学校。
「こんなもんか?」
『ハル様、もう少し長く……』
「おーい、早くしないと遅刻しちゃうぞ。」
ヒロの声が聞こえる。
しかしまぁ女子の支度は面倒だ。
「じゃーん、どうだヒロ。可愛いだろ。」
女子の制服。
こんなものを着る日が来るとは……
「うん、いい感じ。緊張してる?」
「いや、ワクワクしてるよ。な、サクラ。」
『素敵です、ハル様。』
「サクラ?」
「あぁ、俺が春だろ?だから桜。いい名前でしょ?」
『お気に入りです。ありがとうございます。』
「くれぐれも前にいた世界の発音はしないように、いいね?」
「オッケーオッケー。じゃ、行ってくるよ。」
「……サクラ、頼んだよ。」
『お任せ下さい。』
……
……
外を出るとそこには見たことがない世界が広がっていた。
「すげー!!建物全部浮いてるよ。おっ、あれなんて木だ?見たことない。サクラ、人が空飛んでる。見て見て。」
『フフフ、ハル様は可愛いですね。』
「この形だからな。」
『いえ、大切なのは中身ですよ。』
「そうかな?お、なんかいい匂いするな。あっち行ってみようよ。」
『ハル様、あの食べ物はですね……』
……
……
『ハル様、ヒロ様から電話です。』
「ん、どした?」
《どしたじゃないでしょ、君どこにいるの。学校からまだ来てないって連絡が来たんだけど。》
「あぁ、サクラとお茶してる。」
《おバカー!!早く行きなさい!!》
あっ、切れた。
「しょうがない、もっと楽しみたかったけど行くか。」
『学校はこちらです。』
……
……
「でっけーー!!」
『ハル様、女性らしく。』
何階建てだろう。
敷地も先が見えないくらい広い。
「東京ドーム何個分あるんだろう……」
『32個分です。』
「お、おう……」
……
……
「で、どこに行けばいいんだ?」
『まず学長室に行きましょう。』
しかし広い。
見たことのない球状の建物や空に浮かぶオブジェ。
そしてなにやら向こうが騒がしい。
「なんかやってるよ、見に行こう。」
『ハル様、学長室に……』
「お、なんだろう。鬼ごっこでもやってるのかな?」
数人のグループが一人の生徒目掛けて追いかけている。
「これじゃ鬼ごっこの逆だよな。」
『ハル様、これは狩りの練習です。』
「狩りって……」
そう見れば納得がいく。
一人の生徒が必死になって逃げているのに対して、数人で甚振るようにして楽しんでいる。
「あれじゃ弱い者イジメだろ、止めないと。」
『ハル様、いけません。狩る側は恐らく文明人のクラスの方だと思われます。』
「それが理由になるの?」
『この世界がここまで発展したのは文明人の力によるものです。ですから文明人には逆らってはいけない決まりがあるのです。』
「……いや、無理だよ。止めないと。」
『ハル様……』
こんな一方的な行為を見て見ぬふりは出来ない。
するとグループの一人がこちらに気付いた。
「おい、誰だお前。勝手に入ってくるなよ。」
まずいな、しゃしゃり出ても言葉が話せないんじゃな。
とりあえず覚えた簡単な言葉で対応するしかない。
「私は転校生のハルだ。」
「転校生?そんなのいたのか。っていうかお前いい顔してんな。俺のペットにしてやるよ。」
うわー……絵に書いたようなゲスだな。
(文明人って皆こんな感じなの?)
『何千年も支配してきた立場ですから、この様な方が多いですね。』
「おい皆来いよ。いいカモがこっちにいるぜ。用が済んだらお前らにも貸してやるよ。」
舐め釣り回すような顔で皆こちらを見てくる。
女から見ると男ってのは気持ち悪いもんなんだな。
「いけない、アナタここから早く逃げないと……」
甚振られて体が傷だらけの生徒が話しかけてきた。
「私はハルだ、宜しく。大丈夫?」
(これ合ってる?)
『合ってます、勉強の成果ですね。』
「私は中等部2年のルイ。アナタ何をしにここに来たの?この状況分かってるの?」
あー、会話が出来ないって苦痛だな。
何て言えば伝わるかな……
「えー……私は助ける。」
「何言ってるの?アナタ殺されちゃうわよ?」
言葉が見つからない。
でもこの子を安心させたい。
だから俺は優しく微笑んだ。
『ハル様、敵が来ました。』
「お喋りは終わりかな子猫ちゃん。」
(ほんとゲスだな。)
するとゲスの周りがバチバチと唸り始めた。
まるで雷のような……
(これどうなってるの?)
『空気中の粒子を振動させて電気を作っています。』
(へー、そんな事出来るんだ。)
『高度な技術です。この者、手練ています。』
(あれ俺にも出来るかな?)
『ハル様の体には補助機能がついています。ハル様がイメージ出来れば可能かと。』
イメージね。
昔下敷き擦って静電気を起こしてたけどそんな感じでいいのかな?
……
すると一帯がバチバチと唸り始め、巨大な電撃が俺の周りを覆い出した。
「……えっ?」
ゲスが驚愕の表情でこちらを見ている。
「おー、こんな感じか。で、どうすればいいの?」
『あの者に向けて放てば良いのですが、あの者は炭と化すでしょう。』
本当はそうしたかったけど、後々面倒な感じがしたので、ゲスの真横に落とす事にした。
「どうやって放てばいいのかな。」
『イメージしやすいポージングや言葉などいかがでしょう。』
落とすイメージ。
俺は指をピストルの形にしてこう言い放った。
「ドーン!!」
瞬間まるで巨大な龍の如き雷がゲスの真横に落ちた。
ゲス、失禁して失神。
周りの連中はいつのまにかいなくなっていた。
「よし、こんなもんか。」
『素晴らしきご活躍です。』
「あの、ありがとうございます……でも、この人達に手を出したらマズいんじゃ……」
「大丈夫!!」
そう言って親指を立てその場を後にした。
「さて、何するんだっけ。」
『学長室です、ハル様。』
……
……
「この建物のてっぺんにいるのか。」
『急ぎましょう。』
しかし階段もエレベーターも無い。
中央にドーナツ型のオブジェらしきものがあるだけである。
「どうやって上に行けばいいのかな。」
『中央に立ってください。』
「こんな感じ?」
『念動力で動くようです。学生の訓練にもなる学校らしい移動手段ですね。』
「何となく分かってきたぞ、動けって念じればいいんだろ?……言葉で言ったほうが早いかな。動けっ。」
するとドーナツ型のオブジェは勢いよく上昇した。
「おー、すごいすごい。」
『最上階まで行ったら止めてください、でないとこのまま天井を破壊してしまいます。』
「任せとけって……止まれ!!」
オブジェは天井すれすれでゆっくりと停止した。
そして目の前には巨大な扉があった。
「いかにも一番偉そうな人がいそうな所だな。」
『ハル様、きっと聞こえてますよ?』
しかしこの扉、ノブもなければ押しても引いても開かない。
代わりに薄気味悪い顔が扉中央にある。
「なんか気持ち悪いな。」
《聞こえてるぞ。》
「うわっ、喋った……っていうか日本語分かるの?」
《当たり前だ、私を誰だと思っている。》
「ブサイク門番?」
《帰ってもらってもいいんだが?》
「うそうそ、冗談だって。」
《私はもう数百年はここで門番をしている。所謂この学校の名物だ。》
「それ自分で言っちゃう?」
『自意識が高いんですね。』
《……》
「ほら続けて続けて。」
《……これより先は力ある者しか入れぬ。私に全力で念力を注いでみろ。GランクからSランクで評価する。Aランク以上なら入るがいい。》
「へー面白そうだな。」
『ハル様、頑張って下さい。』
《ちなみに、ここ百年この扉を開けた者はいない。貴様如きに開けられるかな?》
「なんか口悪いな、コイツ。」
『多分先程の事を根に持っているんですよ。』
《……早くしろ。》
何となく要領が掴めてきたから自信がある。
俺はこの門番目掛けてありったけの力を注いだ。
《ドルルルルル》
「うわ、気持ち悪っ……」
『ハル様、見てはいけません。』
《Cランク!!》
「えっ!?まじ?」
《フッハッハッハッ!!粋がっていた割には大したことないんだな。まぁ謝るって言うんだったら聞いてやらなくもないんだがな。》
「なぁ、もう一回やっていいか?」
《何度やっても同じ事、無駄だ。帰れ帰れ。》
「今度は本気だぞ。」
ジャマー付手袋を外し気持ちを落ち着かせる。
建物全体が激しく揺れ辺り一帯は嵐になった。
《えっ?いや、ちょっ……聞いてない聞いてない。》
「うおぉぉぉぉお!!!!」
《ギャーーーー壊れちゃうーーーー》
『ハル様やっちゃえー。』
……
……
……
「……やりすぎたかな?」
『いい気味です。』
《ドルルルルル》
「一応やるんだ。」
《測定不能!!測定不能!!》
「……これってどうなの?」
《……癪だが私では貴様を測れない。入れ。》
巨大な扉が開いた。
学長ってどんな人かな。
『気合いれていきましょう。』