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〜距離感を掴めない魔王と姫君②〜 頂きます。


「お、おお・・・!」


 ピナ姫と共に食堂に来た俺は、席に着いてすぐ彼女に配膳された食事を目の当たりにし、感嘆の吐息を漏らした。


 まず目を引くのは、こんがりと香ばしく焼かれ、スパイシーな胡椒風味のソースを纏った羊の肉。


 次に、色とりどりの野菜と、ボイルされたエビの散りばめられた港町風なサラダ。


 そして、少し焦がしたチーズとタマネギが浮かぶ、食べ応えのありそうなスープ。


 どれも腹の空いた昼にぴったりな、食欲をそそる品々だ。


「こ、これを全部、お前が・・・?」


「はい・・・そ、その、お口に合うかは分かりませんが、魔王様はお若い男性なので、お昼はしっかりしたお食事がよろしいかと・・・大、丈夫そうでしょうか? 一応、ソアヴェさんにお嫌いな物は無いと伺っていたのですが・・・」


「あ、ああ! どれも美味そうだ!」


「良かった・・・・・・」


「っ!?」


 ホッとした様に胸を撫で下ろすピナ姫に、俺は再び胸の高鳴りを抑え切れず、彼女から全力で顔を逸らす。


「ど、どうされました? ・・・やっぱり、あまりお口に合わなそうでしょうか?」


「そ、そんな事は無い! 断じて無い! え、ええと、冷めては勿体無いし、早速頂こう!」


「あ・・・」


 俺は不安そうに見つめるピナ姫の前で、どうにかテーブルマナーを維持しつつも、夢中で彼女が作ってくれた品々を口に運ぶ。


「っ!」


 そして、暫くひたすら無言で食べ進めた。


「・・・・・・ふぅ」


「ま、魔王様?」


 気が付くと、俺はテーブルに並べられた全ての料理を平らげていた。


「美味い・・・」


「え・・・?」


「ピナ姫、お代わりの用意はあるだろうか?」


「へ? あ、えっと、はい! すぐにご用意します!」


 その後も、彼女が用意してくれたお代わりを一瞬で平らげ、俺は満足の溜息を吐いた。


「ふぅ・・・・・・」


「そ、その、お口に合いましたでしょうか?」


「ああ。美味かった。疲れた身体に染み渡る、最高の昼食だった」


 俺は繕う事も忘れ、率直な感想を口にしてしまう。


「! ・・・そ、そうですか。それは、良かったです」


「っ!? う、うむ・・・・・・」


 とても遠慮がちにだが、俯いた彼女は微笑んでいる様に見えた。・・・れ、冷静に考えたら、俺は何を偉そうに感想なんて述べているんだ? でも、なんかピナ姫も嬉しそうだし、これで正解、なのか?


「あ、あれだな! それにしても、ピナ姫がここまで料理上手だったとはな!」


「い、いえそんな、上手だなんて・・・その、母国ではずっと自分で作っていたので、少し心得があるだけなのです」


「あ・・・・・・」


 し、しまったー!? そう言えば、バルドーでは王族として扱われていなかったんだよなぁ。


 完全に地雷を踏み抜いてしまった・・・・・・。


「そ、その、素晴らしい事だと思うぞ! うむ! 料理が出来る姫君なんて早々居ないからな!」


「あ、ありがとうございます・・・・・・」


 フォローど下手か! いや下手なんだけども! ほらピナ姫黙り込んじゃったじゃん! くっ、死にたい・・・。


「あの、魔王様」


「ん!? な、何だ?」


「この後、お時間はありますでしょうか?」


「あ、ああ。特に予定は入れていないが」


「で、では、その、よろしければ・・・・・・お茶を、ご一緒頂けませんか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・へ?」


 え? 何? 何が起こった? オチャ? OTYA? 


「そ、その、ソアヴェさんが、美味しいお茶とお菓子をご用意して下さっているのですが、もしお嫌でなければ・・・・・・一緒に、召し上がって頂けませんか?」


「っ!?」


 こ、これは夢か? 俺が、彼女から茶の誘いを受けている、だと・・・?


「・・・やっぱり、お嫌ですよね。そうですよね」


「は? え、いや、じゃなくて! 嫌じゃ無い! 断じて嫌じゃ無いぞ! ただ、少し驚いてな・・・その、お前は俺のことを怖がっていると思っていたから。まあ、それが当然なんだが・・・・・・」


 ・・・我ながら、魔王の座に着いてからこの七年と少し、内政においても外交においても、力をひけらかす強引な手段ばかり使って来た。・・・・・・奪った命の数も、決して少なくは無い。


 憎悪、嫌悪、恐怖、畏怖・・・数え切れない程の負の感情を向けられるのが、俺の魔王としての在り方だ。


「・・・・・・私は、もう魔王様を怖れません」


「何・・・?」


「魔王様は、私が生まれてから出会った方の中で、最もお優しい方です」


「う、生まれてから!?」


 余りに大袈裟なピナ姫の言葉に、俺は思わず大声で聞き返してしまったが、彼女はコクリと頷く。


「・・・・・・私の様な政治の為に押し付けられた姫を、安らぎの場であるこのお屋敷に迎え、温かくもてなして下さいました。でも、私はそんなあなた様に、とても無礼な態度を取ってしまった・・・」


「別に、そんな事は無いだろう。寧ろ、良くあそこまで俺や幹部どものプレッシャーに耐え、使者として役目を(まっと)うしたと感心した位だ」


 俺は本心からそう言うも、ピナ姫はブンブンと首を横に振り、より申し訳なさそうに俯く。


「私は、本当に取り返しのつかない行いをしてしまいました。・・・ですが、もし、もし魔王様がお許し下さるなら、私に、あなた様のことを知る機会を頂きたいのです」


「俺の、こと・・・?」


「はい。魔王様の・・・シャル様の事を、私は知りたいのです」


「っ・・・・・・」


 あまりに真摯な瞳で訴えてくる彼女を、俺は思わずまじまじと見つめてしまった。


 ・・・・・・目を背けられた事はあっても、知りたいなんて言われたのは、初めてだな。



二人してひたすらそわそわしてる彼と彼女ですが、やっと二度目のお茶が出来そうです。・・・サブタイトルの伏線?回収が出来るのはもう少し先になりそうでごめんなさいw

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