〜願いの果てに〜
「母さんを、生き返らせる・・・・・・? いや、待て、ノワールだと? まさか、母さんはこの国の!?」
俺は反射的に、ネロへと視線を向ける。
「・・・・・・血は繋がっておらん。だが、彼女は確かにこの国の王族だ。霊王として覚醒したペトラを、先代の王が強引に迎え入れた」
「それは・・・・・ピナの意思か?」
ピナの人格の一つだったムニエは言った。ロマネと母さんを引き合わせたのは自分だと。
それはつまり、俺というセントヴァンの器を造る為に、彼女が仕組んだと言う事だ。
「いや、彼女が私の義妹になったのは、ただの偶然だ。先代の王、私の父は、我が国が軍事的弱者である事に不満を抱いていた。故に、平民の身分でありながら、霊王として目醒めたペトラを王族に迎え入れたのだ。・・・・あの方の意思を汲み、ロマネと出会わせる為に動いたのは、この私だ」
当時のことに何やら複雑な思いでもあるのか、ネロは表情を曇らせる。
だが、そんな事はお構い無しと言わんばかりに、軽薄な声が割って入った。
「その辺の面倒な昔話は取り敢えず置いとけよ。もうあまり時間が無い。・・・シャンベル。完全に霊王の力をモノにした今のお前なら、そこに居る聖母と協力すれば、あいつを蘇らせる事が出来る筈だ」
「何の根拠があって・・・・・」
「今更だな。不完全とは言え、そこに居るだろ? 前例が」
そう言って、ロマネはピナへと視線を向ける。・・・・俺だってそのくらい分かっていた。だが、彼女の場合とは前提条件が全く違う。
「ピナは自らの意思で魂と肉体を封印していたんだ。それも、最初から復活するつもりで。他人を蘇生するのとは訳が違う。その証拠に、セントヴァンの蘇生には国一つ巻き込むほど大掛かりな術式を展開していた」
「それはあの男が魔力を喰う特異体質だから迂遠なやり方しか無かっただけだ。それに、自ら魂を封じたって条件なら、満たしてるだろ?」
奴は俺の心臓を指さす。
「・・・・・まだ、此処に居ると言うのか? 」
「居るさ。あいつは、俺の知る限り誰よりもしぶとくて、しつこい女だからな」
懐かしむように笑うその顔は、どこか泣いているようにも見える。
初めて見る愉悦以外のロマネの表情。きっと、母を蘇らせたいと言うのは本心なのだろう。
  
・・・・・・だと、してもっ。
「お前は・・・・お前は身勝手過ぎだっっっ!!!!!」
「がはっっっっ!?」
気が付けば、俺は硬く握り締めた拳で奴の顔を殴り飛ばしていた。
ロマネも今度は防ぐ事なく、壁に亀裂を生じさせるほど激しく吹き飛ぶ。たとえ魔族でも、常人なら死んでいてもおかしくない威力だ。
だが、俺は止まらない。
「だったら、初めからそう言えば良かっただろうが!?」
「ぐっっ!?」
激情に任せて、奴を言葉と共に殴りつける。
何度も、何度も。
「俺を覚醒させたいなら、手段なんていくらでもあったはずだ! 母の命を救いたいと言われて、拒むとでも思ったのか!?」
「がっ!?」
「どうして義母様やピニーまで巻き込んだ!? 一歩間違えれば二人まで失う事になったんだぞ!?」
「うっ、くっ・・・・」
「七年前に俺を魔王にする必要がどこにあった!? その時間でいくらでも犠牲が出ない方法を考えられるとは思わなかったのか!?」
「ごほっ・・・・・」
口から大量の血を吐き出し、意識朦朧となった奴の胸ぐらを掴み、俺は真っ赤に染まった拳を引き絞る。
「母さんを生き返らせろだと?・・・・俺が、俺がっ、あの日から、この七年間、どれだけ、どれだけ殺してきたと思ってるんだっ?」
  
我知らず頬を伝う雫も、震える声と共に溢れそうになる嗚咽。
こんな姿をこの男に見せている事すら悔しくて仕方がない。
「・・・・シャン、ベル・・・・・・・・」
血に溺れた口で奴が呟いた俺の名も、慟哭の叫びが掻き消す。
   
「今更、自分の母親だけ生き返らせるなんてそんな都合の良い真似、 出来る訳無いだろうがああああああああっ!!!!!!!!」
もはや殺意とすら呼べない感情の渦を乗せた拳は、このまま直撃すれば奴の頭蓋を砕き割るだろう。
それでも良いと、本気で思った。ずっと俺は、この男を殺したかったのだ。
そう、殺したかった・・・・・・なのにっ。
「・・・・・なんで、なんで、今更っ」
振り抜けなかった拳が、紅い雫を垂らしながら力無く落ちる。
「嗚呼・・・っああああああああああああああああああああっっっ!!!!」
言葉にならない感情が、ひび割れた声となって地下空間に木霊した。
  
・・・・・・・・俺は、どうすれば良いんだ。
 
結局新章にはせず、続きという形にしました。ここで終わるのは何だか気持ち悪い気がしたのでw
お読みくださった皆様、読み続けて下さる神様、ありがとうございます。
まだ暫くはまったり更新となりますが、お付き合い頂ければ幸いです!
 




