にして送り返してやれー!」


 しかし、女性使者の勇気も虚しく、その幹部達から反対の声が上がる。


 声、と言うより、もはや雄叫びに近い。


 玉座の間は一瞬にして叫喚に包まれた。だが・・・・・・。


「黙れ」


「「「・・・・・・」」」


 玉座に腰掛けたまま脚を組んだ魔王の一声で、一斉に静まり返る。


「それを決めるのは俺だ。貴様らは口を出すな」


「で、ですが、魔王様! こんな話を鵜呑みにすれば、我が国が人族如きの国に舐められる事に!」


「口を出すなと、俺は言わなかったか?」


「っ・・・・・・・・ぅ、ぁ・・・・・」


 魔王に顔を向けられただけで、どう見ても歴戦だと思われる角の生えた屈強な魔族は、張り上げた咆哮のような声を一瞬にしてしぼませ、その場に尻餅をついてしまう。


「ふん。使者よ、話はそれだけでは無いのだろう? 敗戦国が同盟を持ちかけに来たのだ、まさか手土産の一つも持たずに来た訳ではあるまい?」


「はい。恐れながら、魔王様のお近くまで寄らせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 使者はそう返事をすると、跪いていた体勢から立ち上がり、玉座を見上げる。


「貴様! 無礼にも程があるぞ!」


「よい。俺を害せる者など、どうせ居はしない。それは、()()()()()()()()()()()()()だろう?」


 使者を止めようとした者を始め、玉座の間に集まったほぼ全ての幹部達がその身を震わせた。


 まるで、過去に見た何かに怯えるように。


「っ・・・・・・ですが!」


「使者よ。こちらへ。他の者共は邪魔をするな」


 それでも食い下がろうとする幹部の一人を目で制し、魔王は使者を促す。


「はい。では、失礼致します」


 そう言うと、使者はゆっくりと階段を登り玉座の前ま歩を進め、直前で足を止めた。


 近づこうと思えば、一足飛びに魔王の懐まで詰め寄れる距離だ。


「聡明な魔王様の仰る通り、同盟にあたって、バルドー王から魔王様へ無条件に差し上げる献上品がございます」


「世辞はよい。品を見せよ」


「はい。・・・・・・では」


 そう言って、使者は自分の顔を隠すベールに手を掛ける。


 だが、そのまま固まってしまった。


 幹部達はその不審な動きに、何か呪術の類いかと疑い身構える。


 が、鎧兜に隠れて表情こそ窺い知れないものの、魔王は悠然と座ったままで余裕を崩しているようには見えない。


「どうした? 早く品を出せ。まさか、国に忘れてきた、とでも言うわけではあるまいな?」


「・・・・・・いえ、品は、こちらにございます」


 使者は少しだけ声を震わせたかと思うと、手を掛けていたベールを持ち上げ、その相貌を露わにする。

 そして、微笑んでこう言った。


「献上品は、()()()。バルドーが第四王女、ピナ・ノワールでございます。どうかお納め下さい。魔王様」


「なっ!?」


 実のところ、魔王は彼女自身が献上品であろう事を予想していた。


 魔国と人間国の間では稀だが、魔国同士、人国同士の間では、互いの王族に姫を嫁がせ、人質として預けることで停戦や同盟を結ぶ事も歴史上珍しくは無いからだ。


 故に、魔王が驚いたのは、献上品が姫だった事では無く・・・・・・。


(か、可愛い・・・・・・!!!!!!!!!)


 その姫、ピナ・ノワールの美しさに驚愕した、と言うか一目惚れしただけだった。


出逢ってしまった歪な二人。果たしてどんな物語を紡いで行くのでしょうか。

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