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面倒くさがりなので、受け入れます。

作者: 夏月 海桜

相変わらず、ふと思い立った、思い付きの話。だからなんだって内容。

単に面倒くさがりな女の子が婚約破棄したいって言われたら、どんな反応をするかなぁって考えたら、こんな話になりましたって内容。

「済まないが、婚約を破棄して欲しい」


随分と丁寧な言い方だが、白紙でも解消でもなく破棄って言ってる時点で失礼だよね。


でも、まぁ、いっか。


「かしこまりました」


私がアッサリと了承すると、彼が驚いたような表情になる。……なんで。


「り、理由は訊ねないのか?」


「家同士で結ばれた契約を破棄すると言う以上、相当な理由があるのでしょうね。もちろん話されるならお聞きしますが、既にご両親もご納得済みなのでしょう? となれば、我が家の両親にも連絡があるはず。その際には理由無しに破棄が出来ない事は、婚約をする際の書面で認めて両家の当主が署名をしていますから、当然、そちらのご当主から我が父に理由付きの破棄をする書面が提出されている事でしょう。ですから、家に帰って父から聞いても問題無いか、と思いまして」


淡々と私が理由を聞かない説明をすれば、彼は真っ青な顔で震える。えっ、なんで。


「そ、その、婚約破棄はそちらから言った、という事に」


「なりませんわね」


彼が馬鹿げた事を言うので、食い気味に否定しておく。私に破棄する理由が無いのに、何故、私から破棄を申し立てた事にならなきゃいけないのだ。

私の食い気味の否定に、彼が項垂れた。なんだかんだで10歳で結ばれた婚約相手。かれこれ6年の付き合いだし、こういった場合、大抵彼の独断で行動したと理解出来る。つまり、彼はご両親に破棄の話をしていないようだ。


そして、同い年の彼のこういった姿を見た私が、ため息をついて話を聞いて、何とかしてきた。例えば彼が自分の家の母親お気に入りの花瓶を割った時に、一緒に謝るとか。例えばこの学園に入学してから宿題が追いつかない彼なので、私の宿題を写させてあげたとか。

甘やかして来たツケ、と他人なら言うのだろう。


しかし。

これには私なりの理由がある。





面倒くさい。





という立派な理由が。

例えば花瓶の件だが、大泣きしている彼を宥める事そのものが面倒くさかった。泣きじゃくりながら話す内容が、くだらなくて面倒くさかった。そして話終わってからも、1人で謝るのが恥ずかしい、と言って、中々謝らない彼を説得するのが面倒くさかった。結果、一緒に謝るのが1番面倒が少なかった。


例えば宿題の件だが、宿題が多い! と叫ぶ彼を宥めるのが面倒くさかった。一緒にやっていて教えているのに分からない、と声を上げる彼が面倒くさかった。結果、私の宿題を丸写しさせるのが1番面倒が少なかった。それで理解出来ているのかどうかまでは、知らない。そこまで面倒くさい事をしたくない。


そうして面倒くさがりな私が、世話を焼いてきた事が、彼の中で困った時の私頼みになってしまっていた事には、薄々気づいていた。けれど「何でもかんでも私を頼らないで!」と諭す事さえ面倒くさかった。

結果が、コレだというのなら、婚約破棄を受け入れよう。だが、理由も無しに私から破棄して欲しいというのは、些か頼り過ぎでは無いだろうか。





あー、面倒くさい。

心底、面倒くさい。

こんな話し合いすら面倒くさい。




まぁ理由なんて聞かなくても分かるけどね。だって、ここは学園の生徒なら誰しも利用する食堂で、なんだったら、婚約破棄を申し立てた彼の声がそこそこ大きかったもので、昼休みが終わりそうなこの時間帯は、生徒も少なくなってきたので、わりと静かだったから、食堂に残っていた生徒達全員に聞かれている状況。

そんな興味津々の生徒達の中で、彼の背後には、最近彼と親密な女生徒が立っている。どう考えても、彼が彼女を選びたいから、私と婚約を破棄してくれって言ってるようなものでしょ。


「あ、あの、お話を聞けば、あなたは彼を好きじゃないみたい。だったら協力してくれてもいいと思うの」


「常識的に言わせて欲しいのだけど。私は婚約破棄を受け入れたの。でも、私に破棄する理由が無いなら、彼が自分の両親に話して、我が家にも連絡するのが当然。違うかしら」


「それはおかしいです! あなたは彼が好きじゃないんでしょう? それなのに、婚約者としてずうっと彼を縛り付けておいて、破棄に協力しないなんて」


私は大きくため息をついた。確かに、10歳で父から「今日から彼が婚約者だ」といきなり紹介された仲で、恋愛感情は一切無い。なんだったら、私は手のかかる弟的な感覚だ。彼も姉的な感覚かもしれない。

だから、彼に好きな人が出来たのなら、婚約を無しにしたい、という気持ちは構わない。応援もしよう。どうぞご自由に、とも思う。だが、コレはどうなのだろう。

恋愛感情が無くても、それなりの関係を築いて来た、と思った私の間違いだろうか。


私のため息に、彼の肩がビクリと震えたけれど、知った事じゃない。私は彼女に分かりやすく説明する。


「私と彼は、親同士が契約した婚約者です。内容は、さすがにここで言うのは憚られるから言わないですけど、お互いの両親も、私も彼も納得済みの婚約です。それを私が彼を束縛しているように言うなんて失礼でしょ」


「そ、そうは言っても、彼との間に愛情は無いのだから別に良いでしょう!」


なんだろう、この自分が正しいの、理論。愛は全てを解決する、と思い込んでいるタイプか。あまり目立ちたくなかったけど、ここまで注目されていては、今更だなぁ。


ホント面倒くさい。


話にならないから午後の授業の準備したい。もうすぐ予鈴も鳴りそうだし。だから、彼女に更に分かりやすく言っておく。


「午後の授業が始まるので、もう行きたいので、これが最後ですが。あなたは愛が全てと思っているようですけど、言動は失礼で最低ですからね」


「なっ! 私のどこが失礼で最低なの!」


「婚約者がいる男性と恋仲だ。と宣言している時点で、彼と浮気しています。でも愛し合っているから浮気しても構わないですよね? 婚約者である私に、愛が無いから浮気されるのよ! って言っているのと同じなんですよね。これのどこが失礼でも最低でも無いんですか?」


彼女は、目を大きく見開いて、パクパクと口を開閉している。理解出来ただろうか?


「更に言わせてもらえば、白紙や解消だって、私も彼も噂されるのに、破棄を申し立てられた私は、明日からこの学園で笑い者にされますね。婚約者に浮気されて破棄された惨めで哀れな女、と。そして、あなたは、婚約者がいるのに男性に近付いたふしだらな女。彼は婚約者がいるのに他の女と恋仲になった浮気者。挙げ句の果てには、自分から破棄を願い出ておきながら、元婚約者である私に、互いの両親に説明させる屑な男。と面白おかしく噂されますね。そんな目に遭わせておいて、私に全てを丸投げ? そこまで私はお人好しじゃないわ。自分達で解決しないくせに、私を責めるなんて、お門違いも良いところじゃないかしら」


私が論破すれば、彼は弾かれたように顔を上げて(それまでずっと項垂れていた)私をジッと見てくる。彼女の方は、言われた事が理解出来ているのか、いないのか、さっきから口を開閉するだけだ。

あー、予鈴が鳴ってしまった。


もう、こんな2人、放っておこう。午後の授業の方が大切だ。




あー、明日から面倒くさい状況に陥るの、ホント面倒くさい。




さて。なんだかんだ言ったけれど、取り敢えず、私の父には報告しておくべきだろう。彼が自分の両親になんて説明するのか知らないけど、あんな目立つ所で破棄宣言されてしまったのだから、私の両親に私が説明する義務はある。あとは知らない。


ああ、帰ってからのやり取りすら、面倒くさい。


グチグチ胸中で溢しながら、私は帰宅した父に全てを話せば、父はアッサリ頷いた。


なんでも、彼の家の人脈……要するにツテだ……もある程度になったから、商売に不利益にはならないし、彼の家が負っていた借金(元々彼の家に借金があり、我が家の金目当てで向こうから婚約を申し入れてきた。もちろん、その借金を我が家は用立てた)も、彼の家の商売が軌道に乗って、ある程度返済してもらっている、とのこと。


つまり、お互いの家に不利益が無いので、婚約を破棄しても問題無いそうだ。ただ、外聞が悪いので、解消の方で話し合う、と言ってくれた。


それならいっか。

私は父にこの話を丸投げした。

だって面倒だったから。

後日、婚約が解消になったよ、と父が言って来たので、私は了承して、他の婚約者を探そうとしていたのだが。


何を血迷ったのか、元婚約者が、あの時、彼女に色々と説明している凛とした姿の私に惚れたと言い出して近寄って来たので、ふざけんな! とグーで殴ってまで追い払う日々を過ごすという、そんな面倒くさい状況になるなんて、私は知らない。つうか、彼女はどうしたよ! と言ったら、別れたとか簡単に言う事になるなんて、私は知らない。




「二度と近寄ってくるな! このクズ!」




彼女と恋仲になったから破棄を宣言しておいて、やっぱり私に惚れたとか言い出す馬鹿はクズで良いと思う。なんて思いながら、学園で、私が叫ぶなんて面倒くさい事をするようになるなんて、私は知らない。

そんな彼女も新しい恋を見つけて、その新しい恋では上手くいってるなんて、私は知らない。

後日、彼女にばったり会ったので、彼について尋ねた。


「彼のことが好きだったんじゃないの?」


「なぁんか、思ってたのと違って。優しいから、彼こそ運命の人って思って近寄ったんだけど。彼も私の事好きって言ってたのに、結局、あなたが好きだとか言い出したし。私もその時には今の彼と出会ってたから、じゃあ別れましょってなったの」


結論。

恋愛をした事が無い私からみれば、彼も彼女もどっちもどっちなクズである。

彼女の新しい彼とやらに、少しだけ同情した。


これが恋愛なら、私は恋愛感情など分からなくていい。面倒くさい。

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