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僕のクラスの不登校が実はアイドルだった!  作者: M.H
一章 アイドル
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9話『春乃の悩み』

 材料が尽きかけていたことを思い出し、晴太はスーパーに寄り道。


 夕方の主婦に混じり食材を買ってから家に帰る。


 リビングのアナログ時計は午後五時を指し、そろそろ炊飯器のセット時間。


 珍しくリビングには春乃の姿があった。基本的にはお部屋大好きっ子なので用事がない限りは自室にいる。冷蔵庫に上体を呑み込ませていた春乃の背中に「冷気が逃げる」と声をかける。


「知らないしそんなの」


「今日はカレーにするか」


「なんでもいい……そんなことよりさ、春乃のコーヒーゼリー知らない?」


 春乃は冷蔵庫を乱暴に閉めて不思議な顔で問う。晴太は顎に手を添えてしばらく考える。


 勉強につかれた頭に糖分補給としてそれらしきものを流し込んだ覚えがないわけでもないが……ここはひとつ、知らんぷりを決め込んだ晴太。


「そんなおいしそうなもんあったのかー」


 白々しい晴太の演技に「おかしいなぁ」と春乃はそう言いながらリビングを後にしようとした。ピタッと引き戸に手をかけて足を止めた春乃が振り向き言う。


「ねぇお兄ちゃんさぁ」


「なんだ?」


 春乃が少し悩んだように眉を寄せた。晴太は兄として少し不安になった。あんな真面目そうな顔をするなんてきっと何かあったに違いない。晴太は兄として頼られているかもしれないことにちょっとうれしくなる。


「やっぱいいや」


「なんだよ」


「だってお兄ちゃん友達とか居たことないじゃん」


「はぁ? 友達なら二人いる……あと話すくらいの人なら――」


「――すっくな! よくそれで生きてけるね? 相当優しいんだねそのお友達……あれ買って来いとか言われてない? それ友達じゃないよ?」


「それ、つい最近言われたわ」


「やっぱり! それ友達じゃないじゃん! お兄ちゃんパシられてかわいそ! クスクス」


「いや、お前な?」


「は? ……まぁ、どうでもいいや」


 春乃は再び真剣な顔をスマホに向けた。晴太は苛立ちを殺しつつ、春乃のことが心配なので訊いておく。


「悩み事か? らしくないな」


「なんでそう思う?」


「しいて言うならお兄ちゃんもこの時期はそうだったから」


「あそ」


「進路で悩んでんの?」


「……まぁ……そうかも」


「春乃は勉強できるんだし〇成でもいけんだろ?」


「さすがにそれは知らないけど……でもたぶんお兄ちゃんが思ってるのとは違うよ、やっぱ」


「女子だなぁ」


「なにそれ」


 訊いておいてなんだが全く分からなかった晴太。兄妹と言え性別も違う、考えも違う。


 晴太はルーを投下して一気に立ち上がるカレーの香りを楽しんだ。


 まもなくしてごはんも炊け、食卓に並んだ。


 半分ほど食べてから春乃が口を開いた。


「ねぇ」


「なんだよ。相談なんて力になれねぇぞ?」


「友達が多いから、って理由で学校選ぶのって駄目かな」


「少なくともお兄ちゃんが先生だったらダメっていうな。けどまぁ良いんじゃん? 春乃は周りの偏差値に合わせて勉強しない、とかしないだろ?」


「……そりゃ、しないけど……でも。わかんない。私だけ勉強出来たら絶対ハブられるじゃん」


「そんなんならとっくに縁切られてんだろ……。いっその事新しい環境で質のいい友達つくりゃいいんだ」


 晴太は妙案だとばかりに手を叩く。そしてでかいジャガイモを口に運んだ。


「そんなのリスク高すぎるって」


「バカな学校行って周りに合わせて生きる方がリスキーだと思うけど」


「お兄ちゃん……」


「なんだ?」


「……お兄ちゃんの学校って、偏差値下から見た方が早いじゃん」


「うっせぇ……いいんだよ、友達いないから……」


「だよね、お兄ちゃんに友達なんているわけないよね」


 春乃はなぜか安堵した。それから黙って食べ進み完食後。


「中学の友達なんて永遠に友達するわけじゃないんだ、重要なのは高校の友達だ」


「だから、お兄ちゃん友達いないじゃん。全然説得力ない」


 すなわち晴太は磐木と友達、だからきっと永遠に友達で、将来安泰、アイドルと結婚。なんて……。ふと晴太はひとり皿洗い中に思う。


「あれ……アイドルって、恋愛禁止じゃ……」


 晴太の顔色は晴れた空のようだった……。つまり真っ青。雲もかかって蒼白。

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