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〜ただいま〜


ピナ、そして義母様の救出は、多くの懸念と新たな問題を抱えたままだが、一先ず、達成した。


ロマネはともかく、バルドー王ネロと、聖母プリムの思惑も問いただしたいところだったが、魂を二分したばかりのピナにこれ以上負担をかけさせたくは無かったし、城に置いてきたピニーの事も気掛かりだったので、帰還を優先する事となった。


協力してくれた六帝天の面々も、感謝の意を伝えると快く送り出してくれた。

和君ジン殿に至っては、片割れのプリムが迷惑をかけたからと平身低頭して帰りの護衛にまで名乗り出てくれたが、流石に一国の王を護衛としていきなり連れ帰る訳にもいかないので、丁重に断った。あの様子だと、彼女はやはり、何も知らされていなかったのだろう。


因みに、当初プリムの護衛を任せた獣王コラン殿は、王城地下まで彼女を送り届けた後、ピナ・・・・いや、白姫によって魔法で眠らされていたようだ。

起き抜けに情報の洪水を受けて泡を食っていたが、状況が飲み込めると、真っ先にプリムとバルドー王の監視を買って出てくれた。

最悪連れ帰って拘束するしか無いと思っていたので、素直に彼女の厚意を受けることとした。ジン殿も名乗り出てくれたが、一応プリムの身内でもあるため、遠慮してもらった。


バルドー王と言えば、その娘達。

白姫から性格ごとに切り離された人格を宿していた、第一王女ムニエ、第二王女シュペット、第三王女ブラン。

幸いにして、人格を宿していた期間は儀式を本格的に始めたごく最近と、過去に必要に応じて僅かな期間のみだったらしく、本人達の人格も人生も、全て奪われた訳では無かった。


俺達がバルドーを発った時にはまだ意識を失っていたが、目を覚ました彼女たちのこれからの人生が幸福なものとなるよう願い、その為ならいくらでも力を貸すと、コラン殿に言伝を頼んでおいた。

・・・・・後のことは気にするな、と。言った責任は取らないとな。


そしてピナと義母様・・・・・・と、置いていく訳にはいかなかった為不本意ながら、拘束したロマネを連れて、俺はブルガーニュに帰還したのだった。

そう言えば、ジン殿がロマネを氷漬けにして拘束を強固にしましょうかと提案してくれたが、持って帰るのに苦労しそうだったので遠慮した。

プリムのした事で彼女が罪悪感を感じる必要は無いのだが、どうやらとても気を遣われているようで、逆に申し訳ないな。






・・・・・・と、ここまでが、()()()()()()()()()()()()()()()俺の回想な訳だが。


「あ、あの、シャル様? そろそろ入らないと、流石に不審に思われてしまうのでは・・・・・」


「うん、いや、まあそうなんだが・・・・・その、ちょっと魔王城に忘れ物してきたから、まずは二人だけ先に入って待っててもらおうかなと」


いつまでも扉の前から動こうとしない俺の顔を遠慮がちに覗き込んできたピナから目を逸らし、言い訳にもなっていないような戯言で誤魔化す。


だが、目を逸らした先では感情の伺えない微笑みを浮かべた義母様が逃げ道を塞いでいた。


「あらあらこの子ったら。心も身体もすっかり成長したと思っていたのだけれど、ヘタレなのは相変わらずなのね。ホント、厄介なところだけはあの人にそっくりで嫌になるわ」


「ぐっ!? か、義母様、ピナの前でそういう事を言うのは・・・・あと、似てません」


「そっくりよ。ヘタレてまともな謝罪も出来てないせいで、今も一人だけ魔王城の地下牢に居る誰かさんと、この中にいる大切な人達にどう謝ったものか考えあぐねて顔も合わせられない貴方は」


「くっ、 くぅぅぅぅ・・・・」


全力で否定したいのに、こればかりは全くもって反論できない。


そう。俺は義母様の言う通り、ソアヴェを始めとした屋敷の者達にどう謝ったものかと、ぐだぐだうじうじ悩みに悩み過ぎて今に至っているのだ。


いつの間にか、現実逃避してしまうほどに。


・・・・・・・・・・いやだって、散々心配かけた上に殆ど無視みたいな形でほったらかしてたのに、どのツラ下げて会えば良いと?


今思い返せば、俺の態度も行動も酷いものばかりで、穴があったら生き埋めにして欲しいと願いでる勢いの後悔がのしかかって来る。


特に・・・・・・ソアヴェには、なんて謝ろう。ピナが攫われてから、憔悴し切っていた俺の面倒を甲斐甲斐しく見ようとしてくれたのに、その悉くを無碍にしてしまった。


俺と言う奴はっ! 何ですぐ周りが見えなくなるんだ!? このバカ! ヘタレ! 偽りの魔王! 童貞拗らせ野郎!


あ、自分で言ってて悲しくなってきた・・・・・。


とは言え、いつまでもこうしている訳にもいかんし、うぅむ・・・。


「・・・・・むっ!? こ、この気配は!?」


と、再び硬直していた俺の正面、つまり扉の向こうから、勢いよくこちらに向かって近づいてくる気配を察知する。


因みに、ソアヴェ達配下の気配は屋敷にたどり着いた時点から扉の向こうにずっと感じていた。めっちゃ待たせてる。ホント申し訳ない!!


「あら、やっぱりこういう時は()()()の方が思い切りが良いわね」


「え、えっと?」


気配の主を察した義母様がクスリと微笑み、事態が飲み込めないピナは首を傾げる。


・・・・・これはもう、観念するしか無さそうだ。


俺の躊躇いなど知ったことかと言わんばかりに、内側から勢い良く扉が開け放たれた。



「お兄様っっっっっっっ!!!!!」


「がはっっっっっ!?」


そして、凄まじい衝撃が俺の鳩尾を襲った。


「お兄様っ! お兄様っ! お兄様ぁっ!!!」


「ゴフッ!? ピ、()()()、ちょ、待っ!?」


義母様によく似た紫がかった黒髪を振り乱しながら、愛しい我が妹が胸に何度も頬擦りしてくる。


それ自体は非常に愛らしく、彼女を散々放ったらかしにしていたこの愚兄には勿体無い最高のご褒美なのだが・・・・・・。


「ぐぅっ!? あ、あの、ピニー? 嬉しいんだが、も、もう少し力を・・・あがっ!?」


華奢な細腕で抱きしめられている筈の俺の胴体が、まるで万力で締め上げられているかの如く、ミシミシと悲鳴を上げる。


感情が昂っているのか、恐らく魔力の制御が出来ず無意識に腕力を引き上げているのだ。


「いやです! もう離れません! ピニーはお兄様のお側から二度と居なくなったりしないと誓ったのです!!」


「あぐぅっっっ!? 分かった! 分かったから! だからせめて少しだけ力をぬ、抜い、て・・・・あっ」


ま、不味い、多少回復したとは言え、元々満身創痍な上、完全に油断していた無防備な肉体に急激な負荷がかかっているせいか、い、意識が朦朧と・・・・・・。


「ピニー? それくらいにしてあげないと、今度こそ大好きなお兄様と永遠のお別れをする事になるわよ?」


「・・・・へ? お母様?」


声をかけられてようやく義母様の存在に気が付いたピニーは、反射的に腕の力を抜いてくれた。


「っはぁっ!? はぁ、はぁ・・・・・・あ、危うく、母さんが残してくれた魂の残滓まで使い切る所だった」


「お、お兄様っ!? 申し訳ありません! 私、お兄様をもう離すまいと無我夢中で・・・・」


「だ、大丈夫だ。気持ちは痛いほど伝わってきた(物理的に)から、本当に。はぁっ、はぁ」


ぜぇぜぇと肩で息をする俺の背中を、ピニーは必死の形相で

撫でてくれる。




「・・・・・・・・シャル様」




と、そんな情けなさ全開の俺の頭上から、温度の無い声が降ってきた。


「え? あ・・・・・・・ソ、ソアヴェ」


思わず間抜けな顔で見上げてから、俺は凍りつく。


だって、初めて見たんだ。



彼女の、泣き顔なんて。



「シャル様、ピナ様。ご無事で何よりです・・・・・・・・本当に。本当にっ」



涙と嗚咽を噛み殺しながら、深々と頭を下げ、彼女は、俺たちが最も聞きたかった言葉を口にした。



「おかえり、なさいませっ」



その瞬間、俺は自信の内から溢れ出る温かな感情の奔流に流されるまま、彼女を抱きしめようと立ち上がり・・・・



「ソアヴェさん!!」


「ピナ様!?」



立ち上がったまま、抱き合うピナとソアヴェを呆然と見つめた。



「ソアヴェさん、ごめんなさい! 私、貴方に酷いことをして、勝手に出て行ってっ」


「っ! ・・・あの時の記憶もあるのですね。でも、良いのですよ。こうして、帰って来て下さったのですからっ」


まるで生き別れの姉妹の如く再会を喜び合う二人を、その場に居た誰もが温かな眼差しで見守った。


・・・・・・うん。まあ、良いんだ。二人が笑い合えている今を取り戻せたんだから。たとえ伸ばしたこの手が行き場を失って、プルプル羞恥に震えてても。全然、全然気にしない。


「シャル? 貴方からも、言うことがあるんじゃ無いの?」


「うっ、わ、分かっています」


義母様に改めてせっつかれ、俺は一歩前に出る。


屋敷の奥で控えている配下達は、皆ただただ恭しく腰を折り、主の言葉を待っていた。


義母様とピニーは、優しげな眼差しで見守ってくれている。


ソアヴェとピナも落ち着いたのか、二人とも目の端に涙を溜めながらも、本当に姉妹の様なよく似た微笑みを浮かべいる。




・・・・・・そうだな。謝罪は後で幾らでも。それより今は、何よりも彼らに、()()()()()に、言うべき言葉がある。



「良くぞ、俺の留守を守ってくれた。お前たちに、最大の感謝を。そして・・・・・・」



気恥ずかしくて、むず痒くて、それでも、どうしても言いたくて。


溢れる思いの全てを、この一言に。




「・・・・ただいま!!」






前半は魔王様の回想ですが、ほぼ説明回のような感じになってしまったので読むのが面倒だった方、すいません(^◇^;)

某和君さんの残念さで真面目くささが中和出来ていれば良いなぁと思う次第でありますw


ここからは章のタイトル通り「家族」をテーマにしつつ、シリアスだった最近の章から抜け出して、序盤の章に近いギャグなんかも多めに交えながら書いて行くスタイルで行こうと思っております(ぶっちゃけシリアス疲れましたw)。


まだまだ重めの伏線もあるし、何より魔王様はこれから実母さんを生き返らせるというとんでもない課題に挑戦して行くので、ギャグばかりとは参りませんが、そこは自分もお読み頂いている方々も楽しめるよう、調整していければと思います。

少なくとも、前章までの様なずっと暗い感じにはなりませんので、作者と同じくシリアス苦手な方もご安心くださいw


長くなりましたが、最後に今話もお読み下さった皆様、読み続けて下さっている神様、ありがとうございました!!!




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