3話:回想と追放
2020/08/19
1~3話を大改修し、1話分挿入しております。
4話(旧3話)以降は同じなので、そこまで読んだ方は問題ありません
旧1~3話途中の方へ。大変申し訳ございません。シーンの順番が変わっているのみで、新たな情報が増えているという事はありません。気になる方はもう一度1話から読んでもらえれば幸いです(そのまま読み進めても全く問題ございません)
以上、ご理解よろしくお願い致します
僕は泣きながら――思い出していた。
なぜ、チームを抜けたか。
なぜ、ソロでのダンジョンに潜るようになったかを。
☆☆☆
「僕――このチームを抜けるよ」
A級ルインダイバーチーム【アルビオン】の拠点内にある作戦室に、僕の声が響いた。
僕の前のテーブルにはこのチームの幹部連中が座っており、僕の発言を聞いて全員が顔を見合わせた。それぐらいに僕の発言は突飛で、彼らにとっては信じがたい事のようだった。
「お、おい何を言っているんだよアヤト。このチームはお前が立ち上げたチームだろ!? なんでリーダーであるお前が抜けるんだよ!」
古株のメンバーであり、Aランクダイバーである金屋アツシが声を上げた。
「アツシの言う通りだ。確かに先の戦闘で、アヤトに落ち度はあったかもしれない。だが結果全員生き延びた。それで良いじゃないか。アヤトだけの責任ではないだろ」
そう言ってくれたのは同じく古株のメンバーでAランクダイバーである室田ショウジだ。
彼の言葉で、僕は先のダンジョン内での戦闘を思い出した。
事はとてもシンプルだ。僕の実力不足のせいで、チームはピンチに陥ったのだ。A級チームなだけあり、メンバーのほとんどがA~Cランクなのに対して、僕だけは――Fランク。つまり最底辺だ。
僕は腰に差していた、まだ覚醒していない【悔恨の柄】をテーブルの上へと投げた。
「これが理由だよ。今までは僕がこのチームの創設者だから、リーダーだから、と誤魔化して見ない振りをしていたけど、これ以上はもう無理だ。間違いなく僕はこのチームのお荷物になっている。今だって僕に気を遣って、浅い階層でしか活動出来てないだろ? そんなんじゃいつまで経ってもこのチームの目標であるウメダダンジョン踏破なんて出来ない」
オオサカ地区ウメダにある最深最悪のダンジョン――通称ウメダダンジョン。そこはまさに迷宮で、手強いマモノも多く、いくつものルインダイバーチームがそこで命を落としている。このチームなら必ず踏破出来ると信じていたけど、僕のようなお荷物がいればそれは夢のままどころか悪夢で終わってしまう。
「既に、僕が担ってた斥候やダンジョン内の構造把握も他のメンバーが出来るようになってきた」
「だったら、地上での裏方に徹してだな……勿論報酬はこれまで通りで……」
アツシの言葉はもっともだ。実力不足の僕はダンジョンに潜らずにチームの裏方として役割を果たせばいい。だけど、僕は力無く首を横に振った。
「アツシ……知ってるだろ。僕はダンジョンに潜りたいんだ。だけど今のままでは足手まといにしかならない」
それが我が儘なのは分かってる。実力もないのに潜りたがるルインダイバーは自殺志願者と同義だ。
だけど、それでも僕には意地があった。
古参メンバーはともかく、それ以外のメンバーが陰で僕の存在を疑問視している事は僕は知っている。
それを聞き流して、これまで通りこのチームに居座れる自信と余裕がもう僕にはなかった。
「アヤトのその固有武装も……きっと何か仕掛けがあってだな! もう少し色々やってみようぜ!」
アツシがそう言ってフォローしてくれるが、その仕掛けとやらがこの筒にあるとは僕には思えなかった。
アツシが腰に差している拳銃型固有武装、ショウジが背負っている盾型固有武装、どちらもAランクダイバーに相応しい力を秘めている。
そんな中、僕のダイバーランクは未だにFランク。
固有武装とは、マモノのコアを素に作るルインダイバー専用の武器だ。最初に作った時は皆似たような形の武装になるが、使っているうちに使用者の願望や素質、戦い方によって独自の形に進化していくのだ。
かつて僕にルインダイバーとしての生き方を教えてくれた師匠は僕が作った固有武装を見て、これは【悔恨の柄】という珍しい固有武装で、将来必ず君の役に立つから大切に育てなさいと言ってくれた。
だけど、刃すらないし、出来る事と言えばせいぜい投げつけてマモノの注意を引き付けられるぐらいか?
そんな物でどうやってマモノと戦えばいいんだ? そうやって育てればいいんだ?
肝心な事を教えてくれる前に師匠はあっけなくダンジョンで死んだ。
その後も、僕が常に抱き続けてきたその疑問に、結局僕は答えを見つけ出せなかった。
「僕は、このチームならウメダダンジョンを踏破出来ると信じてる。僕がいなくてもチームが回るように準備はしたし致命的なミスが、取り返しのつかない失敗が、起きる前に僕は抜けるべきだとこのチームのリーダーとして、判断した。僕は僕をこのチームから――追放する」
「追放って……嘘だろ……」
「それに忘れたのか? このチームのモットーを。なあ、そうだろ、ナナ」
僕は僕から一番離れた席、つまり作戦室の入口近くの壁に背を預けている女性にそう声を掛けた。
その女性の長い黒髪は腰まで届いており、整った顔は無表情だった。ダイバースーツに、腰には刀の柄だけを差しており、一見すると僕の固有武装と似た見た目だが中身には雲泥の差があった。
彼女は刀型固有武装【光鱗】を持つ、僕の幼馴染みにして、僕と一緒にこのチームを立ち上げたSランクダイバー、城山ナナだ。
僕の言葉を聞いて、彼女はゆっくりと口を開いた。
「“来る者拒まず去る者追わず”、よねアヤト」
「そう。いつか、こういう日が来るって分かってたろ?」
最初は良かった。ナナと一緒に悪戦苦闘しながら小ダンジョンを攻略し、仲間と出会って……。そうしていつしか僕とナナの作ったチームはこれほどの大所帯になってしまった。最初は皆、僕と同じFランクだったのに潜るたびに強くなって帰ってきた。
そして僕は浅い階層で、強くなったメンバーに手伝ってもらいながらマモノを倒し続けたが、僕の固有武装は一切強くなる気配がなかった。メンバーは諦めずにやれば強くなると励ましてくれたが、いつしか僕はそれすらも時間の無駄、チームの停滞だと割り切って、斥候や案内役としてサポートに徹し始めた。
僕が劣等感と諦観と嫉妬に、何度も飲み込まれそうになっていたのナナは知っている。
だからナナは短く僕の問いに答えた。
「ええ。思ったよりも遅かったぐらい」
僕を止める気配のないナナを見て、アツシが慌てて立ち上がった。
「ちょ、まってくれよ! ナナも止めろよ! そもそもアヤトお前これからどうするんだよ! まさかルインダイバー引退する気か?」
「続けるよ勿論。僕らみたいな孤児には、この世界で他に生きる道はないからね。まあのんびり、独りで小ダンジョンでも潜るよ」
「でもよお……ソロは危険だって……お前がそう言って、俺をここに誘ってくれたんだろうが……」
絞り出すような声をアツシが出した。ああ、そういえばそうだったなあ、懐かしい。
「俺達の言葉に耳を傾けるつもりはないんだなアヤト」
ショウジがまっすぐに僕の目を見た。これまで僕の我が儘をいちばん聞いてくれていたのはショウジだった。僕が頑固な事も良く分かっている。
「最後まで我が儘言ってすまない。リーダー失格だね。これからはショウジとナナで指揮を執ってくれ……今まで通りにね」
「……分かった。なあアヤト、いつでも戻ってきて良いんだからな。いらん意地を張るなよ」
「分かってるさ。もう既に私物はまとめてある。あとはこの身一つだけだ。それじゃあみんな、武運を」
そう言って、僕はメンバーからの別れの言葉に答えながら、作戦室から出ようとした。
扉の横の壁に背を預けたままのナナが視線を向けすらせずに、僕にしか聞こえないほど小さな声で囁いた。
「諦めてないんでしょ?」
「……ああ」
「待ってるから」
「うん」
それだけで僕らには十分だった。
こうして僕は、A級ルインダイバーチーム【アルビオン】を抜けた。その後、僕は日々の食い扶持を稼ぐ為にダンジョンに潜り続けた。チームリーダーの重責から解放されたおかげで、僕はようやく自分を強化する事について専念できる。
僕は【太陽の塔】でひたすらにゴブリンを狩っていたのだ。
ゴブリンは子供ほどの背丈の人型のマモノだ。緑色の皮膚で、右手と左右の目だけが機械で出来ており、その機械腕は左手に比べて長く太く、金属製の棍棒を携えていた。
ゴブリンのコアでも売ればそれなりの値段になるので、ソロダイバーの僕はありがたく頂戴する。
そういう事もありマモノを倒す際、コアは出来れば確保したい反面、コアの場所が個体毎に変わるのでどうしてもソロだと賭けのような形になってしまう。戦闘中にコアを砕いてしまうと、得られる物は何もなくただの骨折り損だ。もちろん怪我したり死んだりするよりはマシなので、コアを狙って倒すのも必要な事なのだ。
まともな固有武装があればもっと楽にこなせるのだが……残念ながら僕にはそれが出来ない。僕に出来る事と言えば、ひたすらコアを稼いで、固有武装を作り続けるしかない。これまで何十本と作ったが全てハズレだった。だけど、その先に当たりがないとも限らない。それぐらいしか……僕には望みがなかった。
根気のいる話だし、無駄骨に終わりそうな僕の強化にこれ以上チームの手を煩わせたくなかった。僕の作ったチームはもっと上に行けるチームだ。だから僕は――自らを追放した。後悔もないし、これで良かったと思っていた。
風の噂では、【アルビオン】はウメダダンジョンの中層を突破したらしい。
なのに、僕は無力のまま――だった。
だけど今は違う。
今、僕の手には力がある。
【回帰に至る剣】
ナナ……みんな……僕、強くなるよ。そしていつか――彼らと肩を並べて戦いたい。
そう思ったのだった。